第26話 結婚式

 ライト王国の首都に人が戻り、戦争で壊れた建物や道路などの復興工事が、全国的に始まった。アレク将軍も帰国し、病院でリハビリ出来るまでに回復していて、妻のアトリアが付き添っている。

 ステラとユウキは、ベガの要請を受けて、ネーロ帝国の民と共に、復興の諸問題と格闘していた。

 戦争で破壊された交通網の復旧、農工業など産業の復興、自治システムの構築、教育問題など、解決しなければならない事案は山積みだったが、ムミョウの圧政から解放されたネーロの国民は、その自由を噛み締めながら、新しい国造りに喜々として汗を流し、知恵を出し合って、次々と問題を解決していくのだった。

「ステラ、民衆の力は凄いね。彼らが主役になれば、この国は大丈夫だ」

「そうね、私達のサウスシティも負けずに頑張らないとね」

 ステラとユウキは、民衆のエネルギーというものを目の当たりにして、自分達の国造りも、かく有らねばと思った。

 それから半年が経って、終にベガを議長とした新政府が誕生した。ネーロ帝国はノースランドと改名され、意気揚々と船出したのである。

 ステラとユウキは、新政府誕生を見届けて、自分達の国、サウスランドに戻ると、大陸全体の開発に取り組んだ。空港や港、幹線道路を急ピッチで整備して、開発地を世界中に開放すると、入植者は続々と海を渡って来た。

 半年が経った頃には、サウスシティは十万人が暮らす都市になっていた。

 国造りは、まだ緒についたばかりだったが、その基盤が出来上がりつつあった。

 そんなある日、ライト王国から連絡が入り、二人は王宮へと向かった。

 王宮では、普段着の女王アンドロメダとアトリアが出迎えた。

「忙しいところ悪いわね。戦争も終わって一年になるけど、まだ貴方達にお礼も言ってなかったわね。女王として心から感謝いたします。ありがとう」

 女王は二人に深々とお辞儀をした。ユウキが慌てて女王の手を取ると、彼女は彼の手をポン、ポンとやさしく叩いて微笑んだ。彼女は二人を席に促し、自分も席に着いた。

「私も歳のせいか、最近、公務が辛くなって来たのね。それで、女王の座を、このアトリアに譲ろうと思うの。どうかしら?」 

「お母さまも、これまでご苦労の連続でしたもの、お姉さまさえよかったら、私達に異論はありません」

 ステラが、アトリアを見て言うと、彼女は、

「私も覚悟を決めたから、この国の事は任せて頂戴」

 と決意の表情を見せた。

「よかった。これで肩の荷を下ろせるわね」

 アンドロメダは、ホッと一息ついて穏やかな表情になった。

「お母さま、一つ提案なのですが。ネーロ帝国も崩壊し、新しく生まれ変わりました。私達のサウスランドも小さいながらも建国の機運が盛り上がっています。今こそ、サファイヤ連邦を作るチャンスだと思うのですが、どうでしょうか」

 ステラの意見に、アンドロメダは大きく頷いた。 

「その通りね。それには、このライト王国が主導するしかないから、早々に議会で検討委員会を立ち上げましょう」

「ありがとうございます。お母さま」

「それからね」と言って、女王はステラ達の結婚式を国事として挙行する事にしたと告げて、部屋を出て行った。 

 後日、晴天の中、アトリアの戴冠式が盛大に行われ、新女王アトリアが誕生した。

 彼女は、ステラに劣らずの美人で、王冠をかぶった姿は凛として、女王としての威厳が満ちていた。長女である彼女は、幼いころから女王になる為の教育を受けてきていたのである。

「お姉さま、おめでとうございます」

 ステラとユウキが、アトリアの前に立ち、祝辞を述べた。

「ありがとうステラ、ユウキさん、あなた方が頼りよ宜しくね」

「全力で支えさせて頂きます」

 二人は、決意を込めて、女王に誓った。

 アトリアは就任早々、サファイヤ連邦の発足に尽力し、三か月という短期間で、サファイヤ連邦を発足させて、初代議長に、ロータスを就かせた。

 アンドロメダは、当面アトリアの補佐をする事になり、アトリア体制を支えている。

 サウスランドでは、今後の事も考えて、二人の住居を新築していた。王宮とまではいかなかったが、警備棟、来客棟、職員棟、住居棟と、多機能の、見事な建物となった。

 ある日、ステラが真剣な顔でユウキを見て、口を開いた。

「あなた、赤ちゃんが出来たの」

「赤ちゃん? 僕達の赤ちゃんが出来たのかい?」

 コックリと頷くステラをユウキが抱き寄せて、優しくキスをした。

「ありがとう、うれしいよ。レグルス様に報告して、安定するまで仕事は休ませてもらおう」

「そんなに大ごとにしないで」というステラの意に反して、ステラ懐妊の報は、その日の内に世界に広まった。


 春三月、ユウキとステラの結婚式がライト王国の宮殿で盛大に行われた。純白のウエディングドレスを身に纏ったステラが、ユウキのエスコートで会場に現れると、その美しさに、ため息と歓声が上がった。実際、ユウキ自身も、その姿を見た時は見とれてしまって、言葉が出て来なかった。

 会場には、世界中から数百名の来賓が祝いに駆けつけていて、この模様は全世界に中継されていた。レグルスや十剣士達の顔も見えて、サルガスが盛んに手を振っていたが、こうした事が苦手なユウキは、終始緊張気味で会釈するのが精いっぱいだった。

「こんな大げさな事になるとは思わなかったな」

「あなた、落ち着いて」

 ユウキが、あたふたしている内、ファンファーレと共に、アトリア女王夫妻が入場すると式が始まり、最初にアトリアが挨拶に立った。

「本日は妹のステラの結婚式に、世界中から多くの方が駆けつけてくれました。家族を代表しまして皆様にお礼を申し上げます。大変にありがとうございます。

 また、二人が開発中のサウスランドを正式な国として認め、二人を国主とする事が決まりましたので、この場を借りて御報告させて頂きます。サウスランドの建国は始まったばかりですが、核によって地獄となったあの天地を元の美しい国土に生まれ変わらせようと二人は、先頭になって奮闘しています。今後皆様に、何かとお世話になると思いますが、何卒、二人を、サウスランドを、よろしくお願い致します」

 アトリアは、簡単に挨拶し、中央に座った。続いて、二人が女王の前に立ち、誓いの言葉を述べると、女王から、夫婦であることを認めますとの言葉があった。二人が指輪を交換し、誓いのキスをすると、会場から歓声と拍手が沸き上がった。

 式は、披露宴へと移り、ライト王国の新議長が、挨拶に立った。彼は、目に涙をいっぱい貯めて、静かに話し出した。

「ステラ様、ユウキ様、ご結婚おめでとうございます。今日まで、この国の為に戦って頂いたお二人に、この場を借りて心より御礼を申し上げます。

 ステラ様におきましては、十五才の頃から、女性としての幸せも、青春も、全てを投げうって、戦いの先頭に立って頂きました。いつの日にか、結婚し、お子をなして幸せに暮らして欲しいというのが、私共、全国民の思いでありました。

 如何なる縁か、ユウキ殿という良き伴侶とめぐり会い、愛を育まれ、先般、ご懐妊された事も伺いました。私達の願いが、全て現実のものとなったのです。

 そして、私達が待ちに待った平和が終に訪れました。これ以上の喜びはありません。誠に誠に、おめでとうございます。又、有難うございました」

 スピーチが終わると、全員が、スタンディングオベーションで、涙を流しながら大拍手をステラ達に送った。彼の言葉は、そのまま、全国民の思いを代弁していたのだ。ステラとユウキは起立し、深々と頭を下げて、皆の真心に応えた。

 感動の結婚式が終わり、二人は、広場が見渡せるバルコニーへと向かった。宮殿の広場には、ステラの花嫁姿を一目見ようと、数万の人達が集まっていた。天空には、巨大な、立体映像が投影され、遠くからでもステラ達の顔が見えるように、配慮されていた。二人がバルコニーに姿を現すと、

「ステラ様、ユウキ様、お幸せに!」

「ステラ様万歳!」

 あちこちから祝福の言葉が飛び交い、今まで抑えてきた歓喜が爆発して、万歳の歓呼が鳴りやまなかった。

 ステラが、深くお辞儀をして話し始めた。

「皆さん、今日はありがとう、待たせてごめんなさい。……ステラは今、世界で一番の幸せ者です。ほんとうにありがとう」

 短い言葉だった。だが、彼女の幸福を心から願っていた、ライト王国の人達には、それ以上の言葉はいらなかった。それは、彼女と彼らの、勝利宣言に他ならなかった。

 ステラはユウキの腕を取り、抱き寄ると、片手でⅤサインを高々と青空にかざした。

「ステラ様、万歳、ユウキ様、万歳」

 期せずして、皆の声が、勝鬨が、天の声の様に響いた。

 次に、ステラに促され、ユウキが挨拶に立った。

「私は、ステラが、この星が大好きです。どうか皆さんと共に、もっともっと、幸福な国を、星を築いていきたいと思います。若輩者ですが、どうぞよろしくお願いします。ライト王国万歳、サファイヤ星万歳!」

 ステラとユウキが手を繋ぎ、高々と上げると、賛同の拍手が歓声が轟いた。

 感動冷めやらぬ、彼らは、歓声を上げたり踊ったりして、いつまでも帰ろうとはしなかった。

 この後、二人は、オープンカーに乗って、市内をパレードした。沿道には、数百万という人達が待ち受けていて、祝福を受けた。ユウキとステラは、懸命に手を振り、声をかけ、皆の真心に応えた。

 すべてが終わった頃には、すでに、夕暮れになっていた。

「疲れていないかい?」

「大丈夫、かえって元気をもらったわ」

 二人は、関係者にお礼を言って、帰宅の途に就いた。日は既に落ちて、一番星が輝いていた。

 ステラは車の中で、心地よい疲労を覚え、ユウキの胸で、スヤスヤと寝入ってしまった。ユウキは「よく頑張ったね。お疲れ様」と彼女の幸せそうな寝顔を見ながら、彼もまた満足感に満たされていた。

 空には二つの月が煌々と輝き、二人を大きく包んでいた。

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