第23話 決戦、ムミョウ
その時である、敵のスーツ部隊が次々と倒され、ヤミの腕が一本吹き飛んで、腕の回転が止まった。
「あなた、お待たせ。あとは引き受けたわ、姉を避難させて!」
ステラとライト軍が到着したのだ。ライト軍が、見る間にネーロ軍を撃退すると、ステラとヤミの一騎打ちが始まった。
「ヤミ! 貴方も、おぞましい姿になったものね。そこまでして大悪党のムミョウを何故守る!」
「黙れ! お前には分からぬわ。この形態になればわしの命も長くは持たん。ネーロ兵の最後の意地を見せてやる。来い!」
ヤミは、三本の腕で、太鼓を連打するように、大剣を高速に動かして、ステラのスーパー羽衣に打ち付けた。その回転がフルパワーとなると、スーパー羽衣を侵食して、ヤミの大剣がステラに迫った。
次の瞬間、ステラは、スーパー羽衣を解除して、ヤミの大剣を避けながら横っ飛びに飛ぶと、通常羽衣を剣に変化させ、一瞬にしてヤミの三本の腕を斬った。
高速回転していた三本のヤミの大剣は、支点を失い、その勢いのまま地面にバウンドして、ヤミの腹と胸と頭を貫いていた。
「グハッ!」
ヤミの巨体は静に崩れ落ち、そして、息絶えた。
ステラは、避難していたアトリアに駆け寄った。
「お姉さま、お疲れ様。後はお任せ下さい」
「ステラ、命拾いしたわ。ありがとう」
二人は抱き合って無事を喜び合った。
「僕も頑張ったんだぜ、ご褒美のチューは無いのかい?」
ユウキが、冗談交じりに言うと、姉妹の笑い声が弾けた。
ライト軍は、王宮をぐるりと取り囲み、ステラとユウキが、二人だけで崩れた大門を飛び越え、王宮へと入っていった。
王宮内では、もはや観念したのか、向かってくる者は誰もいなかった。二人は、王宮の奥にある、王の間の扉を押した。
そこは、窓も無い球形の部屋で、中央の王座にムミョウらしき小柄な男が座り、周りを親衛隊が固めていた。ステラは、一人だけで王座に近付き一礼した。
「ムミョウ王、十余年に渡る理不尽な戦争を終わらせる為にやって来ました。ライト王国のステラです。あの者はユウキ、私の夫です」
「あやつがユウキか。お前たち二人に、この国は滅ぼされたようなものだな。それで、この私をどうするつもりだ?」
「貴方を、ライト王国の裁判に賭けます。恐らく死刑は免れないでしょうけど、これ以上の抵抗は無意味です。投降して下さい!」
「そうはいかぬ、わしも一国の王としての誇りと意地がある。死ぬ時は戦って死ぬ」
ステラが、ユウキの所まで下がり身構えると、ムミョウが、黒と赤のニシキヘビの様な模様の戦闘スーツを瞬時に纏い、数十人いたムミョウの親衛隊は、防御態勢を取った。
ムミョウと親衛隊は、一斉にエネルギー弾を放ってフッと消えた。二人は身を翻してそれを避けたが、無数のエネルギー弾は、球形の壁に当たると、あちこちに跳ね返って二人を襲った。ユウキは、それをシールドを張って防いだ。
「ステラ、この部屋はおかしいぞ!」
「この部屋全体が鏡のように、エネルギーを反射するんだわ。あなたの力を封じる為に作ったのね」
「いいさ。それなら、この剣一本で勝負してやる」
ユウキが剣を取り出し、再び現れたムミョウに斬りかかった。捕らえたと思った瞬間、ムミョウの身体は瞬時に消えて、剣は空を切った。
「ステラ、あれは幻影なのか?」
「生体反応が一瞬あったから、幻影じゃないわ」
「幻影でないなら、答えは一つ。次元を移動しているんだ」
「だったら、こちらも彼を追いましょう」
二人は、スーツに付いている次元移動装置を使って、ムミョウの後を追った。
ムミョウの光跡を辿り、ある世界に入ると、そこは、暗黒の世界だった。
「これでは何も見えないな。フレアに照らしてもらおう」
ユウキが、炎の守護神フレアを呼ぼうとした時、コスモの声が響いた。
『待ってください! この地表は可燃性の物質で出来ています』
「えっ!」
その時、隠れていたムミョウ親衛隊が現れ、エネルギー弾を高々と打ち上げて、すぐに姿を消した。エネルギー弾が地表に着弾すると、その世界は、目も眩む閃光と共に、大爆発を起こして、火炎地獄と化した。
ユウキとステラは、瞬時に次元移動へと入ったが、爆発の光で目をやられていた。
「ステラ、大丈夫か?」
「目が見えないわ!」
ステラは、爆発の時の閃光が目に焼き付いて、視界が真っ白になっていた。
「心配ない。時間が経てば見えてくるはずだ」
ユウキは、ステラを抱いて、別の世界へと入っていくと、そこには、百メートル位の、無数の切り立った岩山がそびえていて、さながら、針地獄のような世界だった。だが、此処には空気があり、水も流れていた。
「ステラ、少しここで休んでいこう」
二人が、岩山の麓の、岩の上に腰を下ろして、視力が戻るのを待っていると、突然、岩山の上の方で爆発が起こり、崩れた岩石が雪崩のように二人を飲み込んだ。
ユウキが、シールドで岩石を防ぎ、ステラを抱いて外へ飛び出すと、ムミョウと親衛隊が山の上から姿を現し、エネルギー弾の猛攻撃をかけて来た。
「くそっ、奴らもこの世界に来ていたのか!」
ユウキの視力は既に戻っていたが、生身のステラの目は、まだ回復していなかった。ユウキは、ステラを抱いたまま親衛隊の攻撃をかわし、応戦して、彼女を岩陰に避難させると、挑んで来る親衛隊を、巨大なエネルギー弾を放って、岩山ごと吹き飛ばした。
ムミョウは、親衛隊を一瞬で失い、ユウキの力の凄さに改めて驚いていたが、腹を決めたのか、剣を翳すとユウキ目掛けて突進して来た。
剣と剣が激しくぶつかり合い、二人の身体が弾かれたように左右に分かれると、そのムミョウが弾かれた方向には、岩陰に隠れていたステラが、出て来たところだった。「しまった! ステラ、危ない!!」
ユウキが叫んで、ステラが振り向こうとすると、ムミョウの剣が、大上段から彼女に振り下ろされた。
次の瞬間、ステラが振り向き様に、ムミョウの剣を弾き返し、彼の腹部を斬り払った。
「むむっ」
ムミョウのスーツが裂け、彼は、腹を押さえながら、他次元へと消えていった。
「ステラ、目は見えるのか?」
「何とかね。危なかったわ」
「ステラ、一旦、元の世界に戻ろう。奴は必ず戻って来る」
二人は、元の王の間に戻ると、空間の微妙な変化に心を研ぎ澄まして、待ち続けた。
そして、
「そこだ!!」
二人の声が響き、同じ場所を二人の剣が突き刺した。
「ウグッ」
二人の剣の先端の空間から、ムミョウの悲鳴が聞こえ、血が流れ出た。そして、胸を刺されたムミョウが姿を現し、フラフラと歩いて、力尽きたように王座に座った。
「わが世界制覇の夢も潰えたか、ふふ。ステラよ、これで終わりと思うな。何時の日にか我が分身がお前達を葬り去るであろう」
ムミョウは不敵な笑いを見せて、ガックリと首を垂れた。
「ステラ、自爆装置だ!」
言うが早いか、ユウキはステラを抱きあげると、拳で鏡の壁を粉砕し、一気に王宮から飛び出した。その瞬間、王宮は大爆発を起こして跡形もなく吹き飛んだ。
ステラ達が上空でムミョウの死を告げると、王宮を取り囲んでいたライト軍から、勝利の勝鬨が上がった。兵士達は、歓喜の声を上げ、抱き合い、涙を流して勝利を噛み締めていた。
「終わったんだね」
ユウキが、眼下の兵士達の勝鬨を聞きながら、感慨深げに言った。
「終わったわ。あなたのお陰よ、ありがとう」
ステラが、ユウキに寄り添った。
ここにネーロ帝国は崩壊し、十余年に渡る戦争にピリオドが打たれたのである。
ライト軍はロータスの指揮のもと、駐留軍の編成や、国民の生活の支援の手を打つなど、ベガを中心とした、新帝国の建設に向け、全力をあげて対応していった。
一週間が経ち、回復したレグルスも合流して、ステラと対面した。
「レグルス様、よかった……」
あとは声にならず、レグルスの胸に飛び込んだ。レグルスは、優しくステラの頭を撫でた。
「もう大丈夫です。心配をかけたね」
師としての慈顔がステラを優しく包んだ。
その時である。一人の兵士が、慌ただしく駆け込んで来て、ロータスに報告した。
「ロータス様大変です! ライト王国から緊急連絡がありまして、議長、アルデバランがクーデターを起こしました。街中で戦闘が起こっているようです!」
「何! アルデバランめ。こんな時に、やってくれたな」
ロータスは、顔を曇らせたが、すぐにレグルスに言った。
「レグルス、復帰早々で申し訳ないが、三千の兵を連れてライト王国に向かってくれ、状況次第で次の手を考える」
「分かりました!」
「私も行きましょうか?」
ユウキが申し出たが、ロータスは、首を縦に振らなかった。
「レグルスの報告次第で考えよう、女王陛下の安否も分かっていない今、お前を迂闊に動かす訳にはいかんからな。内情に詳しいステラとアトリア様には同行して戴きましょう」
レグルスとステラ、アトリアは、三千の兵と共に、女王アンドロメダの無事を祈りながら、ライト王国へ、猛然と進軍を開始した。
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