第30話 ムミョウの怨念
この太陽系の端にカロン星という星がある。直径六千キロの小さな惑星で、そこには、サファイヤ星の鉱石採掘の無人基地があった。その採掘基地を管理しているアンドロイドからの連絡が途絶えたと、アレク将軍からステラに連絡が入った。
「ステラ、将軍の話は何だったの?」
ユウキがサファイヤを抱いて、あやしながら聞いた。
「太陽系の資源採掘基地があるカロン星と、連絡がつかなくなったらしいの。それでね、あなたに見て来てほしいと言うんだけど……」
「いいよ。久しぶりに宇宙を飛んでこようか」
「よかった、何時行ってくれる?」
「そうだな、明日にでも行ってくるよ」
「私も行きたいな」
「事件のたびに、国主二人が留守にしていては、レグルス議長が困りはしないかい?」
最近、サウスランドでは、国事の実務を担当する議長にレグルスが就任して、軍の司令官にはサルガスが就いていた。
「私だって、宇宙を飛びたいわ。レグルス様には私から言っとくから。いいでしょ?」
ステラは、事件が起きる度に真っ先に現場へ駆けつけるのが常だったが、宇宙となるとユウキに頼るしかなかったのだ。
「それなら、スーツを宇宙仕様に変えないといけないな。この間の十倍羽衣の新型スーツをルナに改造してもらおう」
ユウキも本当はステラと行きたかったのか、行くと決まると話は早かった。
次の日、アンドロメダが抱くサファイヤに送られて、数メートルのシャボン玉のような球形のシールドに乗り込むと、二人は宇宙へと飛び立った。そして、一気に加速し光速飛行して、数分でカロン星域に到着した。
二人がシャボン玉宇宙船を降りて、上空から、ステルスモードで地表を探っていくと、資源採掘基地が視界に入って来た。
二人が徐々に近付いて地上に下りると、数体の作業用アンドロイドが破壊されて倒れていた。ユウキが、そのアンドロイドの脳から映像を取り出すと、ムミョウのアンドロイドらしき軍団が襲撃する様子が映っていた。
「ムミョウのアンドロイドだね。こんな所まで来ていたのか」
「やはり、まだ居たのね。あなた、調べてくれたんじゃ無かったの?」
「……ごめん。あれから、すぐに君が産気づいただろう。それで忘れてしまっていたよ」
ユウキが、苦笑いして答えた。
「それにしても、この星に何があるというのかしら?」
「ともかく、詳しく調べてみよう」
カロン星に大気は無く、この基地は、ほとんどの設備が人間が住める環境には作られていなかった。敵の攻撃を受けた為か、全ての設備は停止して静まり返っていた。
二人は、再びステルスモードになって広大な採掘現場の周辺を調べていると、稼働している一つの掘削機を発見した。それは、高さが二百メートルもある巨大なもので、その周りをムミョウのアンドロイド達が忙しく働いていた。
他を探ってみると、合計五つの穴を掘っている事が分かった。又、アンドロイドの数は数百体あって、全て戦闘タイプである事も判明した。
「穴を掘っているのは間違いないようだが、鉱石を掘り出してもいないし、何をしているんだろう?」
二人が、物陰から、暫く様子を見ていると、掘削機が停止して、直径十メートルはあろうかという巨大な球体をその穴の中に搬入し始めた。球体を透視していたユウキが驚きの声を上げた。
「あれは、反陽子爆弾じゃないか!」
「反陽子って、水爆の数百倍の威力があるんでしょう。この星が壊れてしまうわ」
「コスモ、この星が消えたら、太陽系に何か不具合は起こらないかな?」
『そうですね。この星は太陽から一番遠いですから、重力変動でのサファイヤ星への影響は少ないと思います。
それよりも、あの反陽子爆弾の威力と位置を考えると、彼らは、この惑星の軌道を変えて、サファイヤ星に衝突させようとしているようです』
「えっ! そんな事が可能なの!?」
ステラは、唖然として、コスモの次の言葉を待った。
『可能です。既に、五つの爆弾は地下に格納されていますから、アンドロイド達をせん滅したところで、爆発は避けられないでしょう』
「そんな……」
ステラの脳裏に“我が分身が、お前達を葬り去る”と言う、ムミョウの最後の言葉が蘇った。
「ムミョウが最後に言った言葉の意味は、この事だったんだわ」
ステラは、何処までも追いかけてくるムミョウの凄まじい怨念に、背筋が凍る思いがした。
「ともかく、ムミョウのアンドロイドを残しておく訳にはいかない、一掃しよう。話はそれからだ」
ユウキとステラは、数百体の高性能アンドロイドを相手に戦いを開始した。
ネーロ帝国が誇る高性能アンドロイドと言えど、所詮ユウキの敵ではなかった。容赦ない、特大のエネルギー波が炸裂すると、周りの山々諸共、アンドロイド達は宇宙の塵と消えた。
一方ステラは、巨大な十倍羽衣を起動して進撃すると、挑んで来る敵のアンドロイド達は、なす術もなく粉々に砕け散った。逃げ出したアンドロイド達は、上空に待機していたフレアとルナの餌食となった。
彼らが、アンドロイド軍団をせん滅させるのに、さして時間は必要なかった。
ユウキはシャボン玉宇宙船にステラを乗せると、カロン星を飛び立ち、監視衛星を数万キロ離れた所へ置いて、サファイア星への帰路に就いた。
カロン星が小さく見える所まで来ると、巨大閃光と共に大爆発が起こり、カロン星は、一部、岩盤がえぐり取られた格好で、ゆっくりとその軌道を外れていった。
ステラとユウキは帰るなり、ロータス連邦議長にカロン星の件を報告すると、彼は即座に連邦議会を招集した。
議会では、ステラが、監視衛星から送られてくる映像を示しながら状況を説明した。
「カロン星は目下、サファイヤ星から50億キロの位置を真っすぐこちらに向かっています。時速は、当初は三百万キロ、先ほど二度目の爆発が起こり、時速五百万キロに加速されました。このまま進みますと、四十日以内にサファイヤ星に到達します。
直径六千キロのカロン星が、月よりも接近した時点で、この星は引力の影響を受け、人類は絶滅します」
ステラの説明が終わっても、皆唖然として声も出なかった。
暫くして、ロータス議長が口を開いた。
「脱出するには時間が無いとなると、破壊するか軌道を変えるしかないが、ユウキのパワーでも破壊出来ないのか?」
「直径六千キロの惑星ですから、私の力を百パーセント開放しても、星自体を完全に破壊することは出来ないと思います。星の軌道を変える事も難しいかと」
「そうか、駄目か……。惑星が、この星を滅ぼしに来るとは……。ムミョウめ、やってくれたな」
ロータスの顔に、苦渋の色が浮かんだ。
「コスモ。ルナやフレアでも駄目なの?」
ステラが、エイリアンの科学に助けを求めた。
『基本的には、彼女達のパワーも、ユウキのスーツと同じですから、三人で攻撃しても軌道を変えられないでしょう。しかし、四人なら可能性はあります』
コスモの声が皆の頭の中に響いた。
「四人? あと一人は何処に居るの?」
『ステラ、貴女が二体目のスーツを着るのです』
「二体目って? サイボーグスーツがもう一着あるって言うの?」
『あります。今迄必要性が無かったので黙っていましたが、古代に、この星にやって来た夫婦は、それぞれにスーツを持っていました。今ユウキが着ているのはその男性のものです。着るかどうかは、貴女次第ですが、もう一体のスーツも呼んでおきましょう』
コスモが言うと、ステラの前に、黄金に輝く孔雀の戦闘スーツが姿を現した。
「ユウキのと同じね」
『お揃いにしました』
「待ってくれ。ステラまで完全なサイボーグにならなければいけないのか?」
ユウキが、慌てて口を挟んだ。
『今回の任務は、四人のパワーを限界まで出し切らなければ成功しません。このスーツも限界を越えれば壊れます。
もう一つは、惑星の至近距離から攻撃する為、爆発の影響を真面に受けてしまいます。ですから、命懸けの任務になるでしょう』
「あなた、心配いらないわ。サイボーグになっても私は変わらない。それは、あなたが証明してくれたじゃない」
ステラが笑顔で言った。
他に選択肢がない事は、ユウキにも分かっていた。だが、彼女が完全なサイボーグになる事には、抵抗があった。
「それで、私達に出来る事はあるのか?」
ロータスがコスモに聞いた。
『カロン星の抉られた部分に、もう一度反陽子爆弾を投下して穴を深くします。その上で、四人のフルパワーで攻撃し破壊しようと考えています。あなた達には、反陽子爆弾の製造と投下をお願いします』
「分かった。では、爆弾の製造は、ストレンジ博士に、投下は、レグルス議長にお願いしたい。
ユウキとステラには、大変な仕事を押し付けて、申し訳なく思っている。だが、これも君達にしか出来ない使命だ。この星の為、十億の民の為に全力を尽くしてもらいたい」
ロータスが、ユウキとステラに深々と頭を下げると、会議の参加者全員が起立して、それに倣った。
「残る私達は、万が一の事を考えて、引力の影響による高波や隕石落下への防御対策を早急に進める必要があります。それから、国民がパニックを起こさないように不安感を取り除いてあげて下さい。
私達は、ムミョウの怨念なんかに負けるわけにはいきません。断じて、勝とうじゃありませんか!」
ロータスの叫びに、参加者は決意の拳を上げて応えた。
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