第8話 未来を掴む準備

城へお忍びで戻ったらしい王子が私の元にいらっしゃたのは、ハークライト王子と面会した2日後の暖かな日差しが差す午後の時間だった。


通された王子は、お忍びであるためか、地味目の衣装に身を包んでいた。

やっぱり美形だ・・・2次元って罪です。


王妃様譲りの銀色の髪がサラサラと音を立て、その瞳は父親譲りの美しいエメラルド。


第二王子も美形なのだが16歳という設定なのでまだ少年の域が抜けきれずにいる。


だが目の前の王子は流石は21歳・・・体つきも均整がとれ、すらりと背が高いリアルな八頭身だ。

メイドと従者を従えて部屋に入る姿は流石に堂に入っている。


メイドさんと護衛の近衛さんたちが静かに礼の姿勢をとった。

当たり前だ、彼は一国の王子であり私たちの未来の主なのだから、ベットで出迎えるなんて言語道断だ。


「久しぶりだな・・バーミリオン伯爵」


立つ事は出来ないがそれでも、私もそれに習おうと体を起こそうとするが、痺れの残る四肢は言う事を利いてくれず、無様に転げまわってしまった。


「っ・・すまない、そのままでいい・・・」


ちょっとびっくりして固まった私に彼はどうしていいのかわからないと戸惑っている。


「バーミリオン女伯爵」


わざわざ助けてくれようとしてくれたのだろう、とても近い場所でそう囁かれた。


声優・・CVは変化なしだ。・・・嬉しいけど、マジやめてっ!!

あああああ・・ファン歴●十年です。

シルヴィアとして生きる事1週間、何故かそれだけは、未だに前世感覚が抜けません。

たまに様子を見に来てくれる近衛のジェインくんの声に悶えているなんて誰にも言えない。

オタク根性はたとえ悪役に転生しても消えないなんて・・。世のオタク女子、転生後は、気を付けろ。


内心喜んでいいのか、落ち着いて話せなくなったらどうしようとか、大混乱だがそれでもどうにかメイドさんの手を借りて礼をすることが出来た。


メイドさんが私の状態を王子に説明してくれている間に平静を取り戻そうと努力する。

水まで飲ませてもらえて、なんとか心を落ち着かせる。


深呼吸をして、落ち着いてからカウチに用意しておいた一枚の紙を取り、そっと彼の前に差し出す。


この方法を選んだのは、シルヴィアの記憶の中にあったからだ。


この国の文字を一文字ずつ並べて書いた紙、ひらがなと違ってアルファベットに近い数。この国の言語についての知識があって本当に助かっている。


先ず声をなんとか絞り出して、意図を王子に伝えないといけない。


「筆談は無理ですが・・コレで」


だみ声とまではいかないが、やはり掠れて聞き取りにくい。

驚きと憐み・・変わっていく表情さえ画になる美形、しかも声も最上級です。


「昔を・・思いだしますね」


シルヴィアの記憶の中、小さな王子たちとの思い出でハークライト殿下のためにと同じように紙面に文字を書いて、それを指で指ゆびさしながらお話をして、言葉の勉強を一緒にしていたことを思い出したのだ。


私の言葉にやっとすぐれなかった顔色もそして憂いがあった表情も少しだけ緩みやっと微笑んでくれた。


二次元に心を奪われそうだ。

誰か・・・助けて。

平静を保ちつつ侍女たちが私の背にクッションを敷き詰めてくれた。どうしても体が辛くて猫背になってしまうが、許して欲しい。

呼吸する度にビリビリと痛む喉と動かそうとすると痺れで変な動きをする手でもなんとか文字を指差すぐらいなら出来るのだ。



やっとのことで王子様との会話が出来そうだ。

王子に椅子を勧めて、私は失礼ながらベットの上。カウチに置いた紙の上で会話をした。


最初は、留学中のフォース国での様子を聞いた。


どんなことを学んだのかとか、なにが楽しいとかジュヴェールとはどんなとこが似ててどんな風に違うとか。


しばらくは和やかに時間が過ぎて行く。


王子は態々指さしでも声でも話して下さるから、耳がもう幸せですよ。こっちは不審に思われないように必死ですけどね、王子。

たのしい時は唐突に終わりを迎えた。


「君に確認したい事がある・・・」


指でなぞられない言葉、私を射抜く強い光を宿す瞳。


『なんでしょうか?』


口の動きだけでそう応えれば、彼は立ち上がった後、私の座るベットの傍にひざをついた。


「君が・・・光の巫女、アカリ・テンドウを暗殺しようとしたというのは本当か?」


おっと思いもよらないタイミングだ、でもそれは私・・・いやシルヴィアが今回一か月もの間牢獄に入れられた罪状であった。


『・・・いいえ、私にその意志はありません。あの方は、国をそして民をお救いいただいた恩人です。』


そう、たとえどんなに無理難題を押し付けられても、こちらが頭を抱えそうになる問題行動を起こそうとも・・・彼女を守る事を一番に考えていたシルヴィア。


『私が彼女に出来ることは、これ以上民の反感を買わないように・・・そして心ない者に光の巫女の力を利用されないように守ってさしあげる事だけです。』


「知ってるんだね」


『はい』


「流石というべきかな、それとも・・・お疲れ様と言った方がいいかな?」


『どちらも、もったいないお言葉です。』


指で文章を紡ぐのはとても疲れたが、それでも私は省略もなにもせずに正直に答えた。


「君の罪状は、全国民が知ることとなってしまった・・・君を裁いたのは神官庁の人間という事になっていたが、それはハークライトの独断だろう?」


『裁判などありませんでしたが?』


「だろうな」



そう1月前の記憶には、日々書類の整理に追われ、決済の済んだ事項確認してとほぼ第二執務室から出れない状況だったのに・・・ある日突然王子に呼び出され、意味も解らず断罪を受け・・・そのままその場の兵士たちさえ戸惑いを覚えるような状況で私は地下牢へ投獄されることになった。


『裁判はいつ?』


「婚約を破棄できなかったアレが君を処罰するのに裁判なんて出来ると思う?」


首を振って否定する。7歳の頃から婚約者である私は、既に王妃教育も終えているそして何よりも私は既にこの国の爵位を得た女伯爵だ。この国の裁判の制度も司法の在り方も全て頭にあったし、普通ならありえない状況だと私は知ってて従ったのだ。



「・・・・本当にすまない。・・・・謝って済むとは思わない。」


『いいえ、いいのですよ』


「よくないっ!!」


そう感情的になる彼にビクっと肩が動いた。


いや、怒っていても素敵声ステキボイス、ちょっと低い感じになってて最高かもと別の事を考えていればすぐに謝られた。


「すっすまない。・・・とにかく、これからハークライトへ言い訳・・いや事情を聴きに行く。」


おお、美形は怒ると・・・えっと誰を殺しに?


迫力が半端ないんです、ルクス王子、まるで殺し屋さん見たいな目ですよ。見て下さい壁際に立ったままだったメイドさんが涙目ですよ。


『「王子・・・落ち着いて」』


つい、声が出た。掠れてしまってたが何とか相手にも届いたらしい。


「・・・あぁ」


『少し時間をいただけませんか?』


「時間?」


『あの方も、それなりに考えての事だったかもしれません。それにあの方の周囲をもう少し探りたいのです。』


「・・・・それはどういう意味だい?」


『いくらあの方がどこまでも直情的で短絡で素直な方でも・・私を殺そうとする人間と繋がっていたとは思えません・・・そしてあの方が的ターゲットになって下さっているからこそ、光の巫女様が守られているとご存じでしょう?』


「・・・一応ハークライトを褒めているんだよな?」


『もちろんです。・・・もし私を労って下さるなら、私のお願いを聞いていただけますか?』 


やっと本題に入れる。

第一王子にはどうしても動いてもらわないといけないのだ。


「あぁ、僕の叶えられることならなんでも・・・もしダメなら父上に口添えしてもいい。」


おお、流石は王子様。太っ腹ですね。


『ありがとうございます、ルクス王子・・・・、では私わたくし亡命したいのですが、弟をお願いできますか?』


「は?・・・すまない、もう一度頼めるか?」


うん?さっきまでしっかりと読みとってくれたのにどうしたの王子様。

そしてもう一度指で文章を紡ぐ。


『フォース国へ亡命をしますから、弟の後見人になってください。』


さっきよりもわかりやすく、はっきりと伝える。


「・・・・・・・」


急に黙り込んだ彼になにかまずい事でもあるのかと私はそっと窺う。

だが、茫然と私を見て固まったままの彼が急に立ち上がった。


スラリとそれは綺麗な所作で腰に穿いた護身用の剣を抜き放った。


その後に彼は言い放った。


「わかった、・・・今すぐだ。今すぐにアレをどうにかする・・・ッ今日は急な見舞いを受けさせて悪かった。もう少し回復したらもう一度見舞いをさせてくれ。」


あれ・・・なんか間違ったかも。


何故か剣を片手にしながら退室の言葉を私に告げ、にこやかに部屋を出ようとしたルクス王子を全力で止めに入る近衛の皆様。


それに続きメイドさんもまたその背に追いすがった。



「王子どこに?」「あのバカを締めに行くっ!!」「ちょっと待ってくださいっ!!」「もう覚悟は決まったっ!!」「なんのですかっ!」「おやめ下さいっ!!あれでもハークライト様はっあなたの弟です!!」「知るかっ!!アレを弟と甘やかした俺の罪だっ!!」「王子っ!!それは王の罪です」




大騒ぎの末、結局彼らを落ち着かせるために私はもう一度、痛む喉を酷使する事になった。


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