第6話 弱くなったステラ
ステラが無事帰った事は、その日の内に国民に知らされた。中でも、兵士達の喜びようは半端なものではなく、士気は一気に上がった。兵士達は、十五歳の頃から、青春も女性としての幸せも投げうって、最前線に立ち続けるステラを護りに護って来たのだ。彼らにとってステラは、我が子であり、姉妹であり、希望だったのである。
ステラは、ライト王国に帰ると、真っ先にストレンジ博士を訪ねた。ユウキを護る戦闘スーツの依頼の為である。
「博士、ご心配をおかけしました。次元移動装置をありがとうございます。只今戻る事が出来ました」
「ステラ、よく戻った、元気で何よりだ。近くへ来て顔を見せてくれ」
ステラが、博士に抱き着くと、彼は「良かった、良かった」とステラの背中を優しく撫でた。
彼はストレンジ。五十台だが頭は白く、度のきつい眼鏡をかけていた。ライト王国の武器開発の責任者で、ステラが父親とも慕う人物である。
「博士、お願いがあるの。次元移動装置を戦闘スーツにつけられないかしら。あと一つ、防御能力の高いスーツを作ってほしいんだけど……」
「お前は人使いが荒いな。向こうで何かあったのか?」
ステラは、地球での出来事を話して、ユウキを戦士にしたい事を伝えた。
「そうか。それで、そのユウキと半年も一緒に暮らして何もなかったのか?」
「彼は、私を愛してくれていますが、私にはこの国を護る使命があります。愛などと言っている時ではありませんから……」
ステラはそう言って目を伏せた。
「なんだ、気になっているのか? ……まあ良かろう、ステラの恩人なら儂も力を貸そう」
「博士、無理を言ってすみません」
ストレンジは、ステラが時折見せる物憂げな表情が気になりながらも、王宮へ帰る彼女を見送った。
このサファイヤ星には、南、北、中央と三つの大陸がある。中央の大陸がステラの国でライト王国。南の大陸は、核戦争の傷跡が未だに残る不毛の大陸で、人は住んでいない。北には、宿敵、ネーロ帝国があった。ライト王国は、この、ネーロ帝国の侵略を受けて、十年越しの戦争が続いているのである。
この世界では、悲惨な核戦争の反省から、大量破壊兵器を封印し、戦闘スーツやアンドロイド等による肉弾戦が、戦争の主力兵器となっていた。
この戦闘スーツは、重力制御で自在に空を飛び、シールドの防御装置、エネルギー弾、ビームサーベルなどの兵器を搭載していて、一体だけでも、戦闘機や戦艦以上の働きをする優れものである。
両国の兵力、科学力は拮抗していて、その事が、戦争を長引かしている要因の一つでもあった。
ステラは、帰任してすぐに北の戦線へ飛んだ。大陸北部の海岸線では、ネーロ軍との小競り合いが続いていた。
例の銀色のタイプのアンドロイド百体が、小さな町に出現したという情報を受けると、ステラは、十剣士を含む百名の体制で急行した。
ステラ達が現地に到着すると、既にあちこちで火災や黒い煙が上がっていて、町の上空には、敵のアンドロイドが飛び回っていた。
彼女が、ビームサーベルを翳し、敵のど真ん中に斬り込んでいくと、レグルスを先頭に十剣士がそれに続いた。
エネルギー弾が飛び交い、ビームサーベルが激突して火花を散らし、敵味方入り乱れての激しい空中戦が始まった。
すると、敵のリーダー格のアンドロイドが、ステラ目掛けて突進し、ビームサーベルで攻撃を仕掛けて来た。ステラは、いつもの様に機敏な動きで、相手の強力なビームサーベルに対応しようとしたが、何故か、身体が思うように動かなかないのである。敵の攻撃を軽くかわしたつもりでも、そのビームサーベルは彼女の戦闘スーツを、際どく掠めていたのだ。「何!?」、ステラは、重い身体を叱咤するように、必死で応戦したが、彼女の剣は虚しく空を斬るばかりだった。
次の瞬間、ステラのサーベルは手から弾かれ、敵のビームサーベルが彼女の戦闘スーツを切り裂いた。
「ステラ様!」
レグルスが、落下してゆくステラを受け止め、後方へと下がると、サルガスがリーダー格のアンドロイドと対峙した。
ステラを傷つけられて、怒りに燃えるサルガスは、エネルギー弾を数発撃ち込み、相手が怯んだところを、怒りの剣の一撃で、敵のアンドロイドを倒してしまった。
闘いは、十剣士などの活躍によって、辛うじて、ネーロ軍のアンドロイド部隊を撃退する事が出来た。
ステラの怪我は、戦闘スーツの防御システムのお陰で軽い熱傷で済んだが、いつもなら負けるはずもない相手に後れを取った、精神的ショックの方が大きかった。
「ステラ様は弱くなられた。半年間のブランクのせいかも知れないが……」
レグルスが顔を曇らせて、病室の外でサルガスと話していた。
「サルガス、明日から戦闘訓練をするわ。付き合ってくれる?」
病室から、ステラの声が聞こえて来て、サルガスは「了解!」と元気に答えた。
次の朝から、ステラはサルガスを相手に特訓を始めた。だが、何度戦っても、ステラの身体の動きは戻らなかった。ステラは、それでも、サルガスに挑んでいったが、焦れば焦るほどに動きは鈍るばかりだった。
「ステラ様、これくらいにしましょう」
サルガスが、剣を引くとステラはガックリと膝をついた。
「何故、力が出ないの!! 何故……」
ステラの目から悔し涙が溢れた。
「ステラ様……」
サルガスは、ステラをどう慰めたらいいのか分からず、彼女の傍に佇んでいた。
彼は、この事をレグルスに報告した。
「あれだけ強かったステラ様なのに、信じられません。暫く戦闘は無理かもしれません」
「そうだな……。一度、アレク将軍の指示を受けてみよう」
アレク将軍は、軍の総司令官で、ステラの姉アトリアの夫でもある。レグルスは、その足でライト王国の防衛本部に将軍を訪ねた。
「将軍、ステラ様の事は聞かれましたか?」
「ああ、格下の相手に後れを取ったそうだね」
「そうなんです。このまま戦線に立つのは難しいかと」
「そうか、あのステラが……。やはり、半年間のブランクのせいか?」
「それだけではないようです。本人はその事に気付いていないようですが、地球で出会ったユウキという青年に恋をしているのではないかと思います。
修羅の世界に生きてきた彼女に、突然、愛する人が出来たのです。愛する人を残して死にたくないという死への恐怖心が、無意識のうちに彼女の動きを鈍らせているのかも知れません。何時かは、乗り越えなければならない試練ではありますが……。姫様が不憫でなりません」
レグルスの眼に涙が光った。
「そうだな、この戦争さえ無かったら、ステラは皇位後継第一位の王女として幸せな人生を送れたはずだ。それが口惜しい。レグルスは、ステラの師匠だったな。……ステラ無しでこの戦いに勝てないだろうか?」
「それは無理です。この国の戦士にとってステラは希望ですから」
「やはりそうか、困ったものだな。だが、戦えないというのはステラの問題だ。彼女が腹を決めるしかない。一度、女王様を交えて、ステラの気持ちを聞いてみよう」
その日の午後、ステラは母アンドロメダに呼ばれて王宮へ戻った。
女王の執務室に入ると、アンドロメダ、アレク将軍、ロータスの三名が厳しい顔で彼女を待っていた。
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