第22話 進撃、スーパー羽衣
その日は、大荒れの天気となったが、ユウキとアトリアは、スーパー羽衣を起動して帝都へ足を踏み入れた。
スーパー羽衣は、エネルギー帯である羽衣を、直径十メートル程の輪に変形させて、それを見えなくなるまで高速回転させた、球体のシールドである。単なる防御シールドでは無く、触れる物全てを破壊する凄まじい兵器だ。
視覚では捉えられないスーパー羽衣は、ネーロ軍の兵士達から見れば、ただ二人が歩いているようにしか見えなかった。前にユウキが立ち、その後にアトリアが続くと、ネーロ軍の戦闘スーツ部隊が、一斉に二人に襲い掛かった。
彼らは、スーパー羽衣に触れると、血飛沫を上げて砕け散り、その屍が街道を埋めていった。彼らは、見えないスーパー羽衣の威力に恐れ戦き、遠くからエネルギー弾などで攻撃するしかなかった。
二人は歩いて様子を見ながら進んでいたが、暫くすると、一メートルほど浮き上がり、スピードを上げた。相変わらず、ネーロ軍の攻撃は続いたが、その進撃を阻むことは出来なかった。
その、どさくさに紛れ、十剣士を中心とする核の処理部隊が、ステルスモードで六つの基地へと向かって行った。
アトリアとユウキは、夜になると進行を止めて、ユウキのシールドの中で眠った。このシールドはステルスモードで外からは見えない。シールドの中には、ルナが即席で作った小さな部屋があって、トイレや小さなベッドまで整っていた。
「貴方の守護ロボットって何でも作れるのね。こんな所で、ゆっくり眠れるとは思わなかったわ」
アトリアは、エイリアンのスーツの不思議な力に、驚きを隠せない様子だった。
ユウキは、あまり話した事も無い義姉アトリアと同じ空間で眠る事に、いささか抵抗があったが、彼女は、特に意識しないのか、自分の事やステラの子供の頃の話を聞かせてくれた。
ネーロ軍の兵士を悉く撃破し、不気味に前進する二人の姿に、ネーロ軍の兵士達の恐怖心は日増しに高まっていった。
次の日の早朝、ネーロ軍の戦闘機部隊ががスーパー羽衣にミサイル攻撃を開始した。
「ユウキ、大丈夫なの!?」
アトリアは、凄まじい爆発の連続に、不安そうにユウキを見た。
「大丈夫です。スーパー羽衣は、これ位のミサイルでは破壊出来ません」
ミサイルの爆発で、スーパー羽衣の外は火炎地獄と化していたが、内部は静かなものだった。ただ、爆発の閃光だけが、二人の顔を照らしていた。
アトリアは、街道沿いの民家に被害が及ばないように、最寄りの広場に移動させて、ミサイル攻撃に晒されながら、攻撃が止むのを待った。
帝都の王宮では、ムミョウ達が、送られてくる映像に釘付けになっていた。
「あのシールドは破れないのか! この王宮の、目と鼻の先まで迫っているんだぞ!」
ムミョウが、苛立ち、幹部を怒鳴りつけていて、副官ヤミがそれを宥めていた。
「ムミョウ様、此処は帝都の民にひと働きしてもらいましょう。それから、核の準備もしておくべきかと。王宮近くでの使用は不本意ですが、背に腹は替えられません」
「そうか、任せよう……」
ムミョウは、そう言って黙り込んだ。
数時間後、ユウキ達が進撃する前方に、新たな数千のスーツ軍団が道を塞いだ。
「アトリア様、あれは奴隷化スーツです。中に入っているのは恐らく一般人です、スーパー羽衣を止めましょう」
「都民を盾にするなんて、ムミョウはどこまで卑怯なの!」
アトリアが、吐き捨てるように言った。彼女が、スーパー羽衣を止めて、ユウキのシールドに入ると、二人は、敵の出方を待った。
都民達からは、恐れ戦き叫ぶ声があちこちから漏れて来ていた。しかし、彼らの意に反し奴隷化スーツは、エネルギー弾などでユウキ達を攻撃し始めたのである。
「ユウキ、あの奴隷化スーツをどうやって止めるの?」
「音波砲を使えば、スーツだけを破壊出来ます。そのあと、シールドで都民を守りますから、スーパー羽衣で前進して下さい」
ユウキが、ひしめき合って進軍してくる都民の前に立ちはだかり、最大級の音波砲を発射すると、都民達から悲鳴が上がったが、破壊されたのは奴隷化スーツや武器だけで、彼らに被害は無かった。
次にユウキは、巨大シールドで都民を覆って、アトリアに合図すると、彼女は、スーパー羽衣を起動して、その頭上を通過していった。シールドを外し、都民たちが逃げ散るのを確認してユウキは、アトリアと合流した。
そして、数日進撃し、王宮迄三十キロの所まで来た時、コスモの只ならぬ声が響いた。
『ユウキ! ネーロ軍の基地から、核弾頭を搭載したミサイルが発射されました。着弾迄あと二分!』
「了解! 位置を認識した。アトリア様、ちょっと行ってきます、そのまま進撃してください」
アトリアが返事をする間もなく、ユウキは次元移動装置を使ってスーパー羽衣の外へ出て、一気に空へ舞い上がった。彼は、十秒ほどで核ミサイルに追いつくと、上昇から下降へと転じる直前でミサイルを抱きかかえ、そのまま強引に宇宙空間へと運び、破壊した。
『敵核ミサイル第二波! 今度は五発一度に発射されました。ライト王国とサウスランドに二発づつ、残りの一発は此処へ来ます!』
「ルナ! フレア! ライト王国とサウスランドのミサイルを頼む。時間が無ければ起爆装置のみを破壊してくれ!」
『ラジャー!』彼女達は、瞬時に現れると、それぞれのミサイルを追っていった。
ルナは冷凍光線で核を無力化して海上に落下させ、フレアは炎を封印してミサイルに馬乗りになると、拳で起爆装置を破壊した。彼女達のスピードをもってすれば簡単な仕事だった。
ユウキは、最後のミサイルを処理しようと近付いたその時、コスモの声が聞こえた。
『ユウキ、このミサイルは五秒後に爆発します。間に合いません!』
「何!? 狙いは俺だったのか!」
ユウキの頭脳が、瞬時にその対処法を弾きだすと、彼はミサイルの下方へ降りて、両手をミサイル目掛けて突き出した途端、途轍もないエネルギー波を炸裂させた。
「ズドドドーン」
白い光が空を覆って、ユウキの身体は、その反動で数百メートルも後方に押し返され、直後に、ミサイルは核爆発を起こした。だが、爆風も放射能も、その巨大なエネルギー波が一気に包み込み、宇宙へと吹き飛ばしていた。
「何てパワーなんだ……」
それは打ったユウキ自信も驚く、凄まじいパワーだった。彼の両手からは、まだ煙が出ていた。
計り知れないユウキのパワーだが、通常の戦いでは、数パーセントに力をセーブしていた。今回は、その力を五〇パーセントにまで上げたのだ。
ユウキは、何も無かったような顔で、アトリアの横に姿を現した。それは、五分程の出来事だった。
「ユウキ、何があったの?」
「ネーロ軍が核ミサイルを発射したので、片付けて来ました」
「えっ。……あなたの話には付いていけないわね。それにしても核を使ってくるなんて」
「奴らの最後のあがきでしょう」
帝都侵攻から二週間が経ち、終に、王宮が見える所まで来ると、アトリアは進撃を止めて、サルガスからの核処理の連絡を待った。ネーロ軍の攻撃は、何故かピタリと止んでいた。
「ユウキ、全ての核を無効化させた。存分にやってくれ!」
「ラジャー!」
サルガスの連絡を受けて、アトリアとユウキは、一気にネーロ帝国の王宮へと、進撃を加速させた。
そして、王宮の大門の前に二人が立つと、そこには、ネーロ帝国の副官ヤミが仁王立ちしていた。
「このヤミの命に替えて、断じてお前達を止める! 我が最終形態を見るがいい!」
すると、ヤミの身体が音を立てて変化を始め、見る見るうちに巨大化して、二十メートルを超す巨人となった。更に両肩から新しい腕が伸びて四本の腕になり、それぞれ巨大な幅広の剣を握っていた。
ヤミの魔人の様な姿に、ユウキとアトリアは言葉を失った。
その時、何千という戦闘スーツ部隊が雲と湧き上がり、再びユウキに襲い掛かった。彼らは、胸に高性能爆弾を抱いて、口々に何かを叫んでユウキに突進し自爆していった。ユウキは、シールドで持ち堪えながら、最大パワーの音波砲で迎え撃ったが、彼らの自爆攻撃を止める事は出来なかった。
閃光と爆音、そして噴煙、凄まじいネーロ兵の執念と死に様に、後方のアトリアも息を呑んで見ていたが、ユウキの戦いに気を取られていた彼女の背後から、ヤミが、今にも襲い掛かかろうとしていた。ユウキが援護しようにも、戦闘スーツ部隊の執拗な攻撃で、身動きが取れなかった。
ヤミは、アトリアのスーパー羽衣目掛けて、四本の大剣を連続で振り下し、次第にスピードを上げていった。スーパー羽衣に大剣が激しくぶつかり、凄まじい火花が弾け飛んだ。最初、跳ね返されていたヤミの大剣だったが、打ち下ろす度に猛烈な勢いで加速され、唸りを上げ、大剣の動きが高速で見えなくなると、スーパー羽衣を凌駕しダメージを与え始めた。
「どうだ、思い知ったか!!」
ヤミの雷鳴の様な声が轟いた。
「ユウキ! スーパー羽衣が壊される!!」
アトリアの、悲鳴のような声が聞こえた。
「アトリア様!!」
ユウキの叫びは爆発音で掻き消された。そして、終に無敵のスーパー羽衣は撃破され、ヤミの大剣が無防備となったアトリアに振り下ろされた。
その刹那、ユウキの両手から巨大なエネルギー波が放たれ、群がるネーロ軍を吹き飛ばすと、瞬時にアトリアの上に覆いかぶさって、ヤミの大剣をまともに背中に受けた。
「ウウッ」
ユウキが懸命に堪え、シールドを最大にしてヤミの剣を跳ね返し攻撃態勢を取ったが、スーツ部隊とヤミの攻撃を受けながら、シールドでアトリアを守るのが精いっぱいだった。
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