第10話 十年前の話(開戦)
十年前の四月、穏やかに晴れた昼すぎの事だった。突然、ライト王国の北部基地から、ネーロ帝国の大軍が南下して来たとの連絡が入った。
ライト軍は、迎撃態勢を取り、ネーロ軍に領海侵犯を警告したが、何の応答も無かった。
まもなく、ネーロ軍は、北部基地にミサイル攻撃を開始し、その攻撃が止むと戦闘スーツ部隊が基地を取り巻いた。ライト軍は懸命に応戦したが、数時間で北部基地は陥落してしまった。
ライト王国の王宮では、北部基地陥落の報が、ステラの父、シリウス王のもとに届いていた。
「王様! この都にも大軍が迫っているようです。すぐにシェルターへ移動してください!」
「ムミョウめ、白昼堂々と侵略戦争を仕掛けてくるとは、一体何を考えているのか……。 全軍、迎撃態勢をとれ! ネーロ軍の侵攻を許すな!」
シリウス王は、兵士に指示を出すと、傍にいた王妃のアンドロメダに、ステラを連れて地下施設に避難するよう促した。
彼は戦闘スーツを纏い、親衛隊を伴って、軍の司令部へ向かった。
司令部では、アレクやロータスの指揮のもと、迎撃態勢を固め、都民の避難を進めていた。
「敵、戦闘スーツ部隊、約千名、首都北部に降下しました!」
指令センターの大画面に、ネーロ軍の戦闘スーツ部隊が、イナゴの大軍の様に空から降下する様子が映し出されると、司令部内に緊張が走った。
「断じて、首都を守るんだ。アレク、後は頼んだぞ。ロータス、レグルス私に続け!」
シリウスは軍を率いて、首都北部に向かった。
そこでは、ネーロ軍の猛将アルタイルが、両肩に据えられた砲座から、火炎弾を連射して暴れまわり、破壊の限りを尽くしていた。彼は身長二メートル、体重は二百キロを超える巨漢である。
シリウスは、ネーロ軍の前方に降り立つと、両手から数発のエネルギー弾をアルタイルに浴びせた。アルタイルがシールドでそれを防ぐと数歩前へ進んだ。
「シリウス王! ネーロの将アルタイルがお相手致す。いざ!」
アルタイルは、打ち尽くした両肩の砲座を投げ捨てると、右手に、ビームサーベル、左手にビームガンを持ちシリウスに襲い掛かった。
シリウスは、ビームガンをシールドで防ぎながら間合いを詰めて行き、エネルギー弾でアルタイルのビームガンを吹き飛ばした。そして、剣を抜くと一気にアルタイル目掛けて刃の雨を降らせた。王国随一の使い手と言われるシリウスの剣は、アルタイルを圧倒した。
ライト軍が王に続いて敵に猛攻をかけると、さすがのアルタイルも、尻尾を巻いて逃げるしかなかった。
シリウス率いるライト軍は、連戦連勝で首都近辺のネーロ軍を撃退することに成功した。
こうした戦いが数箇月続いたある日、今までにないネーロ帝国の大軍が、首都上空を埋めた。
再び対峙したシリウス王とアルタイルは、一騎打ちで死闘を繰り広げた。エネルギー弾とビーム砲の打ち合いは数時間も続き、互いのスーツがボロボロになるまで戦ったが、勝負はつかなかった。
互いに肩で息をして、体力の限界に近づいていた。その時、卑怯にもネーロ軍の兵士二十人程がステルスモードになって、シリウスに襲い掛かった。
不意を襲われたシリウスは、ビームサーベルで敵を切り払っていたが、手足に組みつかれ、その自由を奪れた瞬間、アルタイルのビーム砲が火を吹いて、組み付いていたネーロ兵諸共シリウスを吹き飛ばした。
更に、容赦ないアルタイルの砲火を浴びて、シリウスは火炎の中に沈んだ。それは、一瞬の出来事だった。
「シリウス王!!」
ロータスはじめライト軍の兵士が、王の名を叫びながら、ネーロ軍を蹴散らしてシリウスを救出すると、後方に下がり円陣を組んで戦闘態勢を取った。
円陣の中では、レグルスがシリウス王を抱き起して、懸命に王の名を呼んでいた。
息も絶え絶えの王は、最後の力を振り絞るように、レグルスの腕を掴んだ。
「レグルスか、……ステラを護ってやってくれ、あれは、お前たちの希望になるだろう。
それから、アンドロメダに、私の後を継ぐよう伝えてくれ。アトリア……孫達の顔をもう一度見たかったな……」
その言葉を最後に、シリウス王は息を引き取った。
「お父様!!」
レグルスが振り返ると、そこには、涙をいっぱい貯めた赤い戦闘スーツ姿のステラが立っていた。
「ステラ様、何故ここに!」
レグルスが驚いて聞いたが、ステラは何も言わず、父の身体に顔をうずめて泣きじゃくった。その泣き声は、悲鳴のようにレグルスには聞こえた。
暫くして、ステラの泣き声が止むと、ステラの戦闘スーツからシュウシュウと煙のようなものが吹き出して来た。
「ステラ様! どうしたのです!?」
シリウスの胸から顔を上げたステラは、目は赤く変色し、髪は逆立ち、形相は鬼と化していて、気遣うレグルスを跳ねのけると、一人、アルタイル目掛けて突進していった。
「ステラ様を護れ!!」
レグルスが、全軍と共にステラの後を追った。
「なんだお前は? まだ子供ではないか」
驚くアルタイルに、ステラの剣が襲った。修羅と化した十五歳の戦士ステラの剣は凄まじい威力があった。アルタイルが反撃に転じ、ビーム砲を打とうとすると、周りのライト軍の兵士が、アルタイルにエネルギー弾の集中砲火を浴びせた。その瞬間、「ウオーッ」野獣の叫びと共にステラの剣が唸り、アルタイルの胸を貫いた。しかし、それより早くレグルスの剣がアルタイルの首を撥ねていた。レグルスは、ステラに出来るだけ人を殺させまいと必死だった。
ステラは、アルタイルの骸を一瞥すると、踝を返し、雲と沸き起こるネーロ軍のど真ん中に斬り込んでいった。
修羅となったステラを、もはや誰も止めることは出来なかった。ステラの横には、ピタリとレグルスとその配下、十剣士が張り付いていて、シリウスの亡骸を宮殿迄届けたロータスも加わり、彼らは、自分の身体を盾としてステラを護り切った。疲れを知らないように、ステラは次の朝まで戦い続け、ネーロ軍が逃げ帰るのを肩で息をしながら見届けて、レグルスの腕の中で気を失った。
十剣士達も、肉体の限界を超えてステラを護り切り、その場にどっと倒れこんだ。
ロータスの話は続いた。
「以来、ステラはこの戦争の先頭に立っている。ライト王国は、連合国家で、女王の権力は、そう大きくない。議会がすべてを仕切っていて、その議長がアルデバランという実力者だ。女王も彼の横暴には手を焼いているようだ。だから、軍も、議長の息子、デネブ大佐率いる議長派と、ハダル大佐の率いる女王派に二分されている。軍が一枚岩でない事も、戦いが長引いている要因の一つだ」
ロータスは、そこまで一気に話して、コーヒーを一口啜ると、再び話し始めた。
「次にネーロ帝国だが、王はムミョウという極悪非道の男だ。だが、帝国には善良な国民も多い、だから、空爆などの無差別攻撃は出来ないんだ。彼を倒さない限り平和は訪れないだろう。
それから、この国に来るネーロ軍は、アンドロイドなどの機械化部隊も多い。彼らは機械だから戦闘スーツの性能を極限まで出すことが出来る。今は、こちらの戦闘スーツの性能が優れているから戦えるが、何時か新型が現れたら私達の手には負えないかもしれん。ともかく、この戦いを一日でも早く終わらせる事が、若き、君達戦士の使命だ」
「私に、そんな大役が務まるでしょうか?」
「お前達青年には歴史を動かす力がある。民衆の苦悩を開放する為に全力で臨めば、必ず道は開ける!」
ユウキはロータスから絶大な期待を寄せられて一時は喜んだが、過酷な前途を思うと身震いする思いがした。
ロータスの話は、歴史、文化、思想にも及び、一週間は、あっという間に過ぎて、ユウキは軍の一兵卒となった。
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