第31話 ユウキとステラ

 サファイヤ星の命運はユウキとステラに託された。カロン星襲来の報は世界に知らされ、隕石対策のシェルターの整備や、高潮、津波対策などが世界レベルで進められていった。

 その日の夜、ステラは、サファイヤに母乳をたっぷりとあげて、彼女を寝かしつけると、サイボーグスーツを纏い横になった。傍には、ユウキが手を取って付き添っていた。

「一月はあっという間だ。それまでに出発の準備をしておくよ」

「サファイヤの事、お願いね」

「心配ない。夢で会おう」

 ステラは、長い眠りについた。


『私の名前はジュピター。ステラ、貴女を主と認めます!』 

 ステラのスーツのAIの声は、女性の声だった。

 カロン星衝突まで、あと二日という日に目覚めたステラは、スーツの試験飛行の為、宇宙へと飛び立った。

 半日ほどで帰って来たステラは、サファイヤの所へ直行して、彼女を抱き上げた。

「待たせたわね、お姫様」

 ステラが頬ずりすると、サファイヤは嬉しそうに、声を出して笑った。

 ステラは、椅子に座って、サファイヤに乳首を含ませた。

「美味しそうに飲んでいるよ。新しい身体でも違和感はないようだね」

 ユウキが目を細めて、サファイヤの顔を覗き込んだ。

「少し心配だったんだけど、体形もほとんど変わってなくて安心したわ」

「前よりグラマーになったんじゃないか?」

 笑い声が響き、親子三人の、至福の時間が過ぎていった。

 その夜、ユウキは新しくなったステラの身体を抱いた。サイボーグとなってしまった夫婦だったが、愛情を確かめ合う事に、何の不具合も無かった。

「どうだった?」

 ステラは恥じらいながら聞いた。

「何も変わっちゃいないよ、君は最高だ」

 二人は、再び抱き合った。明日の命は分からない二人だった。

 夜が更けていって、存分に愛し合った二人は、ベッドの上で顔を見合わせていた。

「ステラ、カロン星衝突まであと一日しか無い。明日は出発だ」

「分かってる。心の準備は出来ているわ」

 次の日の早朝、ステラとユウキは宇宙船の発射基地に居た。レグルス達の宇宙船は、すでに、昨日の内に出発していた。

 見送りは、ロータスと、アトリア女王夫妻、そして、アンドロメダとサファイヤのみだった。二人が敢えて、そうして欲しいと頼んだのだ。

「成功を祈っている。必ず生きて帰るんだ!」

 ロータスとユウキが、がっちり握手をかわすと、アレク将軍も「頼んだぞ!」と手を差し出した。

「ステラ、貴女を誇りに思うわ」

 アトリアとステラが、固く抱き合った。

「サファイヤ、私達が帰るまで、いい子でいるのよ。お母さま、お願いします」

 ユウキとステラはサファイヤに口付けすると、黄金のスーツを輝かせて宇宙へと旅立った。

 二人はカロン星に到着すると、先着していたレグルス達と打ち合わせを行い、それぞれの位置へ着いた。

 レグルス達は、反陽子爆弾のミサイルを十基積んで、先の爆発で出来た、カロン星の巨大クレーターに照準を合わせて、ミサイル発射の合図を待った。

「レグルス様、十発のミサイルを連続で打ち込んだら、直ぐに退避して下さい」

「ラジャー! 健闘を祈る!」

 宇宙空間を猛スピードでサファイヤ星へと突進する目の前の惑星が、ユウキには、彼らを嘲笑うムミョウの姿に見えた。

「発射!!」

 ユウキが、ムミョウの影を打ち消すように命令を下すと、レグルスとサルガスの乗る宇宙船から、ミサイルが発射された。

 ミサイルは、ぽっかりと開いた巨大なクレーターに次々と吸い込まれていって、凄まじい閃光がカロン星を包んだ。

 閃光が収まり、衝撃波をシールドで凌いだユウキ達四人が、カロン星に近付いて見ると、クレーターは更に巨大化して、暗黒の穴は何処までも続いていた。

「コスモ、どう攻撃する?」

『まず、ルナがカロン星を極限まで凍らせ破壊しやすい状態にします。その後で、フレアとユウキとステラが三方からエネルギー弾で攻撃します。お二人は、エネルギー弾を放った後、エネルギー波を打ち続けて下さい。絶対に力を抜いてはいけません、いいですね!』

「分かった。ルナとフレアはどうなるんだ?」

『彼女達は死にます』

「えっ? 彼女達は不死身じゃないのか!?」

『惑星を破壊するほどのエネルギーの前では、彼女達の再生能力も役に立ちません。分子レベルまでも破壊されるからです』

「なんて事なの……」

「すまない。フレア、ルナ」

『心配は要りません。これが私達の使命ですから』

 ルナはそう言うと前面に出て、青い冷気の炎を身体から放出し始めた。そして、青い炎を一気に巨大化させると、反陽子爆弾で掘られたクレーターの大穴に突入した。少し時間をおいて、ルナの青い炎がクレーターの大穴から噴き出し星を覆うと、カロン星は見る間に真っ白な氷の星となった。

 頭上では、既に、フレアが巨大な太陽となって煌々と輝いていた。

『では、二手に分かれて下さい。既に、お二人のパワーは無制限となっています』

「了解!」

 ステラとユウキは、カロン星を囲むそれぞれの位置に着いて両手を前に突き出すと、直径一メートルはある超大型の黒いエネルギー弾を作り出して、コスモの合図を待った。

『今です! 打って下さい!!』

 コスモの合図と共に、フレアは燃え盛る我が身をカロン星に激突させ、ユウキとステラは巨大エネルギー弾を放った。次の瞬間、凄まじい閃光と炎が宇宙を照らし、カロン星は大爆発を起こして砕け散った。

『打ち続けて下さい!』

 ユウキとステラは、エネルギー波を打ち続けた。途轍もない衝撃波と岩石群が彼らを襲ったが、エネルギー波の威力が、それらに打ち勝って、盾の役目を果たしていたのだ。

 閃光が消えて、衝撃波が去ると、カロン星は消滅していた。だが、そこには、最も硬い金属で出来た、直径数十キロのカロン星の中心核が残っていて、未だに、サファイヤ星目指し突き進んでいたのだ。

「ステラ、あれだけでも、サファイヤ星の人類は死滅するぞ!」 

「破壊するしかないわ。急ぎましょう!」

 二人は、超大型エネルギー弾や、エネルギー波を駆使してカロン星の中心核に挑んだが、

完全に破壊するまでには至らなかった。

「なんて頑丈なの。これでは、間に合わないわ……」

 ステラが、攻撃の手を止めた。

 サファイヤ星では、全世界の人々が、ユウキから送られてくる映像を、固唾をのんで見ていた。

「お父さんとお母さんが戦っているわ。サファイヤ、よく見ておくのよ」

 ライト王国の王宮でも、アトリアとアンドロメダがサファイヤを抱いて見守っていて、

サファイヤの黒い瞳が、ユウキとステラの動きを追って盛んに動いていた。

「あれを破壊出来ないと、あと、数時間で、この星は終わるのね」

「お母さま、ステラ達なら必ずやってくれます!」

 アトリアがアンドロメダの手を、ぎゅっと握った。

 宇宙では、カロン星の中心核を破壊出来なかったユウキとステラが、頭脳をフル回転させて攻略法を探していた。そして、顔を上げると同時に叫んだ。

「スーパー羽衣!」

「今の私達の力を合わせたフルパワーのスーパー羽衣なら、通常の十万倍の破壊力がある。きっと、粉砕できる!」

「宇宙では、空気抵抗が無い分、更にパワーは増すはずよ。時間が無いわ、急ぎましょう」

 ユウキとステラは、ムミョウの怨念と化して突進する、カロン星の中心核の前に躍り出ると、二人の力を合わせて、直径一キロはあろうかという巨大なスーパー羽衣を起動させた。

「ステラ、サファイヤ星を救う為、この攻撃に全てを賭けるぞ!」

 ステラはコックリと頷いて、ユウキの手を握った。そして、巨大スーパー羽衣は、カロン星の中心核に激突していった。

「ズゴゴゴゴゴゴ――」スーパー羽衣と岩盤が激しくぶつかり合い、一気に突き抜けるかと思われたが、物凄い衝撃と振動が二人を襲った。岩盤が硬すぎて、スーパー羽衣の前進を阻んだのだ。

「パワーは既に限界を超えているぞ!」

「これでは、間に合わないわ!」

 スーパー羽衣に全パワーを投入し、限界を超えた二人のスーツは、オーバーヒートして、シューシューと煙が出始めていた。

「ステラ!」

「ユウキ!」

 二人が、互いを呼び合い、手をしっかと握りあって、死を覚悟したその時だった。

「負けないで!!!」

 サファイヤ星の十億の民の叫び声が、雷鳴のように二人の心を揺さぶった。そして、アンドロメダ、ロータス、レグルス、アレク、ストレンジ、サルガス、サファイヤの笑顔が鮮やかに彼らの頭に浮かんだ。その刹那、ユウキとステラの心の奥底の扉が開かれ、途轍もない生命エネルギーが二人の身体に満ち溢れた。

「負けるもんですか!!!!」

「負けてたまるかーーっ。うおおおおー」

 ステラとユウキが叫び、スーツから凄まじい黄金の闘気が噴出すると、巨大スーパー羽衣が黄金に輝き、唸りを上げて岩盤を粉砕し前進を始めた。そして、岩盤の中心部に到達した瞬間、一気にスーパー羽衣を膨張させると、カロン星の中心核は、ムミョウの幻影と共に、木っ端微塵に吹き飛んだ。

「ズドドドドーン!!!!!」

 気が付くと、すぐ近くにサファイヤ星が青い姿を見せていた。

「危機一髪だったな……」

「これでムミョウの怨念も消え、サファイヤ星は救われたのね」

 二人は、手を握り合ったまま、カロン星の中止核の残骸を眺めながら、暫し感慨に浸っていた。

「さあ、もうひと仕事だ!」

 ユウキとステラが、カロン星の残骸を掃除しようと思った、その時だった。

 絶対零度の青い光線と、百万度の巨大火炎弾が、何処からともなく放たれて、星の残骸を悉く粉砕したのだ。

「まさか? フレア、ルナ、お前達なのか?」

 驚くユウキ達の前に、フレアとルナが、その雄姿を現した。

『貴方達の、自身を犠牲にしてでも世界を救わんとする強い心が、私達を蘇らせたのです』

 フレアとルナの声が響くと、

「お前達、本当に良く戻ったな。僕達も嬉しい……、ありがとう」

 ユウキとステラは嬉し泣いて、彼女達に抱き着いた。

「?……ちょっと熱いかな」

「私は凍えそうよ」

 二人は慌てて彼女達から離れて「ハグは後でね」と言って、笑いだした。

 ユウキは、シールドの中へステラを導き入れると、強く抱きしめ、熱いキスをした。

「宇宙の真ん中でのキスシーンもいいもんですなー」

 宇宙船から見ていたサルガスが、レグルスとそんな冗談を言いながら、抱き合う二人を見守っていた。

 その様子を見ていた、サファイヤ星の人達から歓声が上がった。彼らは、シェルターから走り出て空を見上げた。そこにカロン星の姿は無く、吸い込まれるような青空が、どこまでも広がっていた。

 ユウキは、レグルス達を先に返すと、ステラに言った。

「ステラ、サファイヤも待ってるだろうけど。せっかくだから、銀河を見に行こう」

 二人は、ワープすると一気に銀河系を飛び出して、自分たちの住む渦巻銀河の全体が見えるところまで飛んで振り返った。

「なんて綺麗なの! 星の宝石、宝石の大河ね……」

 視界いっぱいに広がった銀河を見て、ステラが感嘆の声を上げた。

 二人は、寄り添って言葉もなく見とれていた。

「この中に、いろんな人類が住んでいるのね。人間は本当にちっぽけだけど、不思議な存在でもあるのね」

「うん、僕も、感じた事だけど、一人の人間に、この大宇宙の全てが収まっていると、ロータス様が言っていたよ」

「この銀河を見ていると、なんだか、分かるような気がするわ。私達の命はかけがえのないものなのね」

「そう思う、これからの人生、大事に生きようよ。この映像をみんなにも見せてやろう」 二人の後ろには、無数の星雲が大宇宙の果てまで続いていた。

「さあ、帰ろう。サファイヤが待っている」

 ステラとユウキが、サファイヤの待つ故郷に向かって進路を取ると、二つの黄金の流れ星は、銀河の星屑の中に溶け込んでいった。   

                                 完

         ご愛読ありがとうございました。

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戦士ステラ 安田 けいじ @yasudk2

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