異世界英雄譚は終わりの世界から

神村岳瑠

始まりの世界

終わることなき英雄譚

 あるところ。ある世界で暮らす親子。

 最近寝つきが悪い娘に、母親はえほんを読んであげることにしました。

 とても分厚いその本は読み切るのも一苦労。

 その物語は、こんな一文から幕を開ける。


「これは終わることなき、五人の英雄譚――」



******



 目が覚めた。

 この世界ではいつもそうだ。

 とても長い夢を見る。まるで、生きてた頃の僕の人生をダイジェスト映像のように振り返る夢。

 でも、起きたらそれを忘れている。

 そんな夢を見ていたという認識だけが記憶に残る。

 生きてた頃の記憶が、僕らは曖昧なんだ。


 僕が元の世界で死んでから何日たっただろうか。

 時間という概念が存在しないこの世界。

 もう色々と生活が狂って来ている。

 まるで宇宙のような。何も存在しない無の空間。

 そんな世界で暮らしている。四人の英雄《仲間》とともに。

 何も存在いしない世界故に、無から何かを作り出すことは、過去に1つの世界を救った僕たちには簡単なことだった。

 まあ、みんなで暮らす大きい屋敷を作るが限界だったんだけど。


「おいソニア。暇だしなんかしようぜ」


 ガチャリとドアが開き、一人の男が入ってくる。

 名前はロビン・フッド・アルベールで、僕らはロビンと呼んでいる。

 男にしては長めの黒髪で、藍色の瞳にかかるほど。

 まあ、その長い前髪のおかげで、子供が見たらすぐに逃げられそうな鋭い目つきを隠せてはいるんだけど。

 体つきは、英雄だと名乗ったら鼻で笑われてしまいそうなほど貧弱に見えるがその強さは本物。

 というか、この世界に来る人はみんな過去に一人で世界を救ったことがあるんだから、強いのは当たり前と言える。

 まあ、そんな最強の英雄が暇だと言って大量の玩具をもって僕の部屋に来たわけだけど。


「暇ならリアたちのとこ行ってよ。僕は寝起きなんだよ」


「いや、あいつらは女三人で馬鹿やってるから無理」


 一応そんな感性は持ってたんだ。

 

「ロビンなら女装すれば、ばれないんじゃない?」


 それくらいロビンの顔立ちは整ってる。


「女装はソニアのほうが似合うだろ。お前がここに来た時、みんなお前のこと女だと思ってたくらいだし」


「やめて。そのことは思い出したくない」


「ということで、遊ぼうぜ」


 言ってロビンは、邪気な笑顔を見せる。

 ほんと、戦いのときとは人格が変わるなとか思う。

 もっとすごい二重人格のひとを僕たちは知ってるんだけど。

 まあ、たまには馬鹿になって遊ぶのも悪くないかもしれない。

 

「いいよロビン。よし!遊ぼう!」


「さすがソニア!お前は最高の親友だぜ!」


 瞬間だった。

 僕はロビンと永遠に遊ぶんだくらいの覚悟でハイテンションになった時に、それはやってきた。

 

 まぶしい光が、僕らの視界を埋め尽くす。

 ——それは、僕たちに課せられた使命のようなもので。


 体は重く。まるで、深い海に飲み込まれていくような感覚。

 ——僕たちが無の世界でも存在し続ける理由で。


 聞こえてくる。世界の声が。救いを求める世界の声が。

 ——僕たちが英雄であり続けられる理由で


 徐々に体が地に戻ってくる感覚。

 ——さあ、目を覚まそう。世界を救うために。


 手足が言うことを聞いたのを感じて、僕は覚醒する。

 ―—語るとしよう。僕らの英雄譚を。


 五人の英雄は、高みから世界を見下ろしていた。

 

 

 

  

 

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