第2話 動けない牛

第一牧区と第二牧区と第三牧区は、同じ水場を共有している。

ここの牧区移動は、簡単で第一牧区に草がなくなると第二牧区の入り口を開ける。牛は必ず、水を飲みに来るので、第二牧区の入り口が開いていれば、草のある方に移動する。

次の日には、ほとんどの牛は移動してくれている。


牧野の事は、牛が一番知っている。


しかし、たまに慣れた場所の方が良い牛もいる。

特に初入牧の牛。

今まで畜主の牛舎で育ち、いきなり牧野に放牧された牛の中には、環境に慣れてくれない牛もいる。恐くて寂しいのだろう。


牛は基本的に同じ牛舎で育った者同士で群れを作る。

群れの場合は、数頭を追えば、後ろから他の牛も着いてくる。


しかし、一頭だけ、群れにも環境にも馴染めず、牧区の奥でウロウロしている牛がいた。


一頭の牛を追うのは、なかなか難しい。

第一牧区と第二牧区は隣接しているので、第二牧区に入っている牛の近くをウロウロしている。


この牧区は水場に行くまでU字型に移動する必要があり、どうしてもその移動が出来ない様。


1日目。せっかく80頭の牛を移動させたが、第一牧区に牛を戻す。他の牛と一緒に動いてくれないか頑張るが追えず。


2日目。隣接する第二牧区に牛がいると動かないので、第三牧区を開けた。

「三牧区を使うのは大変だがこの娘の為だ」

また第一牧区に牛を入れ、追うと右往左往するので、遠くから、しばらく観察していると他の牛と移動しているようなので、安心して放置しておく。

夕方、見に行くとポツンと残っていた。


3日目。「もう3日も水を飲んでいないのか?身体が心配だ」

この牛もそろそろ他の牛に着いていかないといけないということは分かって来たらしい。他の牛に着いて行こうとしている。しかし、途中ではぐれる。


そーっとそーっと何頭か牛を追って誘導し、U字型、最大関門の土手のところまで追い込めた。刺激すると逃げるので、土手のところから離れない様に、そーっと追い詰めていく。しばらく見ていたら、土手を登れない様だ。

他の牛が通れるところを教えている様だが、それも分からない様。

私も少しずつ間合いを詰めて誘導していく。


やっと、登れた!

もう、ここからは牛道沿いにいけば、水場に行くしかない。


ん?どうもこいつは、牛道を通る事をまだ分かっていないらしい。

しかし、あまり刺激すると、また、逆戻りになるかもしれないので、私は、土手の降り口を塞ぐ。


やっと他の牛に着いて行ってくれた。


無事、水場に入ってくれたので、第三牧区に入れ、戻らない様、第三牧区の入り口を締め、第一牧区と第二牧区に残った牛を水場へ追い込み、第三牧区へ全頭移動完了。

朝5時から昼3時まで歩きっぱなし。


とりあえず、この問題児を私に馴らすところから始めよう。

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