第25話 決着

 決戦の日は、雲一つない晴天だったが、戦士達にとって、その青空は虚しいものだった。

 アダラから、ユウキと共に核爆弾を処理中だと連絡が入ると、レグルスは決断した。五千の兵は、一気に首都へ雪崩れ込むと、王宮を取り囲んで、議長派の兵士数千と、激突した。ステラが先陣を切って斬り込んでいくと、待っていたようにデネブが姿を現した。

「ステラ、勝負だ!」

「デネブ! ハダル大佐の仇を打たせてもらうわ。覚悟しなさい!」

 ステラとデネブの一騎打ちが始まった。剣を交えてみると、デネブは、御前試合での悔しさを発条に修行したと見えて、動きと言い、剣さばきと言い、格段の成長を遂げていた。

「デネブ、腕を上げたわね」

「驚くのはこれからだ!」

 デネブの動きが加速され、ステラの動きを上回ると、重い剣が彼女のシールドを破りスーツの一部を切り裂いた。

「速い! デネブ、スーツに何をしたの?」

「ふふ、スーツのパワーを開放したんだ。お前と戦うにはこれしかないからな」

「馬鹿な事を、死ぬ気なの!」

 戦闘スーツには、その動きが人間の限界を超えないように、安全装置が付いている。デネブは、それを外してしまったのである。最強の力を手に入れる為に、彼は己が命を差し出したのだ。

「問答無用だ! 全力で来い!」

 超高速のデネブの前に、ステラは止む無く修羅化して力を倍加させた。超高速の二人が激突すると、剣と剣がぶつかる音と、閃光だけが見えて、その動きは殆ど目に留まらなかった。

 デネブからは、既に殺気は消えていて、ステラとの闘いを楽しんでいるように見えた。だが、そんな戦いが暫く続くと、高速の動きに耐えかねたデネブの身体が悲鳴を上げた。

「ゲホッ!」

 デネブが、血を吐き、その動きが鈍くなった。

「デネブ、それ迄よ。剣を引きなさい!」

「まだだ!!」

 デネブの、最後の力を振り絞った渾身の剣がステラを襲った。その瞬間、彼女の剣が一瞬早く、デネブの胸を貫いていた。

「ウグッ!」

 デネブは、呻き声を上げると、ぐったりして地上へ落下していった。ステラは落ちてゆくデネブの身体を抱き止め、地上に降りると彼を寝かせた。 

「ステラ、そこにいるのか? 目が見えない、手を、手を握ってくれ」

 ステラが、彼の手を握ると、その温かみがデネブの身体に染み渡り、その表情が緩んだ。

「……嬉しいよ、お前の剣で死ねて……」

 デネブは、ニッコと笑って、息を引き取った。

「可哀想な人……」

 ステラは、開かれたデネブの瞼を閉じてやりながら、彼の死に顔を見つめていた。

 人生は紙一重である。もしも、ユウキとの出会いが無ければ、政略結婚で彼の妻になっていたかも知れなかった。ステラの目に涙が光った。

 数時間で、王宮の反乱軍はほぼ鎮圧され、王宮の前では、レグルスがアルデバランを追い詰めていた。

「アルデバラン、もはや勝負は決しました。投降してください!」

「ふん、レグルス、これが何だかわかるか?」

 アルデバランは黒い小さな箱を取り出すと、その蓋を開けた。

「これは、核の起爆スイッチだ。核爆弾はこの都の中心部にセットしてある。軍を引かないなら、このボタンを押すがいいのか? 数百万の人間が死ぬぞ!」

「……」

 この時、アダラからの核処理の完了の知らせは、まだ入っていなかった。

「早まってはなりません。この国は滅び、あなたも死んでしまうのですよ!」

 レグルスが、説得を試みたが、アルデバランの心には届かなかった。

 次の瞬間、レグルスの口から耳を疑う言葉が発せられた。

「いいでしょう、押せるものなら押してみなさい! 臆病者のあなたに出来るはずもない」 

 レグルスが、嘲り笑うと、アルデバランは、正気を失い、必死の形相となって核のボタンを押してしまった。

 だが、爆発は起こらなかった。アルデバランは何度もボタンを押し続けたが、何も起こらなかった。 

「核は、たった今撤去しました。貴方の負けです」

「……」

 核爆弾は、既に、ルナとフレアが物質転送装置を使って、宇宙空間へ転送していて、宇宙で大爆発を起こしていた。レグルスがアルデバランを挑発したのは、アダラからの連絡があったからだった。

 アルデバランは、レグルスの挑発に乗って、我を忘れて核のボタンを押してしまったが、爆発が起きなかった事で、正気を取り戻していた。

「それ、例の者を引き立てろ!」

 アルデバランが合図すると、彼の部下達が、顔を頭巾で隠した一人の女性を引きずり出した。

「これならどうだ!?」

 アルデバランが女性の頭巾を剥ぎ取ると、それは、女王アンドロメダだった。

「女王様! サウスシティに行ったはずでは!?」

 レグルスが驚いて叫び、味方の兵士達は固まった。

「サウスシティへ乗り込んで拉致して来たのよ。警備も手薄で訳は無かったぞ。皆の者、武器を捨てろ、女王がどうなってもいいのか!?」

 アルデバランは、剣を女王の喉元に付きつけて、声高に呼ばわった。

「レグルス! 私諸共、反逆者アルデバランを打ち取りなさい!」

 アンドロメダが決死で叫ぶと、アルデバランの剣に力が入り、彼女の首元がジリリッと焼けた。

 女王が、もはやこれまでと、その首を剣に向かってグッと突き出そうとしたその時、ステルスモードで近寄って来たステラが、アルデバランの剣を鷲掴みすると、彼の腹部をしたたか蹴った。アルデバランが倒れるのと同時に、現れたユウキが、女王を押さえていた兵士達を蹴散らし、倒れそうになった女王を抱き留めた。

 次の瞬間、起き上がったアルデバランにレグルスの剣が煌めくと、アルデバランの首が、血飛沫と共に宙に飛んだ。首はごろごろと転がり、身体は数歩歩いて崩れるように倒れると、議長派の兵士達は恐れ戦き、一斉に武器を投げ出した。

 アルデバランによるクーデターは、彼の悲惨な死に様をもって終結した。

「母上、大丈夫ですか?」

「ユウキ、ありがとう。初めて母と呼んでくれましたね」

「すみません。ちょっと恥ずかしいだけです」

 ニコッと笑った女王を、ユウキが腕から降ろして、彼女の首の傷口に手を当てて金色の光線を照射すると、見る間に傷は塞がっていった。

「ありがとう。ステラ、剣を」

 ステラが、アンドロメダに寄り添い剣を渡すと、彼女は、その剣を高々と天に突き上げた。

「反逆者アルデバランは打ち取った。ライト王国万歳!」

 期せずして、五千の兵士達の勝鬨が、青空に木霊した。

 

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