★Aパート ゲーム画面を覗き見る
半径0.45メートル。羽入さんはパーソナルスペースの"親密ゾーン"を維持しつつ、スマホへ視線を落として、必死に操作をしている。どうやらゲームをしているらしい。
(緋色はオンライゲームをやってる設定だから、そのシーンなのかな?)
覗き見るのは気がひける。だけども気になる。距離が近いので、見えてしまった、という言い訳を思い浮かべながら真横へ視線を落とす。
羽入さんがやっていたのは、緋色は絶対にやらなさそうな、"パズルゲームだった"
ロシア民謡をBGMに採用した、古風だが奥深い作品である。
やっているゲームはまったく違うが、シチューエーションは、第一章チャプター5に間違いない。
(確かあのシーンって……)
「歩きながらゲームをするな!」
と、隊長が怒り、
「ああ、隊長後生な、それだけはぁ〜!」
ゲームを取り上げられた緋色が必死に食らいついてくる。
そこからなんやかんやとあって、緋色といちゃいちゃしてしまうというシーンだった筈。
(じゃあ、良いんだよな……?)
今、羽入さんは緋色をやっている最中。武人へも時々"隊長"を演じてほしいと要請を受けている。
(これは羽入さんのため、羽入さんのため、羽入さんのため……!)
意を決して、スマホを取り上げようと手を伸ばす。
「あわわ! こ、今度こそ!」
声がいつもの羽入さんだった。どうやら彼女は緋色のことをすっかり忘れて、パズルゲームを真剣にプレイしているらしい。
しかも、
「あーもうっ! 次こそは!」
ブロックの落下速度に目が追いついていないらしい。正直なところ、かなりの"ド下手"であった。
しばらく静観してみたが、状況は変わらず。すぐに詰んで、ゲームオーバーになってしまう。
「次のブロックは3タップ。右端」
「えっ?」
「良いから、言った通りに」
「うん!」
武人の言う通りに、羽入さんは操作した。
「今のブロックはそのまま真ん中へ。次は2タップ、左側の溝へ」
「やった! 4連で消えた!」
「良い調子! 次は1タップ……」
「左だね?」
「そうそう!」
そして……
「やったぁ! クリア!」
「やったね!」
共同作業の結果、Stage1見事にクリアだった。
しかし羽入さんは喜んだのも束の間、苦笑いを浮かべる。
「でも、コレ緋色じゃないね。ごめん」
「ま、まぁ、良いさ。次から頑張れば……」
「隊長、ありがとう。緋色、頑張る!」
羽入さんは緋色の声で前向きな言葉を言った。
緋色の性格上、あまりこういう発言は少ない。
だけど悪くはないと思ったのだった。
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