第18話運命の公園デート
世間はGW真っ只中。
混雑する電車の中、武人と唯は隣駅から徒歩5分にある巨大公園を目指していた。
電器街へ行ったときとは違い、隣の唯は終始緊張している様子だった。
これは楽しいデートではない。唯と緋色の命をかけた戦いである。
武人はあえて声をかけずに、唯の好きなようにさせていた。
電車を降り、少し雑踏をかき分けた先。そこは都会のオアシス。
都会のど真ん中にある巨大な公園は、連休中らしく、たくさんの人で込み合っていた。
「シナリオのことなんだけど……」
合流してから初めて、唯が声を上げた。
「シナリオ?」
「緋色の、最後の……これはその一応……」
「守秘義務でしょ? わかってる」
「ネタバレもしちゃってごめんね」
「大丈夫。気にしないで」
武人が優しくそういうと、唯は笑顔を浮かべた。
「相模湾から大規模な敵勢力が迫ってくるの。で、主戦力が集結するまで、長距離砲撃の得意な緋色はほぼ一人で、敵の陽動をしなきゃならなくなる。その命令に緋色は死を覚悟する。だからあの子は最後の思い出作りに隊長を誘って最後のデートをする。それで満足した緋色は戦いへ赴き、一生懸命戦って、最後は満足感の中隊長の腕の中で死んでゆく。それが緋色に用意された最後のシナリオ……」
「壮絶だね」
「うん……」
まるで今ここにいる唯と同じだと思う。
いや、同じにしてはいけない。
決死の覚悟であっても、必ず死ぬとは限らない。
バッドエンドよりも、ハッピーエンド。それが武人の願いである。
「重要なのは、私が演じる緋色が、皆さんに切ないと思ってもらえるかどうか」
「……」
「正直、死なんて想像できないよ。どうした良いのかもわからない。だけど、できることはある」
「できること?」
「今日、この時、この瞬間を自分にとって最後の日だと思えば、あるいは……だから、今日はこれが最後の瞬間だと思って一日過ごしてみたいの!」
最後なんていうな。
そう言いかけたが止めておいた。今、唯に必要なのは、切迫した緋色の気持ちを感じ取ることにある。
どんなに唯が真面目で、熱心だろうとも、甘えた言葉は心のどこかに隙を産み出すに違いない。
優しい言葉は時として、人を迷わせることがある。
だったら今は、心を鬼にしてでも唯の演技に付き合おう。
武人自身も、これが唯と、緋色との最後の時間だと思うようにしよう。
心に強く、そう刻み込む。
「武人くん? どうかしたの?」
「唯」
「ん?」
「俺も、これが最期だとちゃんと思うから」
「武人くん……ありがと。助かるよ」
「じゃあそろそろ始めようか?」
「うん」
唯はそっと目を閉じ、すっと息を吸う。
「小津隊長、行く!」
声音が変わり、唯は“翼 緋色”になり切った。
これが特別な関係の最後かもしれない。ならば精一杯楽しむと決める。
武人は唯を緋色だと思い込む。
いつもは画面の中にしかいない、愛すべき女の子が、今隣にいる。
胸が自然と高鳴り、身体中が熱くなって仕方がなかった。
緋色は徐にスマホを掲げる。そして電源をオフにした。
「珍しいな、緋色が電源を切るだなんて」
武人は、自分の分身である“隊長”になりきり、そう声をかけた。
すると緋色は少し寂しそうな笑顔を浮かべた。
「ゲームはもう良い。緋色は、今日1日、小津隊長とのゲームしたい!」
以降、いちゃいちゃパート
★Aパート 公園を散策する(32部)
★Bパート ボートに乗る(33部)
★Cパート 動物園へ行ってみる(34部)
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