第3話 問題児

明日から、月に一度の四連休。30連勤しているんだから、たまには、休ませてよ。

私が、休みの時は、牧野組合員がふたりずつ登って来てくれる。

わざわざ私の替わりに片道40分かけて登って仕事をしてくれる人たちに、草が無くなったからと言って牧区移動してもらう訳にはいかないので、数日しか経っていないが、早めに牧区移動する。


今度は、第四牧区。

ここは、少し難しく、水場も孤立していて、車道を渡さないといけない。


まず、第一第二第三牧区で共有している水場に牛を集める。

そして、有刺鉄線で車道を渡す道を作り一気に移動させる手順だ。


しかし、全頭集まってくれる訳ではない。

まだ、草は残っているし、入牧まもない牛は集まってくれない。


とりあえず、いつものとおり牧区の奥から車道沿いにクラクションを鳴らし、水場へ走る。そして、「べぇーべぇー」と何度も叫び、配合飼料を撒き、牛たちを集める。

2/3くらいの牛は集まってくれた。

車道を渡す。

第四牧区を閉め、また、牛を集める。

もう、次の団体さんは水場の近くに来てくれている。


ん?水場に一頭残っている。

前回話した「問題児」だ。

皆と一緒に車道を渡らなかったのか?


まー次の団体さんと一緒に車道を渡せばいいか。と思い、残しておく。

団体さんを水場へ入れる。


あれ?問題児がいない。

逆走して遠く彼方へ逃げている。


団体さんを第四牧区に入れ、あと7頭。


二頭の連れ合い。

群れから外れた同じ群れの二頭。

その他、一頭ずつ群れから外れた二頭と

問題児だ。


牛は水を結構飲む。

特に今日は、日差しを強く、気温も高い。

とりあえず、水場を閉め、入り口に集まってくれるのを待つことにする。


2時間ほどすると連れあいの二頭が水場の入り口来ていた。

この二頭を第四牧区へ移動。


あと、五頭。

問題児が問題だ。

問題児込みで五頭を動かさないと。


まー期待を込めて、牧番小屋に帰り、2時間ほど待ってみる。

牧区に行くとまだ、牛たちは牧野にいる。

四頭が集まり、少し離れたところに問題児だ。


皆、そろそろ喉が乾いているだろう。


試しに追ってみる。

問題児が一番後ろ、他の四頭は牧野に慣れているので、水場へ向けて牛道を歩いている。問題児がはぐれる。


どうも問題児は30cm程度の土手を降りれない様だ。


50mくらいの間合いをとって、少しずつ、他の牛に近づけていく。

やっと、着いていってくれた。


この時の為に、水場に大量の配合飼料を撒いていたので、嬉しそうに食べている。第四牧区に入った牛たちも羨ましそうに集まってくるので、車道を渡してあげた。

もう、繁殖牛の女子会状態。


私は、皆が食べ終わるまで、一服。


皆が落ち着いて来たので、一気に第四牧区へ入れる。


先日まで、私を怖がっていた「問題児」の視線が少し違う。

私も「出来の悪い子は可愛い」のか特別視するようになった。


早く牧野に慣れさせてあげないと。

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