第14話聖地 アニメと電気の街

 



 土曜の朝。武人はふわふわとした気分で目覚めた。


【武人くん】


 そう羽入さんに呼ばれたことが、今でも胸の中に残っていた。

 恥ずかしいような、嬉しいような。


 ついこの間までは画面の中の人と外の人。高嶺の花とモブといった差のある二人だった。

しかし今は何の縁か一緒にいることが多くなり"特別な関係"を築いている。

実際はその場で小躍りしたいくらい嬉しかった。


 そんな中、スマホがブルリと震えた。


YUI


"おはよう!"


″明日の春のマイパン祭行く?"



TAKE


"もちろん行くよ。もしかして出演するの?"



YUI


"ううん、今回は赤羽さんだけだよ。だから見にいこうって思ってて"


"よかったら一緒にどう?"



 もしも市神とかいうマネージャーに見られれば、今度は何をいわれるか。

リスクはある。だけど羽入さんからお誘いである。断る理由はない。



TAKE


"ぜひ! 都合は合わせるよ!"



YUI


"ありがとう。じゃあ、明日の9時半にそっちの駅の公園口改札で待ってるね!"



TAKE


"わかった。よろしく!"



 最後に頭を下げる黒猫のスタンプが現れた。

なんだか羽入さんみたいみたいで可愛いと武人は思った。



そんな中――



マロンドラゴン


"出陣だ! 春のマイパン祭! 赤羽様のご尊顔を共に拝見しよう!"



TAKE


"ごめん、先約があって無理"



マロンドラゴン


"ぐはっ! 羽入さんか!?"



TAKE


"YES"



マロンドラゴン


"楽しんでこい"



 なんだかんだでこうして応援してくれる竜太郎はいい奴だと思う。

本当にありがたい。



TAKE


"お土産買ってくるから"



マロンドラゴン


"馬鹿め! 一人でも行くわ! 邪魔はせんようにしてやる。感謝するのだな!!"



 人生初のデートである。しかもリアルで。更にとても可愛い羽入さんと。

 武人はちゃんと準備をしないと、と思い行動に移る。

結局土曜日はこの準備ですっかり費やされるのだった。



⚫️⚫️⚫️



 そうして迎えた日曜日の朝。

付け焼き刃に一夜漬けで、とりあえずそれっぽいおしゃれをしてみた武人。

彼は胸をドキドキ高鳴らせながら、駅前の歩道橋の上で来るべき時を必死に待ち続けていた。


 やがて明らかにこっちへ近づいて来ているパタパタとした足音が聞こえた。


「おまたせ!」


 白いTシャツにデニム生地のホットパンツ。

ややミリタリーチックなオリーブグリーンの丈の短いモッズコートを羽織り、足元はスニーカー。

一瞬、現れたのが誰かわからなかったのだが、


「お、おはよう羽入さん!!」


 勝手にフェミニンな印象を抱いていたが、もしかすると装いのようなボーイッシュなところがあるのかもしれない。

でもこれはこれで似合っていて、また違った魅力を感じさせた。

だからなのか、ちょっと表情が固く見えるのは気のせいか?


「おはよう武人くん。じゃあ行こうか!」

「お、おう!」


 挨拶も手短に、武人と羽入さんは並んで歩き、改札へ向かってゆく。

ここ最近、こうしていることが多く慣れたはずだった。

だけど今は、まるで初めて一緒に並んで歩くように緊張している。

それは羽入さんもなのか、いつもの軽妙なトークが、いつまで経っても始まらない。


 互いに無言で電車に乗り込み、並んで腰を据える。

 目的地までは約30分の道程で、すでに目的地は目前だった。さすがにこれ以上黙っているのはアレだと思った。


「あ、あのさ、羽入さん……」


 会話の内容は全く決まっていないが、とりあえず声をかけてみた。

すると隣の羽入さんは、ちょっとブスッとした顔を向けてくる


「違う」

「えっ?」

「唯で良いっていったじゃん! なんで、その……ずっと羽入さん、なの?」


 怒っているような、恥ずかしがっているような。

そんな複雑な顔をする羽入さん、基、"唯"がどうしようもなく可愛く見えた。


「ご、ごめん! なんか癖ついちゃって……」

「もう……」

「じゃあ、改めて……ゆ、唯?」


 瞬間、唯の表情が開花のように華やいだ。


「な、何!? た、武人くん!!」

「えっと、なんていうか……ああ、そうそう! 今日、珍しい格好してるなぁって思って!」

「似合わない?」

「いやいや全然! そういうボーイッシュな格好も良いなって、思って!」

「そっかぁ! ありがと! ほら、今日はマイパンのイベントじゃん? だからちょっとミリタリーなティストを意識してみたんだよ!」


 こんなに意識が高い人と、自分が一緒にいても良いのかどうか。

だけどこの間わかった。武人も、そして唯も、こうして二人でいることを望んでいるし、欲している。

なら、その気持ちに素直に従っていればいいだけ。

 "特別な関係"を楽しめば良いだけ。


「そういや、今日は緋色どうする? 時間もたくさんあるし、やる?」


 武人がそう聞くと、唯は笑顔を浮かべつつ、首を横へ振った。


「今日はその……緋色はおやすみ。今日1日は"羽入 唯"として武人くんと過ごしたいんだけどだめかな?」

「わかった……」


 正直、緋色を演じてもらっていた方が、心の動揺は抑えられるはず。

だけど唯が今日一日そうしたいなら、その方がいいと武人は思う。


 そして丁度いいタイミングで電車は目的地の、電気とアニメがひしめく街へたどり着く。


 電気街口という出口を出てすぐに、ビルに掲示されたマイパンの巨大広告が見えた。

大きなポスターの隅っこには、申し訳程度に、唯の持ちキャラである翼 緋色が描かれている。


「武人くん、いつか私ね、あそこ大きく描かれるキャラクターをやりたいの。それが私の目標なんだ」


 唯はマイパンのポスターを見上げつつ、はっきりとした口調で夢を語った。

その真剣さに胸を打たれるものがあった。


「すごい目標だね。でも、いいと思うよ」

「ありがと! だからこれからも、私のことを一番近くで見ててね!」


 それはどういう意味かと、武人は胸を高ならせる。

唯は無自覚でこういうことを言うので、やはり天然なのかもしれない。


「武人くん?」


 そして不意に顔を覗き込んでくる仕草も、正直卑怯極まりない。


「ああ、いや! マイパン祭りまでだいぶ時間あるよな? 少しこのあたりを回らない?」

「いいね、それ!」

「じゃあ……」



 武人はどこへゆくか考え、唯へ提案した。




以降、いちゃいちゃパート




★Aパート 中古グッズ店へ行く(25部)




★Bパート 同人誌専門店を覗く(26部)




★Cパート メイドカフェへ突撃!(27部)


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