第8話 脱部下作戦あがきの一手
苦し紛れの最後は高子か。本人に仕掛けるのは考えていなかったがやむを得ない。
準備に準備を重ね、決めた。
今日は母の日。カーネーションは2つ買った。
1つはもうすでに実母へ渡し、いつもの感謝の気持ちを伝えた。
もう1つは、
「発明家。工藤理比斗の生みの親。高子、ありがとう。ってどうした?」
「いいえ、別に」
赤くなってそっぽ向いてしまった。怒らせたのだろうか。いや、それならむしろ好都合だ。悪い事をしている訳ではない。
「……ありがと、母じゃないけど……」
ボソボソと何かを言いながら高子はカーネーションを受け取った。受け取ったという事はそこまで不快じゃなかったのか。
「何か言ったか?」
「べ、別に! もう、知らない」
本当に怒らせてしまったらしい。高子は背を向けて歩き出してしまった。
「バカ」
振り返って言われた。そこまで言われる事をしただろうか。
分からない。
ここまで一度も僕を追い出そうとする者が現れる事はなかった。誰かが裏で何かをしていると考えられないだろうか。
いや、
「そりゃないか」「それはないわ」
同時だった。
「高子! いつからそこに?」
「ずっといたわ」
「そうか」
いや嘘だろ。そんなはずはない。冗談だろう。高子も冗談を言う事があるのか。
「そうよ。皆純粋なだけよ。人を疑うのはあなたらしくないわ」
「そうだな。ってらしくないって?」
「これまでの事から分かるんじゃないかしら?」
これまで、そういえば何で僕が発明が好きだと知っていたのか。それは、事前に知る機会があったから。そして、最近は発明していなかった。つまり、
「ああ、そうか僕の事を調べたんだな」
「……ええ、そうよ」
何か変な間があったな。まあ、調べていたなら事前に共通点でも吹き込んでおいて僕への好印象を作り出したのか。いや、それも考え過ぎか。
「そうか分かったよ。あーあ疑い損だぜ」
「全くね」
僕は表情だけ笑顔にして高子を見ていた。彼女は安心したような表情に変わっていた。
「ただ、覚悟しとけよ。いつでも寝首をかいてやる。そのつもりでいるんだな」
「分かったわ。でも実行できるのかしら?」
「ふふ」
「ふふふ」
どうだか、自分でもよく分からない。もう敵としては疑えない。だから曖昧に笑う事しかできなかった。
「そうそう、今度は今後必要になった時のために宣伝が得意な可愛い子がほしいんだけど」
今、依頼してくるか。
「いや、僕はプロデューサーじゃないから、というか高子がやれば?」
「嫌よ。私はイメージと違うの。というか、むしろやってくれない?」
「嫌だよ。なら、他にもいるだろ2人ほど」
「うーん。ちょっと違うのよね。仕方ないわ。今回は諦める」
できればずっと僕を可愛い子扱いするのは諦めてくれ。
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