第21話 ステラ倒される
巨人ロボットを壊滅し、ザールラントを、ほぼ制圧したステラ達の前に、ネーロ帝国の指揮官、ベガ大佐が姿を現した。
「ステラ姫、お前たちの力には脱帽だ。だが、私にも意地はある。刺し違えてでも貴女を倒す!」
ベガは、二刀を引き抜くとステラと対峙した。
ユウキは、ベガをステラに任せて、巨人ロボットが出て来た地下基地の破壊へと、向かった。
ベガは長身で、長い両腕から振り下ろされる剣は重く、速かった。彼も、ヤミと同じく、自らをサイボーグ化していたのだ。
エイリアンの技術で、強化されたスーツを纏ったステラの動きも、ベガに劣る事は無かったが、既にステラのスーツのエネルギーは底をつき、頼みのスーパー羽衣は起動出来なくなっていて、彼女は、剣一本で戦うしかなかった。ステラの剣と、ベガの剣が火花を散らし、激闘が続いた。
戦いの連続で疲れがピークに達していたステラが、速く勝負を終わらせようと、渾身の一撃を振り下ろすと、ベガの双剣が、はっしと受け止め、押し合いになった。
その時、「危ない!」レグルスが叫びながらベガの双剣を弾いて、二人の間に入り、ステラを抱きしめる形になった刹那、ベガの第三の剣がレグルスの腹部を貫通し、ステラにまで達した。
「レグルス!!」
ステラが、ぐったりしたレグルスを抱きとめ、現れたユウキに渡すと、瞬時に十剣士達がステラのガードに入った。
「死なせないで!」
「分かった。任せろ!」
ユウキは、ステラのスーツにパワーを送ると、傷ついたレグルスをコスモタワーに運び、蘇生カプセルに入れてから、数分で引き返して来た。
ユウキが戻ると、ステラは腹部を刺されながらも、師レグルスを倒された怒りが爆発し、修羅化していた。
緑の瞳は、赤く変わり、その形相は鬼となって、パワーは倍加された。
ベガの三本目の剣は、彼が、三本の腕を持つサイボーグだったからである。
ステラは、スーパー羽衣を起動させると、一撃でベガの二本の腕を切り落としてしまった。尚も止めを刺そうとするステラをユウキが止めた。
ユウキは、スーパー羽衣の攻撃に晒されながらも、力尽くでその中に入りステラを抱きすくめた。
「ステラ、もういい。怒りを納めてくれ、レグルスは大丈夫だ」
ステラは暫く暴れていたが、大人しくなると、ユウキの腕の中で意識を失った。
「コスモ、此処で蘇生カプセルを作れないか?」
『任せて下さい』
現れたルナは、手から光線を出して、基地の一室に二台の蘇生カプセルを見る間に具現化させた。ユウキは、ステラとベガを、そのカプセルに入れた。
「何故、ベガを助けるんだ?」
サルガスが不審げに聞いた。
「憎い敵ではあるが、こいつを味方に出来たらライト軍の大きな力になると思うんだ」
サルガスは納得できない風だったが、何も言わずに部屋を出て行った。
一日遅れて、ライト軍本体が到着し街を制圧した。
どの街でもそうだったが、市民による抵抗は殆ど無かった。ムミョウの悪政で、市民は食うや食わずの生活を強いられて来たからである。
ユウキは、ステラに付きっきりで看病に当たっていたが、二日が過ぎた頃、ステラは目を覚ました。ステラの視界に、カプセルのガラスにタコのように唇を押し付けたユウキが見えた。
「あなた……なの? 笑わせないで、傷に響くわ」
「ごめんごめん、目が覚めたら、特大のキスで迎えようと思っていたもんだから」
「レグルス様はどうなの?」
「うん、一命はとりとめたが、帝都侵攻には間に合わないだろう」
「生きてさえ居てくれたら……」
ステラの眼に涙が溢れた。
「師匠の事より、自分の事だ。完治には一月掛かるらしい、君も今回は留守番だね」
「帝都進攻の日程は決まったの?」
「まだだが、一月は待てないと思う。あまり話しても身体に障る、また来るよ」
最後の決着は、何としても自分が付けたいという、ステラの気持ちは痛いほどユウキには分かっていたが、無理はさせたくなかった。
ステラは二週間ほどでカプセルから出て、リハビリ出来るようになり、ベガも順調に回復し、話が出来るようになった。
「ベガ大佐、殺してくれた方がよかったという顔だな」
ユウキが話しかけると、ベガは視線を外した。
「貴方も、ムミョウのやり方には、矛盾を感じているはずだ。民衆を無視した、今のやり方では、どの道、国は滅んでしまう。この国の民衆の為に、残りの人生を使う気にはなれませんか?」
「私に何をせよと?」
かすれた声で、ベガが初めて口を開いた。
「ムミョウの独裁から解放されただけでは、国は良くならない。貴方は市民からの人望も厚いと聞いている。是非、この国の民を率いてもらいたい!」
ユウキの言葉に力が入った。
「私にそんな力はありません。買い被りすぎです」
「今すぐ返事をくれとは言いません。考えておいて下さい」
ユウキは、看護の者に声をかけ、部屋から外へ出ると、リハビリで散歩しているステラに、偶然出会った。まだ、歩くと傷が痛むのか、時々その顔が曇った。ユウキが、傍に行くと、ステラが笑顔で腕を組んで来て、二人は寄り添って歩いた。
「まだ痛みがあるんだろう。気持ちは分かるが、無理をしちゃだめだよ」
「大丈夫よ、無理はしていないから。それで、ベガの調子はどうなの?」
「順調に回復している。……勝手にベガを助けた事を怒っているんだろうね」
「あなたに考えがあっての事でしょ、信じるわ」
ステラは笑顔のままユウキを見ていた。
「それにしても、修羅化ってすごいね。あれで、この国を護って来たんだね」
「そうね、スーツは心の強さでパワーが増幅するでしょ、怒りは、途轍もない力を引き出してしまうの。その分、肉体やスーツに負担がかかりすぎるのが難点だけど。……でも、修羅化した顔を、あなたに見られたくなかったな」
ステラがユウキの顔色を窺うように言って目を伏せた。
「どんな姿でも、僕はステラが大好きさ。でも少し怖かったかな」
ユウキが笑いながら言うと、
「まあ、ひどい!」
ステラがユウキの頭を、ポンと手で打った。二人は、木陰に腰を下ろすと、互いの顔を見ながら、久しぶりの談笑を楽しんだ。
数日後、ザールラントの前線基地で、帝都進攻への会議が行われた。これには、ライト王国から、ロータス、ストレンジ博士、そして、ステラの姉アトリアが出席していた。
姉のアトリアは、十九歳でアレク将軍と結婚して、三人の子供がいる。ステラより八つ年上の、気品溢れる美人である。負傷したステラを心配しての来訪であった。
冒頭、ロータスが挨拶した。
「諸君の、身命を賭しての侵攻作戦で、ネーロ侵攻作戦は、いよいよ帝都攻略を残すのみとなりました。女王陛下から、全兵士にくれぐれもよろしくとの御伝言を頂きましたので、兵士達に伝えて頂きたいと思います。
今後は、負傷したレグルスに変わり、私が指揮をとらせて頂きます。また、この会議には、ネーロ帝国のベガ大佐も同席してもらっています。今日は、帝都進攻の日程と作戦を決めたいと思う、諸君の忌憚のない意見を聞かせてもらいたい」
サルガスが進行を任され、帝都の守りについての情報を十剣士の一人が伝えた。
「帝都は、中央に王宮があり、その周りに六つの基地が点在しています。問題は、その基地は民家の中にあるという事です。現在、我々の攻撃に備えて、帝都南部に兵士が集結しています」
「このまま戦えば、多くの都民が犠牲となってしまうな……」
サルガスが、腕組みをしながら言うと、両腕を失い、車椅子に乗ったベガが、静に口を開いた。
「わが帝国では、民衆は奴隷のようなものです。帝都は、その民衆を盾にしているのです。基地を攻撃すれば、多くの都民が犠牲になります。何とか犠牲者の少ない方法を考えて頂ければと思います。
もう一つ、ユウキ殿と守護ロボットの脅威は、ムミョウが一番心配していることです。彼は、その対策として核を六つの基地に配備しています。ユウキ殿が、一気に王宮を攻撃すれば、それを使って、この大陸を破壊するかも知れません」
「力には力という事か。これでは、手も足も出せないですね」
サルガスがお手上げのポーズで言った。
その後、何人かの意見が出されたが、これといった良案は無かった。暫くして、ロータスが沈黙を破って口を開いた。
「まずは、核の処理が先決ですから、特殊チームを六つの基地に送り込み、核の起爆装置を破壊します。それも、同時刻に一斉に処理する必要があります。
敵の真っ只中での活動は至難の業ですが、やるしかありません。そして、核の処理をスムーズに進める為には、敵の目を引き付けるものが必要です。
それは、ステラのスーパー羽衣で地上を進撃する事です。軍も従えず、一切攻撃もしないで王宮へと進撃すれば、群がる敵は、無敵のスーパー羽衣の餌食となり、敵にとっては大きな脅威となるはずです。周りの被害を最小限に留める為には最良の策だと思うがどうだろう。核が無効化された時点でユウキに王宮を襲撃してもらえば決着が着くでしょう。
ストレンジ博士、スーパー羽衣の継続時間はどれくらいですか?」
「そうじゃな。スーパー羽衣はエネルギーの消費が激しい、持って五時間だろう。じゃが、ユウキのパワーは無限のはずだ」
「その通りです。二人で行けばこの作戦は可能ですが……」
ユウキがステラの事を言おうとした時、アトリアが良く通る声で発言した。
「ステラは、まだ回復しきれていません。私がステラの代わりを務めます」
アトリアの提案に、一同は驚いた。ステラは、姉に申し訳なく思ったが「私がやります」と言えるだけの体力が、まだ戻っていなかった。
アトリアは、王女として戦士の訓練も受けていて、ステラの代役には適任かも知れなかった。意を決したようにロータスが立った。
「では、ステラが回復するまで帝都侵攻は、アトリア様にお願いしましょう。スーツの手配と訓練をお願いします。
各基地の核の処理は、サルガスと十剣士にお願いする。帝都侵攻は一週間後とします!」
ネーロ帝国との最終決戦をまじかに控えて、戦えないステラの心中は穏やかではなかった。
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