第12話 エイリアンの遺物

 五百年前、南の大陸には二つの国があって、争いが絶えなかった。終には核戦争となって国を滅ぼしてしまったのである。その反省から、核は廃棄されて、平和な星となっていたが、ムミョウの出現で再び戦争が始まったのだ。

 ユウキは、高高度から南の大陸全体を見渡した。山脈以外は緑に覆われているが、そこかしこに巨大なクレーターがあり、それが爆心地だと分かった。ユウキは、数十発の水爆が、一瞬の内に一つの大陸を破壊して、数億の罪無き人々の人生を、この世から消し去った事を思うと、恐怖を覚えずにはいられなかった。そして、人間の愚かさを思った。

 街という街は破壊されて瓦礫の山となり、今はジャングルと化していた。放射能の影響で五百年の間、誰も来る者は無かったようだ。

 彼は、一つのクレーターの中へと降りて行くと、すり鉢状のクレーターの底は、平地より数百メートル低い位置にあった。

 ユウキが、放射能の測定をしてみると、何故か正常値だった。場所を変え、大気、植物、土壌、水なども測定したが、問題無かった。

 更に調査すると、多くの鳥や動物などが生息し、彼らの楽園となっていて、ユウキは、これなら人間も住めると思った。

 ユウキは、博士が話していた動く物とは、これらの動物ではなかったかと思ったが、念のため、撮影された付近まで飛んだ。

 そこは、大陸北部の、海岸沿いに在って、近辺を捜索すると、巨大なタワーのような物体が、崩れた山の中から顔を出していて、苔や草に覆われていた。

 彼は、センサーを使ってタワーを探ってみたが、その建物の中は、何故か透視できなかった。

 彼は、暫くその辺りを捜索して、海を見下ろす岬の先端の大きな岩の上に、ゴロっと仰向けに寝転んで、スーツのマスクを格納して大きく深呼吸をした。

 白い雲が静かに流れてゆくのを眺めながら、ステラとめぐり会った故郷の池の事を、そして、それからの来し方を思い起こしていて、たった一年余りの間に起きた激動の日々が、夢のように蘇った。

 ユウキは、博士が言ったように、この戦争を早く終わらせる為には、ネーロ軍を圧倒する強い武器が必要だと感じていたが、そんなものが簡単に手に入るはずもなかった。

 彼は何を思ったのか、起き上がり謎のタワーの前に来ると、エネルギー弾を数発、その壁に向かって撃ち込んだ。すると、山の土砂が吹き飛んで、金属のような建物の壁が露になった。彼は再びエネルギー弾を、その壁に打ち込んだが傷一つ付けられなかった。

「なんて頑丈な建物なんだ!」

 ユウキは、今度は、最強兵器、音波砲を壁に向かって放とうとした時、不意に扉が開いた。

 ユウキは、恐る恐るタワーの内部に入っていくと、中は真っ暗だったが、ユウキがスーツの照明で歩いていく内、フッと天井の照明が点いた。そこは廊下が交差している場所で、ユウキを誘うように、ある方向に光が点滅していた。彼は、その光を追ってさらに奥へと進んで、エレベーターに乗った。

 エレベーターが高速で降下して止まり、ドアが開いた。廊下を真っすぐ進むと、ある部屋の前で光は消えた。

 ドアが開いてその部屋に入ると、そこには、ユウキと同じ、孔雀の羽の模様が入ったコバルトブルーの戦闘スーツが置かれてあった。

「何故、こんな所に僕と同じスーツがあるんだ!?」

 ユウキはキツネにつままれたような気持ちになって、そのスーツを見つめた。

 彼は、そのスーツの左手の薬指にあるボタンを押して、指輪に変化させると、それを持ってストレンジ博士の研究所に急いだ。

「おう、ユウキか。南の大陸には行って来たのか?」

「今帰ったところです。南の大陸の放射能は消えて、植物が繁茂して動物の天国になっています。あれなら、人間も住めると思うのですが」

「そうか、やはりな。女王陛下に報告しておこう。その内、利用価値も生まれるじゃろう」

「博士、これを見て下さい」

 ユウキは、持って来た指輪を起動させて戦闘スーツに変形させた。

「これはお前のスーツじゃないか。何かあったのか?」

 ユウキは自分のスーツを起動し装着した。同じ戦闘スーツが二体並ぶと博士は目を丸くした。

「どうしたことだ? このスーツは一つしか作っていないぞ」

「これは、南の大陸で見つけました。映像を見せます」

 ユウキが、南の大陸での映像を空間に投影すると、博士は、食い入るような目でその映像を見ていた。

「このタワーは、恐らくエイリアンの宇宙船だ。何万年前か分からんが、彼らがこの星にやって来て、何らかの理由で宇宙船を地中に隠したんだ。五百年前の核の爆発で、その山が崩れ姿を現したのじゃろう」

「エイリアン? では、このスーツはエイリアンが作ったものなんですか?」

「そうかも知れん。たまたま、お前が戦闘服姿で現れた事で、形態をまねたのかも知れん。ユウキ手伝ってくれ、このスーツを調べてみよう。もしかしたら大発見かも知れんぞ!」

 博士の目が宝物でも見るように輝いて、ユウキを急き立てた。

 博士とユウキは、まず、エイリアンのスーツをX線や電波探知機を使って内部を探った。次に、スーツの材質を調べてみた。

「ユウキ、これは、間違いなくこの星には無い物質で出来ている。形態を自在に変化させることが出来るんだろう。今は、お前のスーツに似せているが、本来の姿は分からない」

 博士が、お手上げのジェスチャーをすると、ユウキが何気なく言った。

「実際に、着用してみましょうか?」

「いや、それは危険だ。まだ、何も分かっちゃいないんだ」

 博士が、そう言って目を離した隙に、ユウキは、エイリアンのスーツを指輪に変化させて、自分の指にはめると、エイリアンのスーツはユウキの身体に装着された。

「ユウキ!止めろ!!」

 博士が叫ぶと、ユウキの身体に痛みが走った。「ううっ」ユウキが苦しみだしたので、博士が咄嗟にスーツのスイッチを押して指輪へと戻した。ユウキはその場に倒れ込んで苦しそうに顔を歪めていた。

「大丈夫か!? ユウキ!」

 博士が揺り起こそうとすると、ユウキの身体は真っ赤に火傷したようになっていた。

 病院へ運ばれたユウキは、火傷の手当てを受けて、ミイラの様に包帯だらけになってベッドに寝かされた。

「ユウキ、あれは、恐らくサイボーグスーツだ。危うく、死ぬところだったぞ」

 付き添ってくれた博士が、ほっとしたような顔を見せた。

「あれは、わしが預かっておく。あれを使う時は命を捨てる覚悟が必要だ。この事は、他言無用にしよう」

 ストレンジ博士は、ユウキの手を取って、優しく叩いて帰っていった。

 ユウキは一週間入院して退院したが、火傷のように赤かった手や顔の皮膚は黒くなっていて、軍の人々を驚かせた。

 ユウキは、前線に復帰すると、ネーロ軍との戦いを難なく熟していたが、彼は戦いながら、集中力や運動能力が高くなっている自分の身体の変化に気付いた。 


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