第24話 アルデバラン謀反
議長アルデバランは、シリウス王の時代から、ライト王国の王になりたいという野望を持っていた。シリウス王の死後、アンドロメダが女王になった為、実権を握れなかった彼は、議長となってその勢力を拡大しながら機会を伺っていたのだ。
ネーロ帝国との戦争が終わって、女王派の兵士が手薄になった今、好機とばかりにクーデターを起こしたのである。
彼は、まず、女王アンドロメダの身柄の確保に動いた。不意を襲われた女王達は、懸命に応戦したが、多勢に無勢で戦いは直ぐに終わった。この戦いで、ハダル大佐は女王の盾となって壮絶な死を遂げ、アレク将軍も負傷し、女王と共に王宮の地下牢に囚われの身となったのである。アルデバランにとって恐れるのは、ユウキとステラの存在だった。無敵の彼らを抑えるためには、女王拉致しか方途は無かった。
特設の地下牢はシールドが何重にも張り巡らされ、周りには、おびただしい数の兵士が固めており、それこそ蟻の這い出る隙も無い厳重さとなっていた。
レグルスの軍三千は、ライト王国から数十キロ離れた無人島に下り立った。首都の海岸線はアルデバランの兵が固めていて近付けなかったのだ。
レグルス達は、待っていた配下から、女王とアレク将軍の拉致と、ハダル大佐の戦死を聞かされた。
「ハダル大佐、惜しい人を……」
サルガスが肩を落として涙ぐんだ。彼とハダル大佐は馬が合って、よく冗談を言い合う仲だったのだ。
「ハダル大佐は、お母さまを命を懸けて護ってくれたのね。お母さま大丈夫かしら……」 ステラが案じ顔で、姉のアトリアを見た。
「大丈夫よ。お母さまの命は、そのままアルデバランの命でもあるから、簡単に殺したりしないわ」
「その通りです。ここは、敵に気取られぬように、少数精鋭で王宮へ向かいましょう」
レグルスはそう言って、兵士達に待機するよう指示を出した。
「ユウキは、呼ばなくていいの?」
ステラがレグルスに言うと、彼は空を指さした。
「彼ならもう来ています。ユウキ! 姿を現して下さい」
レグルスが声を掛けると、ユウキが、ステルスモードを解除して、空からゆっくり下りて来た。
「あなた、ロータス様に許可を頂いたの?」
「うん、向こうに僕の仕事はもうないからね。ロータス師匠に無理を言って、追いかけて来たんだ」
ユウキが加わって、首都奪還の陣容は万全の体制となった。
夜の帳が下りると、レグルスを先頭に、ステラ、ユウキ、十剣士、アトリアの十四名は、ステルスモードとなって、王宮目指して消えていった。
一方、アルデバランは王宮の王座に座り、息子のデネブとワイングラスを傾けていたが、彼の心中は穏やかではなかった。女王を助ける為に、あのステラが、そしてユウキが必ずやってくる事は間違いなかった。女王を人質にして彼らを支配できなければ、すべて終わりだと彼は思った。
アルデバランは立ち上がり、恐怖を打ち払うようにグラスを床に叩きつけると、戦闘スーツを身に纏った。
「デネブ、地下牢の警護を怠るな!」
「父上、さっきからもう三回も同じ事を言っていますよ」
「えっ、そうだったか……。お前はステラ達が怖くないのか?」
「怖い? 今は、女王を人質にしているこちらが有利ではないですか。あのステラ達に、一泡吹かせられると思うと、ワクワクして来ます」
「……」
アルデバランは、息子デネブの考えが読めず、諦め顔で部屋を出て行った。
レグルス達は、夜中の零時を回った頃、王宮に辿り着いていた。ユウキがレグルスに、女王の居場所を探すように言われて、王宮内を透視すると、
「居ました! 地下の牢の中です。シールドで何重にも守られているうえ、大勢の兵士が警戒しています」
ユウキは、スーツを介して皆にその映像を見せた。
「なるほど、これでは正面からの救出は無理ですね……」
レグルスの顔が一瞬曇った。
「レグルス様、私とユウキのスーツには次元移動装置が付いています。一旦、他次元へ移動して、戻る場所を牢に設定すれば、あの牢の中に直接入る事が出来ますが?」
「そうか、その手がありましたね。でも、空間を移動できるスーツは二つ、牢に行ったところで、帰れるのも二人。貴方達が帰れなくなるのではないですか?」
「心配いりません、スーツには遠隔機能もありますから、陛下をお救いした後、スーツを呼び戻す事が出来ます」
ユウキが説明すると、レグルスの顔に安堵の色が浮かんだ。
「分かりました、それなら、行ってもらいましょう」
二人は、次元移動装置を起動すると、光とともに消えた。
二人が牢に着くと、アレクが倒れこんでいて、アンドロメダが介抱していた。
「お母さま! お怪我はありませんか?」
ステラの声に、振り向いたアンドロメダは、目を丸くして二人を見た。
「ステラ、貴方達何処から……。アレクが負傷しているの、見てあげて」
「はい」と、ステラがアレクに駆け寄った。
「お兄様、しっかりして下さい!」
アレクは、背中に深い傷を受けていて、かなり憔悴していた。ステラが抱き起そうとすると、
「私はいいから陛下を……」
アレクは、女王を気遣いながら、気を失ってしまった。
ユウキと、ステラは自分達のスーツを二人に着せて、レグルス達が待つ場所へセットして次元移動装置を起動させた。
二体のスーツが消えると、二人は床に腰を下ろした。
「暫く、時間待ちだな」
ユウキは、ゴロっと床の上に横になった。
「ステラ、これからどうする。外へ出て兵士を蹴散らし、一気にアルデバランを追い詰めるか?」
「ちょっとまって、アルデバランほどの者が、これだけという事は考えられないわ。まだ、何か隠し玉があるはずよ」
「そうだな、少し様子を見るか」
二人が話している内、二体のスーツが戻って来た。次の瞬間、不意に牢のドアが開き、敵の兵士達が雪崩込んで来た。二人は、瞬時にスーツを纏うと、群がる兵士達を蹴散らし、レグルス達の許へと帰って行った。
ユウキ達が、無人島に戻ると、女王アンドロメダとアレクは、アトリアが付き添って、サウスシティに移送された後だった。
レグルスの軍には、女王を慕う地方の兵士達が続々と集結していて、今は、五千人を超える陣容となっていた。アルデバランのクーデターは首都に限定されていて、地方には及んでいなかったからだ。
次の日、レグルスのテントにステラ達が集まって、今後の事を協議していた。
「アルデバランには、何かまだ隠し玉があるような気がするの」
ステラが、レグルスに言った。
「私もそう思います。今、配下の者に探らせていますので、すぐに判明するでしょう。その憂いが無くなった時点で、王宮への進軍を開始したいと考えています」
数日後、レグルスの許に、十剣士の一人アダラが現れた。彼女は十剣士の中で唯一の女性剣士である。彼女は何事か報告し指示を受けると、再び、街へと消えて行った。
王宮では、アルデバランが女王を奪還されて、部下に罵声を浴びせていたが、後の祭りだった。
全面戦争に打って出るか、投降するか、だが、投降したところで、彼には死が待っているだけだった。
「デネブ、あれの準備は出来ているのか?」
「父上、準備は出来ていますが、本当にあれを使うつもりですか?」
「事と次第によっては、止むを得まい……」
アルデバランの沈痛な声を聞いて、彼の眼を見つめるデネブの顔に恐怖の影が走った。
その頃、レグルスの命を受けた十剣士のアダラは、首都に潜入し、部下を動員して議長派の兵士の動向を探っていた。
十剣士は、それぞれ独自の部下を数十名持っている。彼らは、情報収集や、ステラの警護の下調べなどを隠密裏に行い、十剣士を陰で支えていたのだ。
「アダラ様、議長派の軍幹部の行きつけのクラブがある事が分かりました。現在、見張りを付けています」
「ご苦労様。今夜にでも潜入してみましょう」
彼女は、クラブのオーナーに手を回して、自らホステスとなって捜査を開始した。美形でグラマーな彼女は、すぐに人気者になった。
「私、飲みっぷりの良い人は好きですわ」
アダラは、目を付けた客には、言葉巧みに酒を進めた。彼らは酒が回ってくると、饒舌になり口を滑らせるのだった。
「それにしても、議長も何を考えているのか。あんな悍ましいものを……」
少尉だと名乗る男が、酔った勢いで喚こうとすると、周りの者が止めた。
「だらしないぞ! もう酔いが回ったのか。おい、誰か連れて帰ってやれ」
上司らしき男が、鋭い目を皆に向けた。
酔いつぶれた少尉は、何かを喚きながら同僚に担がれ帰って行った。それを見ていたアダラの目が光って、客を装った部下に目配せして、後を付けさせた。
アダラは、クラブが終わると、酔っ払いの少尉の家に忍び込んだ。少尉は既に高いびきをたてていた。
彼女はいきなり、少尉の身体の上に馬乗りになると、彼の口を塞ぎ、その首元に短剣を突きつけた。
「騒いだら殺すわよ」
目が覚めた少尉は、何が起きたのかと目を白黒させていたが、状況が飲み込めると、喚くように言った。
「金ならいくらでも出す。命だけは助けてくれ!」
「大きな声を出さないで。アルデバラン議長に、何を頼まれたの?」
「何? お前は、女王派の人間だな。それを言えば、私は殺される。言う訳にはいかん」
アダラは、少尉を睨みつけていたが、何を思ったのか、短剣を引っ込めてベッドから降りると、彼をソファーに座らせた。
「アルデバランが切り札にするなら核爆弾しか考えられないわ。それも、この街のどこかにあるはず。核が爆発すれば、どの道私達も死ぬのよ。貴方にも親兄弟、妻子はいるんでしょう。この国を滅ぼして何の得があるの!」
アダラの真剣な目と声が、少尉の良心を揺さぶった。
「……核は、中央公会堂です」
少尉は、そう言ってガックリと首を垂れた。
アダラとその配下は中央公会堂へと急行した。公会堂の警備は意外と手薄だった。彼女達は警備の者を一気に片付けて、館内を捜索すると、舞台の上に直径二メートル、重さ三トンもの水素爆弾を見つけた。
「アダラ様、これは遠隔で爆発させるタイプですが、起爆装置を外すと爆発するように改造してあります」
「無効化は出来ないの?」
「私達では無理です」
アダラは部下の報告に唖然となったが、その時、ユウキの顔が浮かんだ。
「ユウキ殿に相談してみるわ」
彼女は、スーツの通信機でユウキに連絡した。
「どうしました?」
「核爆弾を見つけたのですが、起爆装置の解除が出来ないのです。力を貸して貰えませんか?」
一分も経たぬうちにユウキが現れた。
「コスモ、解除の方法は無いかな?」
ユウキは、核爆弾の内部を透視しながら、コスモに尋ねた。
『これは、遠隔での爆破を防ぐために、爆弾の周りの電波を遮断しても、爆発するように作られています。当然、起爆装置を外そうとしたり、破壊しても爆発します』
「それじゃあ、解除出来ないのか?」
『難しいですね。良く出来ています』
「感心してる場合じゃない。お前の知識をもってしても方法は見つからないのか?」
ユウキの顔が曇った。
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