第4話 幼馴染と戸村勇牙1
「君と彩華ちゃんはどういった関係なんだい?」
「どういったも何も、ただの幼馴染だよ」
ある日の放課後。
俺は今屋上で一人の男と話している。
男の名前は
クラスは1年B組、所属する部活はサッカー部。
端正な顔立ちに少しパーマがかっている茶髪が特徴のいわゆるチャラ男イケメンみたいなやつだ。
さらにサッカーの実力も相当らしく、俺や彩華と同じ中学出身の為、よく知ってるのだが、三年連続全国大会を経験している。高校に入ってからも1年生ながらすでにサッカー部エースとして君臨しており、即戦力どころか、何やら3年生すらも引っ張っているほどだとか何とか。
その為女子生徒からの人気も物凄く高く、女泣かせの戸村、と裏で言われてるくらいにとにかくモテるらしい。
噂によると戸村に泣かされた女はもう既に1クラス分にのぼるのだとか。
そして、じゃあ何故今俺が戸村と屋上にいるのか。
それは朝、俺が登校してきたときに遡る。
いつも通りに上靴に履き替えようと靴箱を開けると、そこに一通の手紙があったのだ。
俺は最初完全にラブレターと勘違いしていた。
周りに人がいないことを確認し、急いで男子トイレの個室に入り、封を開ける。
しかし内容はこうだった。
『君みたいな愚かな人間のことだから、きっとこれがラブレターだと勘違いして男子トイレの個室ででも読んでいるんだろうね。そんな愚かな
俺は手紙をビリビリに破り捨てトイレの便器にぶち込んで流していた。
これは別にラブレターと勘違いしてた心を踏みにじられたからとかではない。
断じてない。
最初はめんどくさいので、さらさら行く気などなかったが、俺だけのことではなく、彩華についてだという点が少し気になったので、結局俺は放課後屋上に向かうことにした。
そして今に至る。
「じゃあ君は彩華ちゃんが好きとかそういうわけじゃ無いんだね?」
ムカつくくらい整った顔のやつが、風でサラサラと髪を揺らしながらこんなこと言うもんだから、ドラマのセリフでも言われているような気持ちになる。
俺も何かそれっぽく言葉を返してやりたかったが、そんなこと出来る筈も無いので
「ああ」
と、とりあえず不機嫌めに言葉を返した。
「そうか。安心したよ。いやね、俺の目から見るとどうにも君が彩華ちゃんの優しさに甘えているように見えてさ」
「あぁ? どこが?」
言ってる意味が全然分からなかった。第一あいつは俺には優しくない。
一体どこを見てそう思ったのだろうか。
しかし俺の疑問には答えず、戸村はさらに話を続けた。
「君はどう思うか知らないけど、彼女は俺のことが好きなんだ」
「……は?」
”俺は彼女を”ではなく”彼女は俺を”の方ですか?
あれ? こいつもしかしてすげぇ勘違いしてるのでは……?
それとも俺が知らないだけか?
「中学の後半、彼女が掛け持ちで女子サッカー部に所属していたのは君も知ってるよね? その時に同じ部活のやつから聞いたんだ。彼女は俺と付き合いたくて女子サッカー部に入ったって」
「いや、お前多分勘違いしてるぞ? それはその時の部長にお願いされてたからで……」
「今思い返すと彼女は確かに俺のことをよく見ていたよ。俺分かるんだ、人から向けられる視線が好意か、そうじゃないかが。だからその時気づいたんだ、彼女の視線は確実に好意のそれだった、ってね」
人の話全然聞いてねーなこいつ。完全に自分の世界に入ってやがる。
「だけど彼女、全然俺に告白する素振りを見せなくて、結局何も無いまま卒業してしまったんだ。正直言うとその時期、俺は3人の子と付き合ってたんだけど、どうにもみんなつまんない子ばかりでね、彩華ちゃんに告白されれば全然オッケー出してあげてもよかったんだよ。でもその時気づいたんだ、きっと彩華ちゃんは、俺に彼女がいることから、遠慮したんだろうなって」
「でも、まさか彼女が高校まで、俺のことを追いかけてくるとは思わなかったよ。びっくりしたね。でもそこまで俺のこと好きなんだなって思ったら、何とも愛おしくなってきてさ。その時気づいたんだ、彼女こそ俺にふさわしい子なんだなって」
「だからこの前彼女に手紙を送ったんだ、放課後屋上で少し話さないかって、君が思ってること全部俺が受け止めてあげるよって。でも次の日彼女は来なかった。その時気づいたんだ、彼女は相当シャイなんだなって」
「でもいくらシャイだからって、この俺に一対一で話す場を設けてもらってるのに来ないなんてことあるか?って疑問に思ったんだ。それで色々調べてみた結果、どう考えても君の存在意外に彩華ちゃんが俺に素直になれない理由が無いんだ。だからその時気づ……」
「その時気づいたその時気づいたその時気づいたぁぁ!!! うるせぇ!」
どんだけ気づいてんだよ! 全部的外れだし!
「ただの勘違いだろ! 告白しないのも、屋上に来なかったのも全部お前に興味無いからだよ!」
自分たち以外誰もいない屋上で、俺は叫んだ。
あと、多分彩華が屋上に来なかったのは、この前俺との喧嘩で手紙がくしゃくしゃになって、読まれすらしなかったからだと思う。
ただ、俺の叫びに気圧される様子も無く、戸村は尚もべらべら喋り続ける。
「君はさっき彩華ちゃんのことは別に好きじゃないとか言ってたよな? なのに嫉妬か? まあでもどう考えても君と彩華ちゃんじゃまるで釣り合っていないけどね。学年一モテる男である俺と、学年一モテる女である彩華ちゃん。俺たちがお似合いなことなんて周知の事実さ。今日の学生新聞の記事を見たか? お似合いなカップルランキング一位は俺と彩華ちゃんだった。君の名前なんて一文字も無かったんだよ」
「君は彩華ちゃんの重荷になっていることに、いい加減気づいたらどうだ? 君なんてただ運よく彼女の幼馴染になれただけに過ぎないんだよ。彼女だってきっと後悔しているだろうさ、自分の幼馴染がこんな平凡で何もないようなやつじゃ無ければどれだけ良かったかって」
「彼女は本当に優しい子だよ、君みたいな何もないやつにも情けをくれる。きっと君みたいな奴が一人ぼっちにならないようにしてくれてるんだ。だから俺はさっき言ったんだ、君が彩華ちゃんの優しさに甘えてるように見える、ってね」
よくもまあここまで自分の思ったことをべらべら喋れるものだ。何も知らないくせに。
全部的外れだと言ってやりたいし、否定してやりたいと思う。
でも、それが出来ない。
俺は、胸に突っかかってるものをぐりぐりとより深くにねじ込まれていくような、そんな感覚がした。
「どうした? 事実を言われて何も言い返せないかい?」
「うるせぇうるせぇ、お前がおしゃべり好きなのはもう分かったよ。で? つまり何が良いたくて俺をここに呼んだんだ?」
「単刀直入に言おう、もう今後長田彩華という女性に関わるな」
あんだけ喋っておいて何が単刀直入だ。俺が来てすぐそれだけ言えばいいものを、わけのわからないことばかり言いやがって。
「別に俺は自分から関わってるつもりはねーよ。文句あるなら直接彩華に言えや」
「言っただろ? 彩華ちゃんは優しさで君に情けを掛けてるんだ。責任感の強い子だからもしかしたら俺が言っても聞かないかもしれない。でも君が彩華ちゃんに一言、鬱陶しい関わるな、と言えば、さすがの優しい彼女でも君のことが嫌になる」
「なるほどな」
「いい考えだろ?」
確かに情けで付き合ってやってるようなやつにそんなことを言われたら普通の奴なら腹が立つし口も聞きたくなくなるだろうさ。
でもあいつは、長田彩華なんだ。普通じゃないのだ
そんなことを言ったとしてもあいつは言うことを聞いてくれない。
過去に同じことを言ってる俺だから断言できる。
「断る」
俺は戸村にそう返した。
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