第二話
「ねぇねぇ! もうハンコ押されてるよっ」
昇降口前ホールの壁に張られた予言を見て、俺と未来は胸を撫でおろしていた。
予言が的中したことを示す、校長によるハンコ。
予想通り、浅井先輩の口から校長先生に経緯が伝わったらしく、次の日には無事にハンコが押されていた。
「もう当分の間はなにもしたくないからな。頼むぞ未来。五月は一つだけにしてくれよな」
「もぉー、クマは心配性だなぁ」
「前科があるから言ってんだろうが。四月なんて結局四つも予言するし……」
「ほ、ほら、早く部活行こうよクマっ! わたし部活大好きっ!」
早口にまくりたてると、未来はそそくさと階段を登って行った。
「逃げたな……」
俺はふと、予言の横に張られている一つの掲示物に目を落とす。
「へぇ。新聞部なんかあるのかこの高校」
新聞の見出しには大きく『三年七組総合優勝!』と、この前の球技大会について書かれていた。目新しいものは無く、いかにも普通の校内新聞だったが、記事の最後の部分には見逃せない文が。
『今回も予言を的中させた予言者だが、新聞部は予言などという非科学的なものは信じていない。必ず裏があるはずだ。真実を調べあげインチキを暴いて見せる。立派な証拠をみなさんに提示しよう。(新聞部二年 浦見うらみ)』
ほぼ名指しまでされている。これは完全に、未来に対する戦線布告文だ。
予言を信じない輩は学校でも出てくると思っていたが、新聞部とはまた厄介な……本当に一度の失敗も許されないじゃないか。近いうちに、こいつと戦わなければならない時が来るのだろうか。当面はやはり、予言は最低限にした方がいいな……。
部室に入ると、スペースを区切るカーテンは開けられていて、窓際のオカルトスペースに全員集まっていた。未来とアキバはこちらに背を向けて座っていて、イトナはクーの髪を丁寧にブラッシングしていた。結構雑に扱う時もあるからな、金髪がよれよれになってきているようだ。
俺は部屋中に置かれている、訳のわからんオカルトグッズに目を向け、
「イトナ。これだけオカルトグッズがあるんだったら、クー以外の人形もあるんじゃないのか? クーにそんな固執しなくても、他の人形を──」
「はぁ? 何言ってやがるんですかクマちゃんさん。殺しますよ?」
ド直球な殺害予告。
心にもないことを言ってしまったことで、すぐさま闇イトナへと変貌を遂げられた。
「クーちゃんは、クーちゃんはたった一人の存在なんです。私の大切な……そうです、私の子供みたいなものです。私が丹精込めて魂を入れて育てた……っふふ、私がママですよ、クーちゃん。ふふふ」
怖い怖い怖い! 飛躍の仕方も怖いし、目は血走ってるし、イトナの方がなにかに取りつかれてるんじゃないのかこれ?
「私にはクーちゃんだけです。同じ空間にクーちゃん以外の人形なんて必要ありません。ふふっ、クーちゃんさえいればいいんです。ふふ、ふふふ……」
これ以上関わらない方がいいと本能に諭され、いつものイトナに戻るまで放って置くことにした。
「……何やってんだあいつらは」
俺は空いている机にスクールバッグを置き、アキバたちの元へ。
アキバはドライバー片手に、ノートパソコンを分解していた。
色は綺麗なコバルトブルー。少し古いタイプなのか、厚みがあるように見える。
未来は興味津々に、パソコンを解体するアキバの手元に注目していた。
「あれ、アキバのパソコンってそんな色だったか?」
「拙者のは白でござるよ。ピュアな拙者に相応しい、ピュアホワイトでござる」
「お前がピュアかはどうでもいいが、どうして違うパソコンを?」
「友達のパソコン直してるんだってさ。ふふん、すごいでしょっ!」
未来が代わりに答えた。確かにすごいが、なんでお前が誇らしげなんだ?
胸を張ってくれたおかげで、揺れる二つの物体が目の保養になる。
「……ん? お前そんなTシャツ持ってたっけか」
アキバ制服のボタンを開け、中のTシャツが丸見えな状態だった。
ちゃんと見たことはないが、いまやってる深夜アニメのキャラがプリントされていることはわかる。腹部が太いせいで、気持ちキャラが横に長く見えることは黙っておいてやろう。
「でゅふふ。よく気が付いたでござるなクマ殿。拙者のTシャツが、今期覇権アニメの限定商品に変わっていることに! オークションで万越えの代物でござるよ!」
「へぇ、そんなに高いものなのか」
「手に入れるのに苦労したんでござるよ。拙者の情報網を使っても、見つからなかったくらいでござるからな」
素人目から見たら、普通のアニメTシャツとの違いがわからない。
……お、でもこのキャラ太ももは普通だが、網タイツとは素晴らしいな。
網の目が大きく、そこからはみ出る肉がまたエロ──
「ふんっ!」
「いでぇっ!」
未来が右足の脛を思い切り蹴ってきた。
「な、なんで蹴るんだよ!」
「……そこに足があったからだよ」
「ただのヤベェやつじゃねえか!」
未来はお人好し過ぎるくらいなんだから、俺にももっと優しくして欲しい。
でも、蹴り上げてくるときに見えた太ももは、たまらなくよかった。ごちそうさまです。
「お! 直ったでござる!」
アキバの歓喜の声が響いた。近づいてみると、真っ黒だったディスプレイには、動画の再生画面が映っていた。
「この動画を見ていたら、急に電源が落ちて動かなくなったらしいでござる」
「ウイルス感染でもしたのか?」
「いや、故障の原因はただの接触でござった」
接触なら分解する必要はあったのだろうか……まぁ、直ったし別にいいか。
アキバが動画の再生ボタンをタッチパッドで押すと、画面全体が黒い背景へと変わる。
そして、未来がディスプレイを覗き込んだ瞬間だった。
突然動画が動き出し、パソコンからは人間とも化け物ともとれる絶叫が、大音量で流れる。
それと同時に、ディスプレイいっぱいに顔面血だらけの男が勢いよく映し出された。
『うぼあぁぁぁああああああ』
「んにゃぁ────っ⁉」
未来は金切り声をあげ、俺の胸に飛び込んできた。
う、うお────っ⁉
胸が、胸が当たってる! ……や、柔らかい。女の子の胸ってこんなに柔らかいのか。
いや、胸だけじゃない。身体全体が柔らかくて……でも、抱きしめたら折れてしまいそうなほど細くて……あぁ、なんだこれ。天国かな?
未来は俺の腰に震える手を回していた。二つの双丘は、これでもかというくらい押し付けられていて、強調される谷間に目を向けることができない。
それに、いい匂いに鼻腔が満たされていく。シャンプーや柔軟剤なのかはよくわからないけど、女の子の匂いって感じだ。柔らかい感触や匂い、それに温もり。もう、俺までパニックになってくる。
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