第11話 大混乱の謁見

本当に、人生何があるかわからない。

シルヴィアとして生きる事になった今、それはより実感の込められる言葉になった。





1ヶ月以上牢獄で監禁され、毒を飲まされた。

生死を彷徨いなんとか助かったけど、転生者として覚醒することになった。


1週間後に第一王子に見舞いを受ける。


その2日後に第二王子からの面会を受けて、彼のために5日の猶予をなんとか取り付けたことを手紙にしたためた。



たった2週間の合間に劇的に状況は変化していく。


そしてあの後ハークライト様とルクス様の間に何があったのかは、私は知らない。

ジェイン君からは、しばらくの間ハークライト様に謹慎が言い渡されたとだけ教えられた。



その後は、本来なら許されない筈なのに治療師の治療を受ける事になった。


治療師の治療のおかげで私の体内に残った毒は、全て浄化され後は炎症を起こしている喉を労わるようにとのことだった。


体が自由に動く事がこんなにも恵まれているのだと実感できた2週間だったとそう思いながら・・私はシルヴィアとしてフォースへの亡命準備にかかったのだ。


色々あって2ヶ月程過ごした地下牢を警護の任を第一王子より任されていたジェイン君に連れられてというか、エスコートされて出された私を待っていたのは怒涛のお召し替えタイムだった。


どうぞ、こちらへというジェイン君の素敵な声にうっとりしていたら、まさかの扉の奥は女の園。


いや女の戦場となっていた。

シルヴィアの経験では風呂を手伝うのは普通一人の侍女だけである。

次期王太子妃であるがためそれなりに傅かれることになれてはいるのだ。

だが人材不足の今、湯殿などを用意する人員がもったいないと考えていたのか、あまり頻繁にはお風呂は使用してなかったようだ。


「えっ・・・・」


「後程お迎えに参ります」


「はい?」


呆気にとられている私にジェイン君がそう言い残し部屋を出て行ってしまった。


意味が分からずに目の前の礼をする十数名のメイドさんたちを見る。


数人のメイドさんたちは、見覚えがあった。ここ1月私の看護と介護をしてくれた方々で後数名はレディメイドと呼ばれる方だろう・・。

本物だなぁ。


「お待ちしておりました、・・・お急ぎ下さい」


メイドさんたちの中で一番年上っぽい人に妙な迫力でそう言われてしまったので、その勢いに負け頷くしか出来なかった。


気づいたら裸に剥かれ風呂に入れられた、2か月はまともな風呂には入れてなかったのだからもっと堪能したかったけど・・・お風呂の世話をされることがこんなに恥ずかしいとは。

丸洗いどころじゃなかった。

むだ毛処理もしっかりとされて、香油でこねくりまわされた。

・・いや、シルヴィアのプロポーションをもってしてもここまでされるとは。


その後もとにかく・・大変だった。


最初はコルセットを断ったのだが、それは許されなかった。


用意された数着のドレスの中で出来るだけ装飾の少ないものを選び、着せてもらい、髪もセットされていく。

そこまでで牢獄では汚れた鏡でしか見れなかった自分が目の前の立派な鏡に映しだされていた。


私が知るゲームの中のシルヴィアより顎のラインが少し細いし、よく見ると肌もちょっと荒れているがそれでもシミはなくただ青白いだけだ。


その瞳は深い藍色、鮮やかな金髪はお風呂のおかげでその輝きを取り戻していた。


やっぱりシルヴィアは美しい部類に入るとしみじみ思ってしまった。


髪をセットされて、薄く化粧を施されれば青白い肌に血色が感じられ、薄くあったクマも隠されていた。


ぐったりとしながらその仕上がりに満足してくれたらしいメイドさんたちにお礼を言えば、なぜだろう頬を染められました。


初めての体験だ、恐るべきシルヴィアの美貌っ。


そして現在私は王城の謁見の間へと通され、そこで普通は許されない処遇だがその高級絨毯の上に椅子を設置され、そこに座るように誘導されたのでそれに素直にしたがっていた。


ガチャという音と共に誰かがこちらへやってくる。その姿を確認しようとして、はしたなくも椅子越しに振り返った瞬間に私は、椅子ともどもその場に押し倒されていたのだった。


「ほわああ」


すっときょんな声が出たが、気にしていられない。


目の前に豪奢なドレスと豊な胸。


見覚えが在りすぎる銀髪が私を包み込んでいた、高級な絨毯のおかげでまったくと言っていいほど痛みはないし、ものすごくいい匂いに包まれてちょっとびっくりだがちょっと懐かしい感覚がした。


「王妃っ!!」「母上っ!!」「王妃様っ!!」


バックグラウンドに響く悲鳴でも確認が取れてしまったが、現在私を押し倒して抱きしめていらっしゃる相手がだれか。


「・・・あの・・・フィリス王妃?」


やっと元の声が出るようになったのは数日前だったがそう声をかければ、傾国と謳われた美貌が私の眼前に迫った。


近いっ!!近い近いちかいちかいちかい。


ゲーム内ではほとんど登場する事がなかった王妃様だが、その美しさは流石だ。2次元が3次元になる恐ろしさを実感してしまう。


この美貌を手にするのにどんな事を普段してます?そう聞きたかったができなかった。

何故って?どんどん首が締まっているからだ・・・・そんな細腕でチョークスリーパーっすかびっくりです。

世の男性良いだろう、こんな体験したことないだろうと現実逃避をしたくなる本気の締めです。


「シルヴィーちゃーーーんっ!」


突然そう叫んだ彼女を止めに入ろうとメイドさんがその肩に触れようとした時には洪水のように彼女はそのローズピンク色の瞳から涙をこぼした。


「っ!!」


耳がっ、あまり大きな声を近くで聞くと耳がきーーーんとするって初めて知ったなぁ。


「ごめ・・・んねーーーーっ、う・・う・・・」



何がなんだかわからん、だがこの場を早めに収束して欲しい、切実に。


「王妃さまっ、シルヴィア様をお離しください」「王妃さまっ」



数人のメイドさんたち、そして近衛兵さんまで集まってます。これは大混乱だなぁと思いながらせめてと細い背中をとんとんと叩く。


「王妃・・さま・・・お放し」


「う・・う・・もうお母様って・・呼んで・・・くれない・・・、の・・・ねーーーーーーーーーーあーーーーーーん」


いやどんなにそのシルヴィアちゃんの記憶を探っても呼んだような記憶ないんだけどっ!!こんなキャラなのフィリス王妃様は。


っていうか、みなさんの視線が痛い。


気づいたら、周囲は十数名に囲まれていて、王妃様を宥めようと数名のメイドさんが右往左往している。


そんな混乱を収めようと鶴の一声が響いたのはその時だった。


「王妃、バーミリオン伯爵を放してやれ」


ヤバいっ・・・なんて素敵な声でしょう。声優っていい。あぁ・・ストライクゾーンですよ。素敵なバリトンボイスにほれぼれとしてしまった。


「うーーーだって、だってシルヴィちゃんがーーー」


「フィリス・・・俺以外に抱きつくな」


うわぁ・・・とんでもないセリフですね。その言葉で一瞬で私を離して下さる王妃様、その腕から解放された私に慌てて駆け寄ったのは、第一王子のルクス様だった。


「大丈夫か?」


「はい、それより王妃様はどうなさったんですか?」


王妃の取り乱し様にそう聞けば、何故か視線が逸らされた。


「・・・その、ここ1年の・・・お前の処遇をお聞きになったらしい」


「1年?」


「お前に対するハークライトの行いを聞いてな、お前を娘に出来ないと知って・・・」


あのお願いですから、視線を逸らしたままでしゃべらないでください。


「だから言ったのですっ!!」



おっとBGMの様に王妃様の声が重なり、私を指さして下さった。


「あの子ではシルヴィちゃんを幸せにできないとっ!!」


「いや、だがあの時は、ハークライトがどうしてもと」


「たった4歳の子供のおねだりを本気にとったあなたがいけないのですっ!!私は言いましたわっ!あの子には合わないと・・・それをあなたはっ」


ぽかぽかぽかとかわいい音がしそうな感じで王妃様が王様を叩いてる。


王様は一切の抵抗をしないで困り顔で甘んじて殴られていて、それをオロオロと見守る近衛兵たち・・・なんて平和な光景だろうと現実逃避をしたくなった。



「フィリス、少し落ち着いてくれないか?」


「落ち着けませーーんっ!」


なんだろう、これは多分シルヴィアの気持ちなのだろう。胸に迫るそれに私は逆らわず熱くなる心と揺れる視界を隠さなかった。


「あっ・・・・」


頬を伝う雫がそのままポタリと絨毯におちて、次々と溢れてくる。


「シルヴィ?」


そう私を久方ぶりに呼んだルクス王子に私は言った。


「元気になって、・・・っよかった・っです。」


婚約者であるハークライト様が許してくれなかったから、私自身が王様と王妃様へ直接お会いしたのは2年も前の事なのだ。


「おいっ」


「ずっと・・・ずっとマリーから・・大丈夫って手紙きてましたから」


マリーは、現在いまは王妃様付のメイドとして働いてもらっている私の侍女だ。2年前に王妃様付として王宮で仕えてくれと頼んだのだ。


彼女からの手紙で王もそして王妃様も生きていらっしゃることも知っていたし、光の巫女様のおかげで体調が回復に向かっていると教えてくれていたがそれでも実際に本人を見て安堵出来たのだ。


「っしる・・ヴぃ・・ちゃーーん」


再びのタックル。細い王妃だからなんとか踏みとどまることができたがその後事件が起きた。


「すっすまなかったぁあああああああああーーーーーーー」


見事なまでの土下座だった。


「へ・・陛下っ!?」


「頼むっ!!フォースへは行かないでくれぇええええええ」



無駄に素敵な声を張り上げてそう叫ぶ王に誰もが驚き、その場の空気が固まった。

そして私もまた、横にいる王子をしっかりと見据える事になった。


視線を逸らしていらした理由はこれですか、ルクス様。

涙もすっかり引っ込んだ私は、王子を睨むことになった。


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