05




 ショッピングモールの中をアリシアと走る。


 色んな店が所狭しと並んでいる。


 そしてその客はというと。






 「やっぱ新ステージって感じだな!!」




 人形たちである。


 ここは獣人間がのさばっていた街中と違い、球体関節人形しかいない。


 俺は大斧で人形どもを薙ぎ払い、アリシアが集団からはぐれた奴を拳銃で撃ち抜いていく。




 中には全く動かないただの人形がいたり、動かない振りした敵の人形がいたりと、判別するのがかなりめんどくさい。


 なので動こうが動かまいがブッ飛ばすことにする。




 俺の苦手な作り物の眼球が光を反射しており、顔を引きつらせそうになる――鉄球頭だから口の開け閉めしかできねーけど……。


 バラバラにしていくことで恐怖を和らげていく。






 「そのうち普通の人間にやりそうで恐ろしいわ……」




 逆にアリシアの恐怖が高まってしまわれた。


 というか変態的な意味での俺に対する恐怖は振り切れてそうだ。






 人形共の残骸が山積みとなり、一種の破壊の美学すら感じるほどブッ飛ばす作業に麻痺してきた。


 アリシアも慣れたもので、弱点だと判明した俺の苦手な眼球を破壊していく。


 というか中々の腕だ。百発百中と言えるのではないだろうか。




 「いい腕じゃねえか」


 「一応身体も鍛えてるけど、私は細いし凶悪犯を相手するのに射撃訓練も欠かさなかったわ」




 俺がアリシアの腕を褒めてやると、当然とばかりに返された。


 それよりも鍛えてるというワードに反応してしまう俺。


 彼女の裸体を想像していると、どうやってか察知した彼女に凄まじく睨まれたので真面目に人形壊しに戻る。






 「やーっと終わった」




 人形を全滅させ、一息つく。


 この仮初の姿アバターがいかに強靭といえど体力スタミナ切れは起こすようだ。


 こういう制限がないとVRゲームずっとやってる中毒者が出てくるからな。


 個人端末の前身であるスマートフォンのゲームのシステムを受け継がせたとかなんとか。




 「数えてたけど百はいるわね……」




 律儀なことにアリシアは人形の数を数えていたらしい、お疲れ様なこった。






 「――うお!?」


 「何っ!?」




 急にバラバラになった人形達のパーツがカタカタと震え始めて思わず声をあげてしまった。


 揺れを感じない以上地震ではない、パーツが独りでに震え出しているのだ。




 「こいつらまさか復活でもすんのか!?」




 仮に時間をおいて何度も復活するのであれば、大変めんどくさいことになる。


 殲滅せんめつして探索して殲滅してを繰り返す作業などしたくない。




 ところが俺の予想は外れた。


 元の球体関節人形に戻らず、どんどん胴体が繋がっていく。


 もっと悪いことになりそうな予感。






 「どんどん大きくなってる……」




 アリシアの意味深な発言を受け、こんなときなのに――いやこんなときでも興奮するのだ!


 そして録音機能を使おうと思ったのにエラーでキレそうですよ。






 やがて球体関節人形同士の連結が終わった。


 目の前に現れたのは――








 ムカデだ。


 胴体がいくつも繋がった、ムカデの球体関節人形だ。


 最後尾はまるで尻尾のように下半身がついており、一番手前には頭がついていて意志のない眼球が俺らを見つめている。








 「雑魚が集まってボスキャラ登場かよ!!」




 ムカデ人形は蛇のように身体を唸らせて襲い掛かってくる。


 いくつもの脚――ではなく手がわちゃわちゃと蠢いてこちらを掴もうとしてくる。






 「うおおおおおらっ!!」




 俺が斧を振りぬくと、ムカデ人形の腕が次々に吹っ飛んでいく。




 「アリシア! 腕狙え! 無力化すんぞ!」


 「分かったわ!」




 ばんばんとアリシアが拳銃で腕を落としていく。


 動いてるのによく当てられるな。






 「っと!」




 身体をまるでドリルのように回転させて突っ込んできた。


 残っている腕は未だに手を開いたまま、捕まえようと狙ってくる。


 俺は――








 「ふんぬらっ!!!!」








 大斧を思いっきり振り回してムカデ人形にぶつけて軌道を変える・・・・・・。


 避けなくても相手の進む方向を変えてしまえばいい。






 ムカデ人形の軌道が逸れて、俺ではなく売り場の服に派手に突っ込んでいく。


 たくさんの服が吹き飛ばされ舞い上がる。




 「しゃらあああああああ!!」




 俺はすかさずムカデ人形の元へ寄り、腕を切り飛ばしていく。


 アリシアも後方からどんどん弾を撃ち出してくれる。


 全ての腕を遂に破壊することに成功した――






 「ノゾム!!」






 アリシアの声ですかさず大斧で防御体勢をとる。


 ズガァン!という大きな衝撃が俺の身を震わせた。


 ムカデ人形が身体をくねらせて尾を鞭のように叩きつけるが如く、脚の部分で凄まじい蹴りを食らわせてきた。






 「ふんぐうううううううっ!!」




 ずざざざ、と後ずさりするほど押されるが耐える。


 ムカデ人形も無駄だと思ったのか、身を引いて身体をくねらせている。




 アリシアは何を思ったのか、再び銃口を向けて銃弾を浴びさせていた。




 「アリシア!! やめろ!!」




 静止の声は遅く、ムカデ人形はすでにアリシアの方を向いていた。


 ヘイトが溜まり、攻撃対象にされている!


 ムカデ人形が突っ込んでいく。






 「――きゃっ!」




 アリシアは突進の回避には成功したが、転んでしまう。


 ムカデ人形は鎌首をもたげて無抵抗な獲物を見定め――








 「おらああああああああああああぁぁあぁぁぁぁぁ!!!」








 させーねよ!?


 間に突っこんでいき、斧を思いっきり振り下ろしてやる。


 ムカデ人形を真っ二つにし、尾の部分も無効化させた。






 「ノゾム! タイミングが遅い!」


 「助けてもらっておいてなんだよそりゃああああああ」




 せめてそこは望さん、おっぱい揉んでもいいわよぐらい言うべきでしょうに。


 なんて思ってたらムカデ人形の上半身が這いずりながら向かってきた。






 「いい加減、」






 頭部を大斧でゴルフの如くかっ飛ばす――






 「しつこい!」






 ムカデ人形の頭がもげて天井を突き破り、遥か彼方まで飛んでいく。

 

 ゴルフのつもりが野球のホームランになってしまわれた。




 頭部を失ったムカデ人形は遂に動かなくなった。


 やっとこさ倒したようである。




 念のため、人形の胴体同士の接合部分を次々に破壊しておく。


 また復活されて戦うなんて絶対いやだ。




 「どんだけ嫌いなのよ……」


 「人形は嫌いじゃない、目が苦手なだけだ。俺はめんどくさいのが嫌いなんだよ、再生されないよう破壊してたんだ」


 「本当かしら……」




 ともかくボス戦は終了だ。


 ゲームとして進めるにしろ、世界の解明にしろリリーちゃんを見つけに行こう。












 俺はもちろん、アリシアにも特に怪我がないためそのまま探索していく。


 児童用のおもちゃ売り場にフリル姿の少女が待っていた。




 リリーは積み木で城を作るのに夢中なようだ。






 「えーと、リリーちゃん? こんなところで何をしているの?」




 未だ普通の少女と疑っているのかアリシアが声を掛ける。


 いや絶対ないから、こんな狂気的な環境をただの子供一人で生き残れるわけがない。






 「……お姉ちゃんたちも〈パンドラガーデン〉へ迷い込んだの?」


 「〈パンドラガーデン〉?」






 ああ、やはりここは。

 





 「俺が買って起動したゲームの名前だ」






 ゲームの世界なのか。






 「罪の意識を常に持った方がいいよ、でなければ――」




 この子はゲームの説明によればNPCの一人だ。


 だから子供なのに台詞がどこかおかしいのはそのせいだろう。


 さすがのアリシアも違和感を感じて後ずさっている。






 「獣か人形みたいになっちゃうよ?」






 そう言い切った後、走り出す。


 いくらなんでも速すぎる、これが敵MOBだらけの世界を生き残ってきた秘訣なのだろうか。






 「ま、待って!!」




 アリシアがリリーの後を追い出したので俺も走り出す。


 女のケツを追えるとなりゃ大歓迎ですよ。












 「なんて速さなの……」




 結局俺らはかれてしまった。




 「何にせよあの子が何か秘密を握っているのには違いねえな――どわっ!?」




 走って息が荒いアリシアを観察していたら警棒で思いっきり頭を叩かれた。


 鉄球頭じゃなきゃ死んでいたぞ。




 「次、変な目で見たら撃つ」


 「なんで目がないのにわかんだよ」




 視線を感じるのはまだ分からなくもないが、鉄球頭は口しかないというのになぜエロい目で見てるのがバレてしまうのだろうか。




 「ぞわぞわ来るのよ、あなたの視線」




 声から感情が一切消え去っている。


 マズイ、やりすぎた。




 「ほら、助けたお礼だと思って」


 「へえ、お礼に身体を好きに見させるほど安い女だと思ってるの?」


 「ごめんなさい、私がわるうございました」




  流石に折れることにする。


 これで無防備な姿をもう見せてくれなくなったら困――




 「覚悟はいい?」


 「銃はよそうぜ」




 また変な目で見てしまったせいか銃口をつきつけられた。

 

 すかさず両手を挙げて降参だ。






 「警察の仲間やきちんとした特殊部隊がいるなら、あなたみたいなのと組む必要なんてないのに」


 「そりゃないぜ、こんなに頼りになる男もいないだろ」


 「その怪物じみた見た目はともかく、スケベじゃなかったらプロポーズしていたわ」


 「今から誠実になります」


 「騙されないわよ」




 銃口を下ろしてもらい、俺達は漫才みたいなやり取りを終えて真面目な話に移ることにする。






 「どっか他になんかありそうなとこないのか」


 「そうね……」




 アリシアが考え込む。


 思考に集中しているうちにさりげなくチラ見をしようと思ったが、これ以上はやばそうなので我慢した。






 「廃工場跡があるわね」


 「絶対なんかあるだろそれ」




 ホラゲ鉄板じゃないですか。


 行くしかない。






 「決まりね。それじゃ道中何かあったら身代わりになって死んでね」


 「はいはい、エスコートはお任せください」






 来た経路を戻ってショッピングモールを出て行く。


 〈パンドラガーデン〉。


 このゲームはいったいどうしてしまったのか。


 俺は真面目に考えながらアリシアと先を歩いていく。




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