第14話 仏神は貴し仏神をたのまず

 ここ【ネオ・ツキジ】はまるで大都会の中心にうかぶ【陸の孤島】のようである。


 いよいよ、記念すべき【第ゼロ回サイバー剣術トーナメント】が、超短期かつ最小限の準備態勢にて目出度く開催へとこぎつけることができたようだ。

 ノー・スポンサーなので【〇〇杯】などの冠はついておらず、広報は【Glitter2X a.k.a. The Shadow Commander】個人が勝手にVRワールド内で放送するという形式だ。

『やっと、今日が来たか!

 ここまで来たらいまさら引き返せやしないのさ!』


 本日は準決勝までの4試合まで。

 決勝は3日後にヒラガ・クザブロウ議員の【政治力】で、なんと!

 調査の目的地、あの【AOMI】にて挙行される運びになったのだ。

 なんという念の入った遠大な仕込みであろうか。誰も、日本政府すらもここまで要求していないというのに……(あ、トーチカがいたw)

 いくら【役人稼業はツライよ】といっても、さすがに個人(しかも”民”ではなく”官”)の到達しうる極大値レベルではないだろうか? たったの300万円で無観客の配信興行を打つだなんて、再委託の中抜きも夢のまたゆm……!(自粛……)


『ヘッ! こうなったら乗りかかった船だ! やり遂げるしかね~ってんだ!デェス』


 インターネットを介在したスポーツベッティングの【不正排除実験】も今回の重要な調査目的のひとつだ。

 ユキトシは前回のようなトラブルを回避するため、手回しのいいことに今夜ネオ・ツキジで準決勝が終わったその足で、決勝に進む2名を伴って現地の下見と入念なリハーサルを行う手はずにしていた。当日はなるべく短時間ですませたい。

 ヒラガ議員はなんと今日、迎えの車を差し向けてくれるという!

 ……至れり尽くせりである。


トーナメントへのエントリー選手を再掲しよう。

アオヤマ 元俳優        神リスト

アヤセ  武芸者         同

エックス プロゲーマー      同

シンバシ 照月流和太鼓継承者  VR掲示板 

トヨセ  元警察官       神リスト

ヨヨギ  ネオ体操       VR掲示板 

※アイウエオ順 


 情報の流出を懸念し、選手の選考は応募写真を見ながらの【電話審査】で行われた。(単にweb会議をやりたくなかったw)

 ユキトシにとって参加者とは本日初対面となるが、すでに選手たちはトーチカ所属の会社の人が招集して打ち合わせ済みだ。トーチカ曰く、全員かなりの【手練れてだれ】だと興奮交じりに報告してくれた。非常に楽しみだ。


 【多密】を避けるため、選手には試合の1時間前までに10分刻みで会場入りしてもらい、到着次第それぞれ全員に装備の装着方法やゲームの運用に関してリハーサルが行われる。手袋などの必要な備品はそろえられていた。

 このようにすべては基本【流れ作業で】運用される。もし仮に想定と反する事態が勃発したとしても【あたかも最初からそのように打ち合わせてあったテイ】で、アドリブを使って誤魔化す算段だ。まるであの【仁義グルーヴ】のセッションかのごとくシームレスに……。

(ちなみに【仁義グルーヴ】とは、主要メンバーの【ピョエール.牧】がテレビのワイドショーを中心に世間を炎上させていた世界的人気のテクノ・ディスコ・バンドだ)

 さて、トーチカはたっての希望でオペレーター・コジロウと共に連携し、撮影係を相務めることとなった。また本番では【ヨビコミ】とやらをするとかで【スピーカー&マイク内蔵型フェイス・シールド】を装着し、会社のスタッフと音声や照明、そしてVR収録用の定位置カメラのチェックに余念がない。


 無観客を徹底させ、かつライブ放送を完璧にするため、周辺にはじゅうぶんな警戒態勢が敷かれた。

 警備役に当たるのは、丼だおれの店長を【頭目】とする【新旧ツキジ衆】だ。【ネオ・インナーマーケット】を構成する飲食店のひとびとや若き起業家たちまでいる。彼らはCAWGでの競技撮影会でも縁の下の力持ちをしたのだろう。トーチカが親し気に話しているところをみると、どうやら彼らの中に例の乗り物【ターレ】の貸主がいるものと推定された。

 早朝、寿司屋の大将が気を利かせて有志によびかけ【ナミ・ヨケーノ神舎】において安全祈願のお払いを一同で受け【ヨケ=オフダ】を持ってきてくれた。そればかりか、丼だおれとラーメン屋にもよびかけ、高級海鮮稲荷や【にゃんこ握り飯(笑)】なども詰め合わせた豪華寿司折をターレに載せて差し入れてくれたのだ!

『あ~ ありがてぇありがてぇ……マンナンマンナンマンマンチャン!……アッ!』

 ユキトシエルは感激のあまり【堕天使】設定のくせに別の宗派のおまじないを唱え、感謝をささげていた。

 撤去が決まった支所近くの商店からも、のし紙を巻いたスルメ、乾燥ホタテ、わさび豆やゲソの酢漬けなどの祝いの品々が続々と届き、急きょ会場に発泡スチロールが持ち込まれると、それら【協賛品】を陳列するための台として置かれ、さながら村祭りの境内のように会場は活気を集めていた。気を利かせたどこかの店が、頼んでもいないのに紅白幕をわざわざ持ってきてくれて緑のシート区画の周囲の壁へ垂らした。

 こうしてすっかり舞台は整った。


『う〜ん……みんなの気持ちがうれしい! あとは試合と中継が滞りなく進んでくれたら』

 と願いつつも。

 じつは昨夜から【何か忘れているような違和感】を心の奥底に感じていたのだ。

 彼が【否! CAWGの大会記録や映像をあまねく俯瞰して再構成したのだから抜け落ちなどないはずだ!】と自分に言い聞かせた、まさにそのときだ。


「しょっちょ……じゃなかった、ユキトシどの~! アヤシゲな不届き者が侵入してきてるのだあああ!」


 突然トーチカが瞳孔をカッピライた状態でドドドドとこちらに走ってきた。

『な、なんだってー?!』


「さっきから【悪魔の審判者】と名乗るあやしいおじさんが【白のヒカリ】を出せと受付でしつこいのだ! トーチカはどうしたら良いのか?」

『あ、なーんだ記者さんだw でもここは記者さんだってコト伏せとこう』

「問題ありません。その人は2020sの恩人ですのでお通しして下さい」

「りょ……りょ~~かいなのだ! こういうときはVIPリストが事前にほしいのだ。デス」

 ぴゅうううっと走っていった。

『フューナラル・アラートの掲示板には場所は書いてなかったけど、記者さんどうやってここを見つけ出したんだろ? VIPリストw……メディア禁止なので偽名をつかったのか、やるな。フッフフ。どんなふうに報道されるのか楽しみだぜ(ニヤニヤ)』


『今度こそはカッコ良くメディアに映りたいよな』

 ユキトシはいつもの役人の正装であるスーツ、というか【背広】を着るのも違うよな~とずっと悩んでいたのだが、よくよく考えればむしろ調査費用を出した元の【省庁臭】を消臭するスタイルが正解だと思い至り、黒雀とおなじようなカッコイイ戦闘服っぽい装備をネットで探し出していた。色は青。【白のヒカリ】だとまんまだし、黒だと黒雀と被ってモニターのコジロウから識別しづらくなる。


 まえぶれもなく、前回の撮影会で装着の補助や設営をやっていたトーチカの会社【キョウユウ】の人が、フクロウのように音もなく進み出ると、丁寧にあいさつをしてきた。この間はどんな格好をしていたか忘れてしまったが本日はなんと【紋付袴】だ。裾は奴さんのように横に上げ白い襷掛けを締め、フェイスシールドやマスクではなく、いわゆる大谷刑部少輔吉嗣の【アレ】を顔の前に垂らしていた。ただし透過性の特殊素材だ。

「ヒジリ調整官! 弊社の競技を、テスト撮影ばかりか調査対象に採用して下さり、このたびは誠にありがとうございます。申し遅れご無礼しました。キョウユウの会長ワシミと申します」

『えええええおえおおお。このこの人会長さんだったの?w  ヒラ社員かと思ってぜんっぜん挨拶してなかった。存在感消えてたよね!?』

「よ、よろしくお願いしますっ! すいません御社への正式なご挨拶がまだでした……!」

 両者は深々と一礼をした。この人がこのサイバー剣術を発明したのだろうか。

 キョウユウ会長は口の前の布が揺れないようにするためか、おごそかに言った。

「失礼ながらひとつだけお伺いしたいのですが……賞金のお支払いはどのようにされますか? 一応目録はこうしてご用意してありますが」

 毛筆の達筆で表書きされた大きなのし袋を紋付の懐から出し、陣幕を敷いた【神棚】的な台の上に置いた。優勝100万円、準優勝50万円である。

 色鮮やかな豪華な水引を見て【主催者】は、膝から崩れそうになるのをすんでのところで持ちこたえた。


『やっ……あっ!? 当日になったのに【ゼニ】をおろすの忘れてた!!(ペロ)』


 なんと言うことか!

 装備をポチしたときにどうしてだいじな最大支出先への手はずを思い至らなかったのだろうか。

『あ~そうかわかったw! CAWGのときはメダルだけを渡していたからか! 会場で現ナマwの授受は……見てなかった!(あるわけない)』

 そこへ成り行きを見ていたコジロウが心配そうに横から口をはさんできた。

『た、助け舟だ。コジロウ乗れ! いや乗せてくれ! そしてこの魂持って行け!』


「あのぉ主催者殿。こんな立派な封筒にはジカに紙幣は普通入れないものだと思いますよ!? キョウユウさん、通知書面郵送の上、後日振り込みでよいですよね?」

 と、先に如才なく挨拶をすませてあっただろう調子で問うと、会長は問題ございません、との返事をし黒雀に筆を持って来させ、白手袋をした手でさらさらと一筆【裏書】した。それは主催者が直筆で書かなくてもよいものだったのか?

 とにもかくにも、一件落着。会長は来た時とおなじようにすーっと滑るように装甲車へと戻った。


『あっ……ぶねー! どうなることかと思ったよ……』

 ホッとしたユキトシは、昨日からひっかかっていたのはこの事案だったのかと判明し、霧が晴れていくような気分になった。

 それなのに作務衣姿のコジロウは持ち場の装甲車に戻るかと思いきや、小声で聞いてきた。

「まさかとおもうけど……ここの倉庫の所有者というか管理者には、ここまでの騒ぎになるとかの連絡や【御案内】とかって……出してないことはないよね?」


「え待ってそういえば! 言ってない!」

『大事な地権者様に何も言っていなかった! 上司への報告にばかり気が向いてたんで、肝心のポイントを押さえていなかったなんて!』


 倉庫に入る門の鍵はトーチカの会社が仕切っていたからそのあたりの管理意識はすっかり欠落していたというわけだった。

『タダで使っていいとは言われたけど、なんでも自由にしていいなんてことは絶対ないよね!? 大変だ! 全く収拾がつきそうにない……』

 前のときもそう。設備管理の件でモメたのをすっかり忘れていたユキトシ。

『やらかした。ヤッテもーた』

 試合はまだなのに、次々に問題が発生してきていた。

「待て、えっと今、何時だっけ?」

 思わずそう言って腕を見るが、いつものスーツじゃないので腕時計をしていない!

『そうだ!スマホはどこに入れたっけ?』

 彼はどうやら選手が来る前に、ひとこと管理者へ連絡を入れようとしているらしい。

『今すぐトーチカを呼んで倉庫の所有者につないでもらわなきゃ!! まずはトーチカだ!』


 そう思いついたその瞬間、遠くで太鼓の音が【ドン!】と響いた。


『……ハッ? こんどは、なんだ?』


~ドンドド ドンッ  ドンドド ドンッ

 ドンドン ドンドド ドンドド ドン~


「選手のと~う~ちゃあああく!」

 トーチカが叫んで知らせた。

『もぉ〜 なんでこんな大きな音でワザワザ目立つようなことをするんだよ~!』


 会場に入ってきたのは「照月流しょうげつりゅう和太鼓継承者の【シンバシ】選手」であった。中くらいの太鼓を小脇に抱えるようにし背には荷物、みずから太鼓を鳴らしつつ門から入ってくる。『いったい今は何時代なんだ?! そんな過剰演出は要らないからw』と思ったが警備のツキジ衆がヤンヤヤンヤの大騒ぎ。一同大歓声だ。シンバシはトーチカに誘導されて太鼓を鳴らしつつ【控室】と紙を貼りつけられた倉庫へとそのまま消えていった。

 この場合【試合場における鳴り物持ち込み禁止】と選手に伝えていない主催者のほうに不備不測があるというもの。


 全身より流れ落ちる【魔界製オリーブ】の油分と蒸発する水分を同時に感じながら、ユキトシは衣装よりも更に青くなった。【倉庫の使用】ってホントに大丈夫なんだよなあ? 

 そんな調子でパニックに陥ったユキトシをよそに、残りの選手もおもいおもいに到着し、各人所定の床几に腰かけた。ようやくひと段落ついたのでトーチカを呼んで【地主さん】についての連絡不備の懸念を口にした。


「ああ~しょちょー殿ぉ、そんなことぜんっぜん心配ご無用なのだ! もう朝から倉庫のモチヌシはココに来ているのだ」

「えっ それ誰っ!? 知ってる人?」

「あとでちゃんと紹介するので大丈夫なのだ! それよりコレ、トーチカが持ってるから最初のご挨拶をお願いするのだ。それからみんなに【くじ】をひいてもらうのだ」


 トーチカは手作りらしき箱を掲げた。デカデカと【くじびき】と書いてある。ますます商店街の半額市みたいな様相を呈してきている!

 開始の挨拶の記憶は、ない。何か話したと思う。ともかく流されるがままにボーっとしていると、グリーンバックに貼られた手書きのトーナメント表の前にアイウエオ順で呼ばれた選手達が【くじ】をひいて、以下のトーナメント・マッチングが決定した!


第1試合 準々決勝(1) シンバシ(和太鼓)VS ヨヨギ(ネオ体操)

第2試合 準々決勝(2) アオヤマ(元俳優)VS トヨセ(元警官)

第3試合 準決勝(1) 準々決勝(1)勝者 VS 準々決勝(2)勝者

第4試合 準決勝(2) アヤセ(武芸者) VS プロゲーマーX

第5試合 決勝 準決勝(1)の勝者 VS 準決勝(2)勝者


【VRワールド】と【フィジカルeスポーツ】を組み合わせた試みがいよいよ開幕する!?



 



 

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