★Cパート:とりあえず歌う
「せっかく来たんだから歌っちゃおうか?」
「歌? まぁ、いいけど」
ノリノリな羽入さんとは対照的に武人はあまり乗る気になれなかった。
歌が嫌いとか、歌うのが下手だからとか、という理由ではない。
なにせ時々、一人カラオケを敢行する武人である。なにが原因かというと、自身のレパートリーだった。
歌う時はもっぱらアニソンか、特撮ソングOnly。今の流行りの歌は知っているものの、そもそも難しくて、歌う気になれない。
でも、今隣にいるのは、きっと流行りの歌とか色々知っていそうな、学校での有名人:羽入 唯さん。
(いやいやまてまて。羽入さんはゲームに声を当ててる声優だよな。だったらアニソンとかには抵抗がないか?)
しかしそれは偏見か? 勝手な思い込みか? どうするべきか? やはりここは無難に、自分でも歌える流行りの曲で行ってみるか?
と、難しいことを考えている中、スピーカーから明るい曲がパーンと弾けた。
「キュアキュア!? しかも初代!?」
「そうそう! 小さい頃、キュアキュアに憧れてて。小津くんも観てたの?」
「日朝の流れで、なんとなくだけど」
「あるある! 日朝は流れで観ちゃうよね。レンジャー、ライダー、キュアキュア!」
「今はちょっと変わったけどね」
どうやら武人は無駄なことで頭を悩ませていたらしい。
それにしても羽入さんの歌唱力は素晴らしいものだった。オリジナルを尊重しつつも、耳に心地よく、胸に残る良い歌声だった。更に、公式で発表されている振り付けも完璧。もっと有名になれば、アーティストデビューもできるんじゃないか。
「ありがとうございましたぁ!」
「上手いね!」
「そ、そう? ありがと! じゃ次は小津くんの番ね!」
「はいよ!」
類友に隠す必要などない。武人は遠慮なしに、もっと古い特撮系の曲を入れた。
スピーカーから仰々しく重苦しい前奏が流れ出る。
「これって、ライダー凱舞のオープニングでしょ?」
「さすが!」
「だって"ですぴえろさん"の代表作だもん。この話すると凄く喜ぶんだ。さぁ、頑張って!」
本職に応援されるとかなりのプレッシャーだった。しかし羽入さんも一生懸命歌ったのだから、自分も全力で。
遠慮せずに楽しめることは凄くいいこと。武人は強くそう思うのだった。
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