16.C-130ハーキュリーズ

「あのじゃじゃ馬め。いつかぶっ殺す」

「お腹が痛いよー痛いよー」

「しかし、言ったその夜に拉致られるとはな」

 C-130ハーキュリーズのカーゴベイ内に設置された専用席に、なかばシートベルトに縛り付けられるようにして、沖田、吉川、小坂の三人が座らされている。

 明日の夕方出発と聞いた後、解散となり、一旦寮の自室に戻った沖田達だったがその夜の内にローザにたたき起こされて、大使館ナンバーのハマーで横田基地に連行。イギリス空軍所属機として昨日から駐機していた、アメリカロッキード社の軍事輸送機、C-130ハーキュリーズに詰め込まれ機上の人となった。

「まさかロッキードのヘラクレスで行くことになるとはなー」

 沖田がだった広いペイロード(貨物室)内を見回してため息をつく。ハーキュリーズとはヘラクレスの英語読みだ。

 なぜか目の前には黄色い旧式のフィアットが固定され、沖田は緑のジャケットに黒いシャツ。吉川は黒のスーツに黒のハット。小坂は着物に袴と編み笠、白鞘の日本刀まで渡されている。

「少佐、一つ質問があるんだけど」

「なんだ?」

「なんで、俺らはこの格好なの?」

 操縦室から戻ってきたローザに吉川が質問する。

「趣味だな」

「趣味?」

「冗談だ。貴様らを直接、エメトリア公国付近まで連れて行ければ良いのだが、あの辺りはソ連崩壊で情勢も悪化していてな。途中から陸路で向かってもらう」

「陸路?」

「ああ、陸路だ。それと、今回はオヤジからのサービスだ。食料や医療キットなどの装備は渡してやる。が、武器は現地調達だ」

「スニーキングミッションかよ。MSXのゲームじゃあるまいし。で、この格好はなんだんだよ?」

「オタクだな。アニメを見たバカジャップどもが東欧を旅していることにすればいい」

「はあ?」

 沖田が抗議しようと立ち上げるが、ローザに一睨みされると大人しく座り直す。

「さて、お前達の今回の任務は、エメトリア公国王女継承権保持者、エリサの救出を第一目標とする。第二目標は随伴していると思われるロシア工作員のカーラだ。尚、エメトリアは1週間前のクーデーター後に軍政化している。国内の情勢はお定まりの軍事圧制下だ。逮捕されたら最後、現世で地獄を味わうことになるぞ」

 葉巻を咥えたローザが貨物室の一角から三つのランドセルと与圧服を取り出して三人に投げつける。

 と、同時にペイロード内に赤いランプがともり、貨物室内の気圧が下がりだし警告音が鳴り出した。

「ちょっとまてよ!おまえら絶対どっかから金もらってんだろう?!」

 吉川が慌てて与圧服と酸素ボンベを装備しながらローザに怒鳴る。

 民間軍事会社の社長であるマルコ大佐とその娘であるローザは、昨年、沖田達学生をフセイン包囲網から脱出させることに協力したメインチームだ。

 軍事会社とはいえ一企業であるため、出資がなければ行動することはない。

 昨年、沖田達各国の修学旅行生をイラクから救出するために数百億円の出資が行われている。その出所は、沖田達と同じ班だったイギリスからの修学生が英国王室出身だたため、イギリスを中心とした各国が負担したと言われている。

 ペイロードのメインハッチが少しずつ開きだし、雲の平原に浮かぶ赤い太陽が強烈に差し込んでくる。

 ハッチが開き、ぽっかりと青い空へ向かって開口部が口を開けている。

 その端に沖田達三人が一列に並ばされた。見下ろすと、雲間に配下の森林と平原地帯が見え隠れしている。所々建ち並ぶ家が豆粒のように小さい。

 すると背後にあったフィアットがゆっくりと動き出した。

 慌てて端に飛びずさった三人の横を勢いを増した黄色いフィアットが真っ逆さまに落ちていく。途中で大きめのパラシュートが開きゆっくりと下降していった

 恐る恐る下をのぞき込んでいた三人を、ローザが後から蹴り飛ばした。

 悲鳴を上げて落ちていく三人。

「ぜってぇーあとで請求書おくりつけてやっからなぁ~~!!!」

 吉川の叫びが尾を引いて落下していく。

 酸素マスクもつけずに、ゆっくりと葉巻をくるらせなながらその様子を見ていたローザが、貨物室のハッチを閉めるように操縦席に指示を出した。

「まあ、生きて帰って来いよ。その時はラガーをおごってやるさ」

 朝焼け染まりだした空に葉巻を投げ捨てると、ゆっくりとペイロード内へと戻っていった。


To be continued.

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