11
V社は馬鹿なのか。それとも俺が優秀なのか。後者だろうな、そう思った。俺はつくられた人間だ。いや人間なのかはわからないが、人工物だ。優秀になんて数値をいじればいくらでもできるだろう。ただ、こうやって目を盗んで町中を逃げ回るようになってしまって残念だな。ここまでは考えていなかったろう。
V社の本社、俺をつくった施設がどこにあるのかわからないと思った。この情報社会を支配するあいつらの拠点が公になってたら、暴動が起きた時に大変だから隠しているのだろう。海底に沈む秘密基地があるのか。それとも地中深くに隠された要塞があるのか。どこにあろうと乗り込んでやる、俺はそう思った。だが、それだけでは物足りない。ただ捕まるだけではもったいない。何かしてやろう。ショウのように日々を憂鬱に過ごす人がこの町にはたくさんいるはずだ。その人たちがニュースを見て、よっしゃと思うことをやろう。そうだ、V社の不正を暴くというのはどうだ。
何をすればいい。
そこでふと思った。既にIDミッシング事件が世間で騒がれている。情報管理について問えばいいのだ。いや待て。俺がニュースに映るだけで大問題になるのではないか。V社は戸惑うはずだ。そして俺は思いついた。簡単なことだ。なぜこれを思いつかなかったのか。俺は人の目を気にしてコソコソしてなくていいのだ。この存在を世にアピールすればいい。多くの人の注目を浴びれば浴びるだけいい。噂されて騒がれれば騒がれるだけいい。俺という存在はV社にとってこの世界にあってはならないのだ。V社の邪魔者、取り除いて消し去りたい腫瘍、デキモノ。
そうこう考えながら歩くうちに、あの顕示欲の塊のような建物、ザ・スカイが目に入った。正確に言うと人々が宙を歩いているのが見えて透明な施設を把握した。誰もが遠くから眺める空の上の理想郷。
俺は思わず微笑んだ。そうか、わかったぞ。V社はあの建物の中にあるのだ。世界中で注目を浴びる圧倒的な存在感、誰もが施設の全てを知った気になってしまう透明感。その内部にあいつらはいる。まるで隠すことは何もないかのようなクリアなボディにV社の拠点はあるのだ。敵の弱点を知ったような強力な自信と、さあ何をしてやろうという期待とともに、俺は歩みを速めた。
到着はあっという間だった。いや、V社の遣いのような人物にバレそうになったことは何度かあったが、大事になることはなく、スラスラと綺麗にザ・スカイに到着したのだ。しかしここからが肝心。入場には例の如くパーソナルナンバーの認証が必要で、一人では到底入れない。そこで、入り口付近で見つけた単独で来場する者に、現金で払いたいからオンラインで二人分買ってくれないかと交渉した。一人目は面倒だと断られたが、運よく二人目で心優しい者に出会えて買ってもらえたのだ。俺は、セキュリティのすき間をなんとか通ることに成功したのだ。通れたと言っても、帰り保証できない片道切符だが、それでよいのだ。そう時間はかからずにV社に情報は伝わってしまうが構わない。俺は、最上階に行きたいだけだから。
礼を言ってその者と別れると、俺は単身最上階へと向かった。
ザ・スカイ内部は商業施設。ギガモールもカフェも新型アパレルショップもあるし、話題のVR映画館も仮想ドライブハイウェイもある。オープンしてもう5年というのに、客はうじゃうじゃといた。
さすがだよ、V社。大繁盛だ。だが、それは俺にとってもプラスに働く。これから行うことは、人が多ければ多いだけいいんだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます