第十話
9 先見高校映画研究部「撮影中にイチャつく二人」
意味がわからない……だって黒澤の作品はすでに一次選考に通っていて……しかも、応募したのは短編部門で──
「──まさか!」
そうだ……ちょくちょくおかしいとは思ったんだよ。アキバと黒澤の言動が。
俺はすかさず、超短編部門の応募要項へとページを飛ばす。
超短編部門──3分以内の映画部門だ。
今年のテーマは「ラブラブ」……なんだこの頭の悪そうなテーマは。
そして一番の問題はここ。「どこかで必ず抱擁するシーンを入れること」という制約。
……そういうことか。いま思えばおかしなことだらけだったじゃないか。
「おい、黒澤にアキバ……とりあえず、説明して貰おうか?」
俺の追求で、二人は一斉に目線を逸らした。
あ、確実にこいつらクロだわ。
鼻をすすりながら、未来は小首を傾げ、
「どうしたのクマ? 何の話?」
「……見ればわかるさ。まったく、よくもやってくれたな」
目を細めて、黒澤を見ると、
「も、も~。そんなに怒んないでよ阿熊クン」
「どうせ、投稿した動画はパソコンの中に残っているんだろ? 見せてくれよ。タイトルからして、俺らにも見る権利がありそうだしな」
「クマ殿。世の中には知らなければいいことも沢山あるんでござるよ?」
「よくお前がそんなこと言えるな。限定アニメTシャツに目が眩んで、俺と未来を売ったアキバ君?」
「ぎ、ぎく──っ⁉」
すかさず、制服から透けて見えるTシャツの柄を手で覆い隠すアキバ。
「アキバの限定Tシャツは、超短編映画の報酬の先渡し……それか、俺と未来を盗み撮りするための協力報酬といったところか。黒澤の父親はアニメ会社だからな、融通を聞かせてもらったんだろ?」
「な! ななななんのことでござろうか⁉ べ、べつに、オカルト映画の方がついでで、最初からクマ殿と未来殿の映画を撮るのが目的だったとかじゃないでござるよ⁉」
やはりアキバは演技が駄目だな。追いつめられるとすぐに失言してしまう。
「俺さ、お前のそういう正直なところ好きだぜ」
驚くほど簡単にボロを出すからな。
「ぶふぉう! クマちゃんさんからの愛の告白! ついに二人の関係が進むんですね⁉」
「イトナ。すぐそっちの方向にもっていくのやめような?」
俺とアキバとかマジで誰得だよ。興奮するロリっ娘から目を側め、
「……そうか。最初からメインは超短編だったとすれば、全てつじつまが合うな。おおかた冒頭シーンは、俺と未来が初めて黒澤に会う直前か」
「もう、全部バレてそうだね~」
黒澤はわざとらしく肩をすくめ、パソコンの「投稿用2」と書かれたファイルを開いた。
そのまま動画の再生ボタンを押し映像が流れ始める。
真っ黒な背景に、しんみりとしたBGM。数秒後には高校名とタイトル名が浮かび、映画が始まった。再生時間はたったの2分ほど。画面には、未来の姿がアップで映しだされた。
「え⁉ わ、わたしぃ⁉」
未来は驚きのあまり硬直している。状況がうまく呑み込めていないみたいだ。
「な、なにこれ、盗撮ってやつなのクマっ⁉ どこかにカメラが仕掛けられてるのっ⁉」
俺は動画を一時停止して、先に未来に説明をしてやる。
「映像はアオリ──つまり、未来より下の位置にあるってこと。動かないから定点だろうな。それに、上半身までしか映っていないってことは、机とか、ある程度高い場所に置いてあるってことだ。近くにあるのに未来は気にも留めず、あの日、部室の机にあったものといえば?」
「……あっ! アキバくんが直してた黒澤くんのパソコン!」
「そうだ。正確に言うとパソコンのインカメラだな。だが、おかしい点が一つ。あまりにも画質がよすぎるんだよ」
「べつに変なことじゃなくない? わたしはやったことないけど、インカメラを使って相手の顔を見ながらチャットとか出来るんでしょ。いい画質の方がよくない?」
「インカメラの画質は携帯のようにどんどん進化している。しかし、それは新しいパソコンに限った話だ。いまの映像はビデオカメラで撮った映像には劣っても、見る分には特に気にならないくらいの綺麗さだった。黒澤の古いパソコンには合わないくらいのな」
黒澤のノーパソは、何代も古いタイプの厚ぼったいフォルムをしている。
そんな時代のインカメなんか、ガラケーの画素よりはるかに悪いだろう。
「アキバくらいパソコンに詳しければ、自分で解体してインカメラを付け替えることも可能だろ? 黒澤のパソコンは最初から壊れてなんていなかったんだ。修理というていで、アキバが映画に使うためのインカメラに取り換えていただけ。黒澤のパソコンは古いから、ビデオカメラの画質に少しでも合わせようとしたんだ」
「……う~ん。そこまでお見通しだったんだ」
苦笑した黒澤は、自分のノートパソコンに視線を落とす。
「でもさでもさ、わざわざパソコンのインカメを変えるとか大変なことしなくても、他にいい方法あったんじゃない? それこそ、スマホで撮るとかさ」
「なんかの拍子にバレたら、言い訳のしようが無いだろ? 俺らにバレた時点で映画は撮れなくなる。撮れたとしても、明らかに周りを警戒した不自然な映像になるだろうよ」
「あー。なるほどぉ」
その点、パソコンのインカメだったら機械に詳しくない俺たちは気付きにくい。仮にバレたとしても、修理中に間違って起動したなどと言い逃れが出来る。
「流石にバレないと思ったんでござるがねぇ」
「どうしてそこまでわかっちゃうんですか。逆に怖いですよ。ねー、クーちゃん」
「ミステリーの映画を撮ることになったら、阿熊クンに探偵役頼もうかなぁ~」
「ただのミステリー好きにそんなん出来るかよ」
「うんうん。クマには探偵役なんて無理だよっ」
「そうだ、言ってやれ未来」
「棒読みのクマが探偵役なんてやったら駄作になるよっ!」
「そういう意味かい!」
二度と役者なんてやらないと心に誓う。しばらくは映画から離れてミステリー小説にでも現を抜かそう。たまには古典ミステリーに手を出すのもアリだな。エドガー・アラン・ポーとかアーサー・コナン・ドイルとか。そうだ、鮎川哲也も気になってるんだよなぁ。
「……じゃあ、阿熊クンはボクらのことを怪しんでいたの?」
「引っかかる部分は何度かあったが、全部繫がったのはいまだ。作品が完成していることがその証拠だろ。気付いたらやめさせるに決まってる」
俺はため息交じりで、黒澤たちを見渡す。
「ははは。だよね~」
未来は俺の腕を掴んで、ぶらぶらと揺らし、
「クマ、結局どういうことなの? ちゃんとわかるように教えてよー。ねぇー」
「黒澤はアキバを引き入れて、映画を2本撮っていたんだ。全員で撮った予言者の映画とはべつに、俺と未来のやりとりを撮った2本目をな」
「え、えぇ────っ⁉」
未来は愕然とし、黒澤に視線を向けるも「てへ、メンゴ~」と返されていた。
「まぁ、言葉で説明するよりも、続きを見た方が早いだろうな」
俺は動画の一次停止を解除し、再生ボタンを押した。
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