第20話 ネーロ帝国侵攻

 ユウキがアンドロイドと成って、元気に帰って来てから、ステラと夫婦水入らずの生活が出来るよう、周りの者が取り計らってくれた。

 久しぶりにステラの手料理を味わいながら、ユウキは何やら、しきりに考えていた。

「ねえ、おいしい?」

「うん」

「気のない返事ね」

 ステラの視線を感じたユウキが、箸を動かし始めた。

「ごめんごめん、ちょっと考え事をしていたもんだから」

「ネーロ侵攻の事ね」

「うん、どうしてもその事が頭から離れないんだ。こうして、ゆっくりしている場合じゃないのかもな」

「明日の全体会議で、ネーロ侵攻への方向性が決まらないと、好機を逸してしまうかもしれないわね」

 ネーロ侵攻を検討する全体会議は、アレク将軍が、ユウキが目覚めるのを待って、招集していたのである。

 次の日、ユウキはステラと共に、ライト王国へ出向いた。

 この会議には、軍と議会の主だった者が出席していて、ステラが会場に入り、皆にねぎらいの言葉をかけていると、アレク将軍が入場して来て、挨拶に立った。

「もしも、エイリアンの守護ロボットが現れなかったら、ライト王国は滅ぼされていただろう。ネーロ軍は、事もあろうに禁止されている核爆弾迄使いだした。今後、何をしてくるか分からないのが現状だ。今はエイリアンの守護ロボットの力を恐れて攻撃して来ないのだろう」

 アレクは、そこで言葉を切ってから、声に力を込めて続けた。

「今こそ反転攻勢の好機だ! 準備出来次第、ネーロ帝国への侵攻を開始する!!」

 アレク将軍がネーロ帝国への侵攻命令を発すると、会場にどよめきが起こった。

 終にその時が来たと、小躍りする兵士達。反対に、自己保身しかない議長派の議員達が、反対意見を唱えだすと、ユウキが立ち上がった。

「命の惜しいものは、この場を去れ! そんな奴らはこの戦いの足を引っ張るだけだ!」

 ユウキは、議長派のメンバーを睨みつけたあと、将軍に進言した。

「将軍、私が先陣を切ります。明日、出陣します」

 すると、先陣を希望する者が、次々と立ち上がって決意を述べると、アレク将軍が、それを制した。

「皆、よく言ってくれた。十余年に及ぶこの忌まわしい戦争を、この戦いで終わらそうじゃないか。戦おう!!」

 アレクの叫びに呼応して、兵士達の誓いの声が会場に轟いた。

 最終的に、敵の軍事施設の破壊をユウキが行い、その後にステラ部隊が制圧し、制圧が終わった時点で、王国から随時駐留軍を置いていく作戦で話は纏まった。

 翌日、ユウキは、後方のステラ軍千名が見守る中、黄金のスーツを纏って、単身、ネーロ帝国の南部基地に上陸を開始した。

 出来るだけ犠牲者を出さずに、軍設備や、武器を破壊する事は至難の業と言うしかない。それは、不死身のスーツを纏ったユウキにしか出来ない任務だった。

 彼は、まず、無人の基地施設を破壊する事から始めた。破壊力を押さえたエネルギー弾一発で、どんな施設も吹き飛んだ。

 ステラ軍は、次々と火炎が上がって破壊されてゆく基地を見ながら、ユウキの桁違いの破壊力に驚きを隠せなかった。

「あれでは、一人でネーロ帝国を破壊してしまうのではないですか……」

 レグルスが興奮気味に言った。

 ユウキが基地を破壊しながら進撃すると、数百というネーロ軍の戦闘スーツ部隊が彼の行く手を阻んだが、彼の特大の音波砲が炸裂すると、スーツを破壊されて、逃げ散っていった。

 エイリアンのスーツには、ユウキの前のスーツの機能も全て入っていて、その威力は想像を絶するものだった。

 数時間で、基地は完全に破壊され廃墟となり、スーツを破壊されたネーロ兵士は戦意を失って佇んでいた。

 燃え落ちる基地に、ステラ軍が到着し、捕虜の収容や、駐留軍受け入れの準備に取り掛かった。ユウキは、打ち合わせをしてから、次の目的地へと飛び立って行った。

 このような戦いが繰り返され、約一月後には、ネーロ帝国の要衝ザールラントを望む丘の上にユウキは立っていた。

 ライト王国軍は、この時点で帝国の約半分を制圧していて、ネーロ軍の反撃も熾烈を極めていた。この要衝ザールラント攻防こそ、天下分け目の決戦地となるのである。

 ユウキが、ザールラントを望む高台に立って暫くすると、ネーロ軍の戦闘部隊が押し寄せて来た。

 先頭に居るのはベガ大佐で、この街の指揮官である。そのスーツは黒のボディに銀の蜘蛛の巣の模様があって、胸の中央には黒と黄色の縞模様の蜘蛛が凄んでいた。細身で長身の彼は背中に二本の刀を背負っていた。彼の軍団は、アンドロイドが主力の為、スピードで人間に勝る最強軍団である。

 ユウキは、彼らを薙ぎ倒しながら、予定通り、軍施設へ接近して破壊行動に入ると、半日かけてほぼ壊滅させた。そこへ、ステラ軍が到着した。

 事が簡単すぎて、ユウキが、何か違和感を感じたその時、地響きと共に、大きく地面が盛り上がって、無数の巨人型ロボットが湧き上がって来た。身長は十五メートル、装甲は厚くステラ軍の攻撃を悉く跳ね返した。

 そして、巨人ロボットから放たれた物体が、ステラ軍の兵士に当たると、戦闘スーツに変化して彼らを包んだ。ステラ軍の兵士達は、このスーツに取り付かれると自分を制御出来なくなり、意思に反して味方を攻撃しだしたのである。

 それは、ネーロ軍の新兵器、奴隷化スーツだった。

 ステラ軍は味方を人質にされ、攻撃することが出来ずに逃げるしか無かった。

「ステラ、一旦引こう!」

 ユウキがステラを促して、軍と共に数十キロ後退し、湖の畔に陣を張る頃には軍の勢力は半数になって、残りは人質となっていた。

 簡単な食事を済ますと、十剣士始め主だった者が集まり、対策を練った。

「僕が、あの巨人ロボットの存在に気付いていれば……」

 ユウキが申し訳なさそうに、肩を落とした。

「ユウキが責任を感じる事はありません。敵も必死です。これからも、予想もしない角度から仕掛けて来るでしょう。こちらの次の一手が大事です!」

 レグルスの顔が厳しくなって、皆を見回した。

「問題は、味方の兵士を殺さずに、どうやってあの奴隷化スーツを仕留めるかですね」

 サルガスが思案顔で呟いた。

「そうね、あの厚い装甲の巨人ロボットも手強いわ。ユウキ、何かいい案はない?」

「奴隷化スーツの方は、音波砲を使えば排除できると思う。但し、味方のスーツ迄破壊してしまう可能性があるので、無傷と言う訳にはいかないかも知れない」

「最悪、やむを得ないでしょうね。巨人ロボットの方は、ドラゴン隊形ならパワーもあるし破壊できるんじゃない?」

 ステラが、レグルスの方に視線を向けた。

「そうか、それがありましたね。ユウキが開発してくれたあの隊形なら、兵士の人数倍の力が出せますから、あの巨人の装甲を破壊出来るでしょう。ドラゴン隊形は三百人で行い、あとの二百人はその援護と味方の兵士の救出に回しましょう。ステラ様は両方の状況を見ながら動いて下さい」

 レグルスが話を纏めて、皆はその準備に散っていった。

 夜明け前、ステラ軍が山を越えようとすると、巨人ロボット軍団が待ち受けていて、総攻撃をかけて来た。百体のロボットから、レーザービームが一斉に放たれると、山は炎に包まれた。

「ドラゴン隊形を取れ!」

 レグルスの号令で、三百人の兵士が空中で次々と合体してゆくと、巨大なドラゴンが姿を現した。先頭の頭の部分は十剣士が務めて、金属音のような雄叫びを上げたかと思うと、その口から巨大なエネルギー弾を吐き出し、十数体の巨人ロボットを一撃で破壊した。

 巨人ロボット達は、空を泳ぐドラゴン目掛けて一斉にレーザービームで応戦した。だが、

彼らは一糸乱れぬ動きで、無数のレーザービームをかいくぐり、次々と巨人ロボットを倒していった。

 一方ユウキは、ロボット軍団の上空を越えて街に近づくと、待っていたかのように、奴隷化スーツ部隊がユウキに襲い掛かった。

 ユウキは最初、数人にミニ音波砲を打って、奴隷化スーツを破壊する力の調整をした後、一気に巨大音波砲を発射し、奴隷化スーツを吹き飛ばした。

「戦える者は、共に戦え!」

 ユウキが叫ぶと、奴隷化スーツから解放されたステラ軍の兵士達は、我に返り、次々と戦線に復帰していった。

 巨人ロボットから、再び、無数の奴隷化スーツが放たれたが、ステラのスーパー羽衣の餌食となった。

 ステラ軍のドラゴンは、敵のレーザービームを受けて満身創痍だったが、最後の力を振り絞って、残った巨人ロボットを壊滅させると、兵士達はドラゴン隊形を解き、地上に下り立った。

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