どこでも寝ちゃうおじさんでも眠れなかった日

 人間の3大欲求の一つを司るのが、何を隠そう私である。

 私はいつなん時でも寝る事ができるどこでも寝ちゃうおじさんなのだ。

 みんな、見たことないか?公園で、通勤電車で、図書館で、映画館で、お店のシャッターの前で、、、数え上げたらキリがない程の至る所に私は現れる。

 確かによく見るけど、いつ何時でもは嘘だろだって?

 馬鹿にしないでほしいなぁ。みんながみてないところでも寝ているんだよ。

 MRIのガガガガガトントントンガガガガガと言う音の中。歯医者さんのキュアイーーーンガガガガガと言う音の中。線路横のアパートのカンカンカンカンガタンゴトンガタンゴトンと言う音の中。リリフランキーのトントントントンヒ○ノニトンと言う歌の中。健康診断の時なんか口からでもお尻からでもカメラ入れられても寝ちゃうんだから。隣人のギシアンッの音が響く壁の薄いマンションの一室でもスヤスヤ寝れるのは私くらいだろう。


どうだね。私の凄さが伝わったかな?


 でも、あの夜だけは違ったんだよ。。。そう、あの夜だけは。。。


 いつものように後輩二人に飲みに誘われて3人で飲みにいったんだ。

 誘われたと言っても、だいたい二杯目をオーダーする頃には私は寝てしまい閉店の時間となり店員さんに起こされて残された伝票をみて、今日はこんなものかと会計を済まし、電車に乗って終点まで寝て帰るのだ。

 でも、いいのだ。おじさんすこぶるお金持ってるんだ。だって、食事とお風呂と家事してる時以外、仕事中でも寝てるからお金が貯まって貯まってしょうがない。

 仕事中寝ててクビにならないのかだって?大丈夫なのだよ。今の社長が現役の間はね。

 なんせ社長の命の恩人だから。まぁ、その話はまた今度だ。

 その日は珍しく二杯目を飲む時も起きてたんだよ。なんでだろうか。後輩くんが隣で飲んでる3人組の20代半ばくらいと思われる女の子達に声を掛けて、いきなり盛り上がっちゃったからだろうか。

 でも、おじさん若い子の話についてけなくて初めて狸寝入りしちゃったんだ。

 女の子達が心配そうにしてくれていると後輩くんが、どこでも寝ちゃうおじさんだから大丈夫だよ!とおじさんのエピソードを交えて話をすると女の子達も、えーそんな人いるんだ。ウケる。とひと笑いされたところで、話は別の話題となり、おじさんは蚊帳の外で狸寝入りにしけこんだ。

 数時間もたった頃、二次会でカラオケ行こうという話になったようである。おじさんはこのままいつも通り閉店までいて会計をして帰ろうと考えていると、、


『ねぇねぇ、起きて!おじさんもカラオケ行こ!』


晴天の霹靂だった。後輩二人も突然の事に寝かせておいてあげようとあたふたしていた。

 それでもなお彼女は私の肩を優しく叩き起きてと声を掛けてくるものだから、眠たそうに、閉店ですか?と言葉をはっすると。


『閉店の時間ですよ。あはっはっ』と無邪気な笑顔を見せるものだから、人生で初めてきゅんとしてしまった。


 お会計いくらですか?と照れ隠しをしながら返事を返すと


『寝ぼけ過ぎぃ。早くカラオケいくよ!』と私の上着の肩の辺りを引っ張ると床に置いていた私のバッグを持ち上げ胸元に押し付けてきた。

 レジへ向かい会計をしようとすると、後輩二人がここはオレ達がだすよ!と、女の子達に声を掛けると、いつも奢ってもらってるし、今日はいいすよ。なんて言われて、今日は人生初が目白押しだなぁなんて心がおどった。

 人生初のカラオケ、どんなにうるさくても寝てしまう私には空気を悪くしてしまうんじゃないかと、ただそれだけが不安であった。


 あいみょんだとかひげだんだとかは分からなかったが、えぐざいるは分かった。ただ、チューチュートレインってえぐざいるだっただろうか。

 気がつくと二人きりになっていた。まさか夢でも見てたのか?他のみんなは?と聞くと、おじさんカラオケ夢中過ぎてみんな出て行っちゃったよ。と目をキラキラさせながら言ってきた。

 なんでみんなと一緒に出なかったのか聞くと、おじさん楽しそうだし気がついた時一人だったら寂しいでしょ?とのことだった。

 話を聞いていると派遣先で一緒になり、珍しく気があったので週末だしと就業後にご飯がてら飲んでいたということだった。

 それでも申し訳ないことしたなと思っていると、外に出ようと手を引かれた。何か目的があるでもないので、会話をしながらぷらぷらと歩いた。気がつくとホテル街だった。

 まるで狙ったようにホテル街とはベタな話だと考えていると、しれっとホテル街に連れてくるなんてすけべな人ですねと真顔で言われたので、私は童貞だから連れてきたところでやり方分かんないよというと、じゃあ、今日が初体験になりますねと笑顔を見せると手を引きなれた様子で、部屋へと導かれた。

 彼女は部屋に着くと冷蔵庫からお茶のペットボトル2本取ると、1本を手渡してきた。ベットに腰を下ろしお茶に口をつけると、先にシャワーどうぞと促された。あまりの緊張に言われるがままシャワーを浴び普段の倍ほどに泡立て体を洗った。ガウンおいとくね。と扉越しに声を掛けられ。思わずありがとうと返事を返したところ笑い声が聞こえてきた。

 浴室を出るとガウンに袖を通した。何が面白かったのか聞くと、まさかありがとうなんて返事くると思ってなかったというので、お礼を言うのは普通じゃないかというと、確かに普通だね。と彼女の目が曇ったように感じた。

 じゃあ、シャワー浴びるから適当にくつろいでてと、彼女が浴室へと消えて行った。やることがないので、壁についているネジを回して照明を調整してみたり、冷蔵庫の中を覗いてみたり。いわゆるエッチな道具の入った自動販売機のようなケースも部屋にはついており偉く感心していると、彼女がお待たせとガウンを羽織り濡れた髪を拭きながら出てくると愉しそうだねとまた笑った。

 なんでこの子はこんなに笑顔なんだろうと疑問に思った。この年頃の女性はみんなこんなものなのだろうか。

 髪を乾かしに彼女が行くと飲みかけのお茶にまた口をつけて喉を潤し部屋を見渡しながら、そういうことをする為の部屋なんだなと思うと、なんだか冷静な自分がいることに気がついた。

 彼女は戻ってくるなりじゃあ、しようかと言い、ガウンを脱ぎ捨てた。冷静さを取り戻したばかりの私は偉く慌てたとのもつかの間、女子高の制服が身に纏われていた。

 どう?裸じゃなくて残念だったかな?制服かわいいでしょ?と詰め寄ってきた。ある意味裸よりもドキドキした。制服にじゃない。急に詰め寄られたことにだ。

 なんでそんなに君は無邪気でこんなおじさんい優しくしてくれるんだい?自然と質問を投げかけていた。

 なんでだろう。おじさんといると自分を隠せなくなるの。隠したくて無理に明るく振る舞っちゃう。離れてどっか行っちゃえばいいのに、一緒にいたいとも思ってる私もいて、不安と高揚感があって、なんだか分からないの。

 そうなんだね。と返すと二人ベットに並んで座り一旦落ち着こうとお茶を口にした。

 しばらくの沈黙の後、彼女は自分の話をしだした。小さい頃にお父さんを亡くし、お父さん子だった彼女はえらく打ちひしがれたと。タイミングが良いというのは違うが、生命保険を条件の良いものに乗り換えた矢先に亡くなった為に、多額の保険金が入り生活は苦労しなかったという。

 そのうち母親に新しい男ができた。自分も高校生になり、寂しさを覚えつつも母に幸せになって欲しいと思う気持ちもあったという。

 何度か3人で食事に出かけるような関係ができると、彼は頻繁に家に来るようになった。ベタな話だけど、苦笑いをしながら襲われたんだと話を続ける彼女の話に耳を傾けた。

 何度も何度も母のいない時にはそういうことになり、母には言えなかったという。ゴムなどつける気もないのか、そのうち妊娠もした。ストレスからか、早々に流産してしまったのは良いことだったのか、望んではないが少なくとも血を分けた子が命を落としたことは哀しかったという。

 そんなことがあっても相変わらず、彼は家に来ては白濁の液を撒き散らしたそうだ。そのうち何があったのか、しばらく母と彼の二人の姿を見なくなった。

 食卓に10万円が置かれていたので、食費はまかなえたが、2週間もすると警察が来て、母とその彼が死んだことを告げらたという。

 亡骸の近くには母の遺書があり、そこには全て知っていて守れなかった事についての謝罪とせめてもの罪滅ぼしとして、彼を道連れに命を断ちますという内容が書かれていたようだ。書かれていたようだと言うのは、彼女は母が全てを知っていたと言うことよりも、守ってくれなかったと言うことよりも、自分を置いて命を断ったことが辛く読める状態ではなく警察の言っていたことが全てと言い、その後も読む気になれず火葬の際に読まずに母と一緒に焼いたと言う。

 その後、遺産と保険金で高校を卒業し就職するも、先輩社員に学歴を馬鹿にされ、退職し大学受験をし無事4年生大学を卒業し、再就職した先が今の職場だと言う。派遣の会社で、営業として入ったが、人手が足りない時や、派遣さんの気持ちを知るため定期的に自分も派遣先に出ていたという。

 その派遣先で初めての彼氏ができしばらくは幸せな日常を過ごし、この人と将来を共にしたいと願い始めた矢先に、彼の浮気が発覚した。

 彼がもうしないと懇願するため、信用するが1年後また浮気が発覚する。流石に辛く別れを告げると、粘着されたそうだ。

 帰宅時に待ち伏せされたところを、襲われたがたまたま通りがかった男性に助けられ、元彼はあえなく警察に逮捕された。逮捕はされたがしばらく人通りの少ない道は歩けなかったと、この辺から涙を流し始めた。

 話を止めようとしない彼女の話を遮るわけにはいかないと、ゆっくりで良いからねと手を握っていた。

 その後も辛い目にあったと言う。大声で泣きながら話を続ける。話尽くしたのか、泣き疲れたのか。私の胸に顔を埋めしばらくすると寝息を立てていた。そっと、太ももに頭を下ろし寝やすい体勢に体を横にさせた。

 なんだってこの子は初めてあったおじさんにこんなに洗いざらい話をしたんだろうか。父親でも重ねたのだろうかと考えながら寝顔を覗き込んだ。

 こんなにまじまじと他人の寝顔を見るのは初めての事だった。しばらくすると、何も考えず、ただただ寝顔を眺めた。

 時計に目をやると9:30をさしていた。こんなに起きていたのも初めてだった。ふと視線を彼女に戻すと、スカートがめくれ秘部が露わになっていた。

 親心のようなものが芽生えたり、過酷な人生を聞き同情もしていたのも裏腹におじさんの

息子は元気になった。元気になった息子さんが彼女の睡眠を妨げたのか、目を覚ましじめる。自分が恥ずかしくなり寝た振りをすると彼女がおじさん元気だねってニヤニヤしながら声を掛けてきた。わっわっと股間を隠すようなリアクションをすると昨日の泣き顔とは裏腹に素敵な笑顔を見せた。

 こんなにぐっすり寝れたの久しぶりだったと彼女は言う。いつもは2時間も寝れれば良い方だとも言っていた。昨日は重たい話ししてごめんねとはにかんだ。

 身寄りもないし、友達にこんな重い話できないし話せてスッキリしたとハグをされた。その後、着替えすると連絡先を交換した。

 帰り際に、まさか童貞だから何もできないなんて断られると思わなかったよ!と一言残し彼女は去っていった。

 その後、彼女から連絡が来ることはなかったし、私もあれ以降いつものどこでも寝ちゃうおじさんに戻っていた。


 あらから5年。今日彼女からメールが届いた。


【ご報告】必読!!

どこでも寝ちゃうおじさん

お元気ですか?

私のこと覚えてくれてます?

唐突ですが私結婚します。

おじさんとの一夜以降相変わらず不眠が続きましたが、

心の許せるパートナーに出会えました。

相変わらず、寝つきは悪いですが、

今までで一番幸せです。

お祝いなんていらないので、

結婚式に参加してもらえないですか?

おじさんと会ったのは一度きりですが、

あの日以降から私の人生が明らかに変わったのは確かなのです。

おじさんに私の花嫁姿を見てもらいたいです。

ずっと連絡せずすみません。

ご参加お待ちしております。


○月○日

10時

○○県○○市○○1−1

グランド○○○


連絡しなかったのは私も一緒だよ。

私があの時眠らなかったのはきっと彼女の幸せの為だったのだ。

私があの子の分も寝て、あの子の分起きていたに違いない。

下心がなかったといえば嘘になるだろう。

結婚式場で寝ちゃわないかだけが心配だが参加しようと思う。


Re:【ご報告】必読!!


私は相変わらず童貞ですが元気です。

是非参加させて頂きます。


と返信を送った。

なんでこんな事を送ったのか自分でも謎だが、

おめでとうございますなんてありきたりな言葉よりずっとこれが良いと思った。

 人生で一番幸せと思えるパートナーと出会えても未だに過去を引きずってしまうのだろう。

過去は消せないけど、人間は寝れば大概のことは整理をつけることができるし、

前向きに考えることができる。

 きっと結婚式で私は寝ないだろう。そして、彼女は結婚式の夜は幸せな夢に包まれてぐっすり寝れるに違いない。


 私はどこでも寝ちゃうおじさん。今日も明日もどこでも寝ちゃうおじさん。

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嬉々として虚構 金曜日 @kinyoubi

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