第6話見極める時

しばらくは、どうでもいい世間話を一方的に話されたが、今の政情がどうなっているのか、王や王妃の容態については一切話題にしない。

いや罪人である私に話さないようにしているのだろうか。この子供は何が目的でここに来たのだろう。


ヤバい・・・なんて無駄な時間なのとそう思いながら、それを一切表に出さないように表情筋を駆使する。

もしかしたら、わざとだろうかとそう思う事30分後に彼は一方的な話を唐突に終わらせた。


「・・・・・無視なのかっ!」


ずっと黙ったまま反応を一切返さない私に、ついにキレた王子がそう怒鳴った。

えっと、八つ当たりですか王子様。

16歳の子どもに何を言われようとも流せる度量はありますからどうぞご自由に状態ですけどね。


そう伊達にアラサーじゃないのよ。上司の小言を3時間聞きながらPC前で作業をこなすなんて晩御飯前です。

彼はなんのために此処に来たんだろう。


『なにをでしょうか?』


不敬の意思があって黙っているのではなく、声がだせない事を悟らせるために唇だけをそう動かすが、それには気づかずに彼は言いつのる。


「俺はお前を殺すつもりは・・ない。それに毒殺なんて卑怯な手は遣わない」


あぁ・・それが言いたかったのか。

今回の私に対する暗殺未遂・・いや、この状況だといつ死ぬかはわからない体調だけど。


「お前が地下牢に入っている間、モーデルが俺に進言して来た・・城でお前を死なせるわけにはいかない」


『王太子殿下?』


「ほらっ、これがお前の釈放嘆願書・・・そしてコレが、お前の釈放許可書だ。まぁ、お前も一応は伯爵だしそろそろ領地に戻って大人しくしていろ。」


2枚の紙を胸ポケットから取り出して、私に投げてくれる。

私の手に触れたそれは、確かに王家が使う印が押されていた。いやダメだろう・・国王以外がこの印を使うのは。

ちょっとどうするこのバカ具合。


うん、バカだった。シルヴィアちゃん、期待には応えられないらしいよ。

まぁ、高校生には厳しいよね、国を治めるってさ。


感覚が僅かに記憶のものと重なった。そう16歳という年齢が幼く感じるのは、シルヴィアとしてではない感覚だがそれでもつい期待していた自分に呆れた。


これでも理想の王子様だったんだよ、このゲームの中では。それが実際はこんななんていくらなんでも酷過ぎる。


でも君は王子様として16年育てられて来たんだからそれなりに頑張れと心から思うよ。4歳から君は次期国王として育てられたんだから。


えーっとなんだっけか・・・確かノブレスオヴリ―ジュだったかな、彼がその地位にいるためにはどれだけの人間の努力があったか、シルヴィアというか、私は知ってしまっている。


首を振って否を応える。

そして準備をしていた、手紙をメイドさんにお願いして持って来てもらった。


「なんだ、これは?」


メイドさんから捧げ渡された手紙を受け取り、それをその場であける。

一応伯爵家の家紋入りで、正式な書類ですけど・・それを本人の前であけるんですか王子さま。

しばらく静寂が部屋を支配した。



「なっなんで・・・・」


『さて、どうしますか第二王子様』



私が渡した手紙に書かれたそれを彼がどう解釈するのか、私は静かに待った。


最初は固まっていた彼がだんだんと青ざめて部屋を退出の言葉もなく出て行くのをただ見送ったのだった。



ーーーーー





「ダ―ルトン!!ダールトン神官長を今すぐ俺の執務室に呼べっ」


廊下をほぼ走るように進みながら、ハークライト王子はそう従者へ命令をだし、その言葉に従者の一人が走り出した。


自分以外には後2人の従者と4人の近衛が俺の周りを固めている。手にした手紙が何を意味するか、それをどうすればいいのか自分には正しく判断がつかない。


がさりと嫌な音がして持っていた紙がゆがんだ。


「くそっ・・・どうしたらいい」


見覚えのない字で綴られた手紙には、4つの事が書かれていた。

要約すると婚約破棄の書類は王と王妃二人の署名がなければいけないので正式には受理されない事。

支援をしてくれているフォース国の外交を担当するジキル子爵が俺に謁見を申し出ているらしい事。

フォース国に戻った筈の兄上が5日後には城へお戻りになる事。

そして最後に彼女が伯爵位を弟へ譲り、その後見を第一王子に任せたい事が書かれていたのだ。


下には何とか読めるガタガタの署名でシルヴィア・バーミリオンとある。


婚約破棄がまだ施行出来ていない事は知っていた。


だからこそシルヴィアの扱いが中途半端なものになっていたのだ。父上も母上も未だ体調が万全とは言えないからと後回しにしていた事があだになった。


だが、何故そんなことを今俺に伝える必要がある?


フォース国のジキル子爵については、直接俺自身に謁見を申し込まれたのは、初めてだった。

外交の要であり隣国フォースに叔父が居るシルヴィアを通して俺に謁見を願うのは確かに理にかなっていた。


以前に一度挨拶だけ交わしたが・・・というかなぜに今この時期に俺に謁見なのか、その真意が掴めない。


兄上のお戻りは俺も知っていたが、城へではなく財務について任せているウェルメス公爵家にしか滞在しないとの事だったからあまり深く考えて居なかった。



最後には、あいつが弟に伯爵位を譲るなんてどうでもいい事が書かれてたが、その後見が兄上だというのがまたムカつく。


本当に嫌な女やつだ。


俺という婚約者がいながら、兄上にまで媚びを売って俺と兄上両方を手玉に取ろうとしているのだと教えられた1年前、兄上や父上が優しいのを勘違いしやがって。


俺に黙って爵位を得るなんて、この俺の、第二王子の婚約者の癖にっ・・なにが不満なんだ。


そう苛立ちを覚えたのは、いつだったろうか。



苛立ち紛れに壁を殴る。とにかくこの書状が正式なものであり、あいつがコレを俺にわざわざ今渡したのには、意味がある筈なのだ。


どうにかしなければいけない、その焦燥にかられながら俺はとにかく執務室へと急いだ。




なによりも何故1ヶ月以上地下牢へ幽閉されていたシルヴィアがこんな事を知っているのかが一番の問題なのだと気付いたのは、ダールトンが俺の前に辞職願いと共に土下座をした時だった。

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