第27話 ムミョウの影

 ステラとユウキはサウスランドの発展に、国主として手を尽くしながら、新婚生活を楽しんでいたが、ステラのお腹が順調に大きくなって臨月を迎えると、ユウキは、彼女の世話を焼きながら、落ち着かない日々を送っていた。

「お産の間は、ライト王国のお母さんの所へ帰って、ゆっくりすると良いよ」

 ユウキが気を利かせて、故郷での出産を提案した。

「ありがとう、でも、この国で産みたいの。此処は私達が作った国よ。この子の故郷は此処しかないわ」

 ステラは、大きくなったお腹を優しく撫でながら、

「ねえ、あなたもそう思うでしょう」

 と、その子に話しかけるように言った。

 戦争が終わった事で、ステラの警護は、ステラ部隊の百名が宮殿警護も兼ねて行っていて、十剣士達は、それぞれの任務に就いて、親衛隊は解散状態となっていた。

 ネーロの残党が、時々事件を起こしていたが、脅威というほどではなく、サウスランドの司令官、レグルスも、現体制で充分と判断していた。

 ステラは、予定日が近くなって来ると公務からは退いていたが、宮殿の一室の椅子に座って、時々入ってくる国の諸問題にホログラム電話で、丁寧に相談に乗っていた。

 その日は、ユウキも公務で外出し、ステラの身の回りの世話は、最近入ったアンカという秘書が担当していた。彼女は、二十歳くらいの頭の良さそうな娘で、仕事はテキパキと熟し、愛想もよかった。

「アンカ、仕事が一段落したから、お庭を散歩したいわ。一緒に来て頂戴」

 ステラが呼ぶと、アンカがスッと現れて支度を始めた。

 九月に入って、秋の気配が感じられるようになったが、日差しはまだ厳しかった。ステラはアンカが差しかける日傘に護られて、ゆっくりと庭園を歩き、木々の緑や美しい花々を楽しんだ。

 この庭園は、地球の日本庭園を模してユウキが作らせたもので、この星には無い味わいがあると、評判がよかった。

 ステラとアンカが、日陰にあるベンチに座って歓談していた時である。

 異次元の空間から彼女たちを窺う影があった。その影は、ステラを観察しながら徐々に近付くと、青く光るビームサーベルを抜き、一気にステラ目掛けてその剣を突き出した。

 その瞬間、「ステラ様危ない!」アンカはステラを庇って、空間から突き出された剣を素手で払いのけると、ステラをシールドで覆って防御した。相手の姿は見えず、剣だけが空間を裂いて飛び出してくる。その剣をアンカは素手で打ち返していた。

「アンカ、あなた手は大丈夫なの!?」

 ステラが、シールドの中から、彼女の戦士のような動きに目を見張りながら聞くと、

「大丈夫です。ステラ様は動かないで下さい!」

 アンカが叫んで、紅のスーツを纏うと、謎の刺客がその姿を現した。

「ムミョウ!?」

 ステラは、その姿を見て思わず息を呑んだ。黒と赤のニシキヘビを思わせる不気味なスーツは、先の戦いで死んだネーロの帝王ムミョウのスーツだったからだ。

 アンカは、剣を抜き、ムミョウに挑みかかり、剣を交えていたが、このままでは戦いの衝撃で宮殿が壊れてしまうと判断すると、ムミョウに組み付き、異世界へと消えていった。

 そこへ、連絡を受けて帰って来たユウキがステラを見つけ、シールドを解除して、彼女を抱き寄せた。

「大丈夫? アンカは何処へ行ったんだ?」

「宮殿をを破壊されないように、ムミョウと次元を超えて行ったわ」

「ムミョウ? ネーロ帝国のムミョウかい?」

「そう、影武者かも知れないけど、同じ型のスーツを着ていたわ」

「そうか。少し様子を見てくるよ、君は宮殿に戻って休んでいてくれ」

 ユウキが行こうとすると、ステラが、その腕を取った。

「私も連れて行って。アンカも心配だし、ムミョウの正体も気になるの」

「無茶を言うなよ。そんな身体で……」

「お願い。あなたの力なら、何とかなるでしょう」 

「……向こうで産気づいても知らないぞ」

 ユウキはそう言って、渋々ステラを抱き上げた。

「なんて重いんだ!」

 ユウキが、いかにも重いといった仕草をしたので、

「まあひどい! 覚えてらっしゃい」

 ステラが睨んでユウキの頬を抓った。

「痛い、痛い」

 ユウキが大袈裟に言うのを、ステラが笑いながらそのほっぺにキスをした。

 ユウキは、シールドで球体を作り、その中に椅子を置いてステラを座らせると、二人を乗せた球体は次元飛行へと入っていった。

 多次元の中から、アンカの光跡を辿って位置を着き止め、その世界に入ると、そこには茫漠たる砂漠が広がっていて、眼下では、アンカとムミョウが砂塵を舞い上げて、激しい戦闘を繰り広げていた。ユウキ達は距離を置いて、上空よりその戦いを見守った。

「彼女は何者なの? あなたが連れて来たんでしょう」

 ステラは、アンカの高速の動きに驚きを隠せずにいた。

「もうすぐ分かるよ。それにしても、あのムミョウも、アンカの動きに負けていないぞ」

「そうね。いつの間に、あんな高性能のスーツを作ったのかしら。あれでは私でも勝てるかどうか……」

 ステラの戦士としての血が騒ぎ、唇を噛んだ。

 アンカとムミョウの激闘は続き、殆ど互角の戦いかと思われた次の瞬間、ムミョウの剣がアンカの身体を、頭から真半分に切り裂いた。

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