朝摘みの瑞々しさの香りの味の

 家庭菜園を始めてかれこれ数日。音沙汰の無かったプランターから芽が頭を出した。

 頬を涙がつたう。生命の誕生の尊さよ。気がつくと芽を摘み口へはこんでいた。

 ジャリっという砂の食感に続き土臭い匂いが鼻腔を抜ける。新芽の青臭さなどは一切感じられず、むしろ、こだわり抜き農家より譲り受けたたい肥の匂いが鼻をつく。

 今日ほど自分の衝動を抑えられない性分を憎く思った事はない。まだ一つ目の芽が生えただけでこれからまだまだ生えてくる。むしろ、貴重な体験をした。新芽の味を楽しめたのだ。次は洗って食べよう。

違う。

育つまで待つのだ。


 翌日また芽が頭を出した。今日は昨日のようにはいかないぞと衝動を抑える。

ジョウロに水を入れ、プランター全体に水をかける。

 大きく育てよ。期待を込めて水の滴る新芽を眺めると自然と口へはこんでいた。

 ジャリっという砂の食感に続き土臭い匂いが鼻腔を抜ける。新芽の青臭さなどは一切感じられず、むしろ、こだわり抜き農家より譲り受けたたい肥の匂いが鼻をつく。新芽にのった水滴の分なのか昨日よりは瑞々しさを感じた。

 今日ほど自分の衝動を抑えられない性分を憎く思った事はない。まだ二つ目の芽が生えただけこれからまだまだ生えてくる。むしろ、貴重な体験をした。瑞々しい新芽の味を楽しめたのだ。

 

 翌日プランターを見ると芽は見当たらなかった。

ジョウロに水を入れプランター全体に水をかける。

早く芽を出すんだよ。


 翌日プランターを見ると芽は見当たらなかった。アレっと思い。水をかける。


その翌日も芽は頭を出さなかった。


 そんな日が続き、いい加減におかしいと思った私はカメラを設置した。雀か何かが新芽をつついているのだろう。

 翌日プランターを覗くとやはり新芽は生えていない。


 早速カメラ映像を確認してみる。変化のない画面。再生速度を上げる。日が差し始めた頃、一羽の文鳥がプランターに飛び込んできた。


犯人はこいつか。


 様子を見るが土を啄む訳でもなく、そのまま飛び立っていった。新芽もなく飛び去ったか。

 しばらく様子を見ると新芽が頭を出し始める。カメラを回収した時にはすでに新芽は無かった。この後犯人が映っているはずだ。はやる気持ちを抑え再生画面を注視していると、魔法陣が現れ新芽が消えた。


目を疑った。


 巻き戻し再度確認する。魔法陣が現れ新芽が消えた。翌日も、その次の日も同じく魔法陣が現れ私の大事な新芽が消えていった。

 

これは間違いない。異世界召喚。


私はその晩わくわくしながらプランターに足を植えた。


 翌朝おもむろに目を覚ますと、魔法陣が現れる。


犯人捕まえてぶん殴ってやる

 

 魔法陣が現れるが大きさが直径2cmほどしかない。気がつくと小指が消えていた。

血が吹き出す光景を目の当たりにしながら


『もってかれたぁぁぁぁぁぁ』


と叫んでみた。

痛みより悔しさが滲んだ初夏の出来事であった。


一方その頃、異世界では。

コロリと転がる小指を眺める男が一人。

おもむろに転がる小指を摘むとなにやら移動を開始する。

行き先は農園。青々と茂ったその畑に到着すると、小さな穴を掘り、持ってきた小指を埋める。すると、途端に新芽が生え始める。


『なにが実るのやら』


一言残し立ち去るのかと思えば、新芽を摘み口にはこんでいた。


どこの世界もせっかちな男ばかりである。

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