第2話 異世界の女
「まったく、薄情な女だな。故郷へ帰ったのかな?」
ケンジが不満げに言ったが、警察には知らせる事も無く、病院には適当な事を言って誤魔化し、治療費をユウキが払って、二人は病院を後にした。
その後も、二人は彼女の事が気になっていたが、会ってもお互い口には出さなかった。
それから一月が経って、ユウキが、あの謎のステラという女の事を忘れかけていた、その夜の事である。
ユウキが住む一軒家の裏側で不審な物音がした。彼は、懐中電灯を持って裏へ回り、小さな倉庫のある付近を照らしてみたが、怪しい人影は無かった。
念の為、ユウキが倉庫の周りを確認して歩いていると、「ドン!」と何かにぶつかり、尻餅をついた。
彼は驚いて、懐中電灯でその辺りを照らすと、赤い戦闘スーツが突然姿を現した。
ユウキは、「何!?」としか言葉が出せず、もしや自分を殺しに来たのかと身構えたが、彼女はマスクを格納して顔を見せ、じっとユウキを見つめた。
「暫く私をここに置いてくれませんか?」
彼女が、日本語を流暢に喋ったので、ユウキは更に驚いた。
「なんだ、喋れるのか?」
「これは、戦闘スーツの自動翻訳機を使って話しています。それから、このスーツはステルスモードにすると消える事も出来ます。脅かしてごめんなさい」
焼けただれていたはずの戦闘スーツは、修復機能があるのか綺麗に復元されていた。
ユウキは、今一つ要領を得なかったが、危害を加える様子も無いようなので、ともかく話を聞こうと、彼女を家に上げて居間のソファーに座らせた。
「今まで何処に居たの? お腹はすいていないの?」
「敵のロボットの残骸を処分をしてから、この世界を、観察していたんです。科学力や人口、生活ぶりなど、ある程度の情報が無いと、この世界で生きて行けませんから。星の形態は故郷のサファイヤ星に似ていますから、違和感はありません。食事は、魚を取ったり、山の果物などを食べていました。戦闘スーツを使えば大概の事は簡単に出来ますから」
「そうなんだ。それで、何故僕の所に来たの?」
「お世話になっておいて、何も言わずに姿を消して申し訳ありません。この戦闘スーツでは、自分達の世界に帰る事は出来ません。このまま、この世界で一生を終えるかもしれないなら、この世界に溶け込むしかないと判断したからです。私の事を知っているのは、あなたと、お友達の二人だけです。暫く様子を見させてもらいましたが、お独りのようだったので、あなたを選びました」
「確かに僕は独り者だ。話次第で暫く此処に住まわせてもいいが……」
そう言いながら、ユウキは改めて彼女を見つめると、怪我が完治していないからか、少しやつれたように見えた。
「あの池での戦いを見ていたんでしょ?」
彼女が唐突に、話の核心に触れて来た。
「ああ、全て見せてもらった。良かったら君の事を聞かせてくれ、話次第だけど、出来る事は協力するよ」
「私は、サファイヤ星の戦士、ステラ。私達は、ネーロ帝国という国と戦争をしています。この戦争は、彼らの侵略から国を護るためにの戦いです。あの銀色のスーツが敵のアンドロイドで、彼と戦っている途中、大爆発が起こり、何らかの影響で次元を超えて、この世界へ飛ばされてしまったようです」
ユウキには、俄かに信じ難い話だった。彼は、しばらく考え込んでいたが、これも何かの縁かもしれないと思い、意を決したように言った。
「君達の世界と、ここでは違う事も多いと思うけど、とりあえず、ルールを決めよう。一緒に住むとなると、世間の目もある、隠れて暮らす訳にもいかないだろうし、妹では無理があるから、僕の同棲相手として暮らす方が自然だと思うがどうだろう?」
「貴方の同棲相手ですか?」
彼女は、少し驚いたような顔をした。
「君たちの世界でも、男女が恋をして、結婚して子を成して、共に一生を暮らすという人生に違いは無いんだろう?」
「同じです」
「だったら恋人のふりをするだけだ。それならいいだろ? こちらの文化はテレビやネットで学習できるから、少しずつ勉強するといい。でも、家事はしてもらうからね。あと、そのスーツは脱いで、普通の服に着替えよう」
「何もお返しは出来ませんが……」
「掃除、洗濯、料理などをやってもらえれば充分だよ。最後に、そのスーツはこちらの世界では使わないでもらいたいが、いいかな?」
「分かりました、宜しくお願いします」
彼女はそういって、ペコリと頭を下げた。
ユウキは、家中を説明して回って、二階の南側に面した、六畳間を彼女の部屋に決めた。
次の日、ユウキは彼女の為に、服や鏡台、化粧品など身の回りの物を買い揃えた。ユウキが買って来た服を着せると、背の高い彼女はよく似合っていたが、特に嬉しそうにするでもなく愛想は悪かった。
異星人の彼女との生活に踏み切った、その日、ケンジが酒を持って家を訪ねて来た。ケンジは、部屋の中に居るステラを見て驚きの声を上げた。
「ユウキ! どうして、こいつが此処に居るんだ!?」
「うん、やはり彼女は異星人だそうだ。異世界と言った方がいいのかな。帰る方法もないからと、僕を頼って来たので当面二階に住まわせる事にした」
「それにしても、大丈夫なのか? 朝起きたら食べられてたなんて事は無いんだろうね」
「人間を食べる習慣なんてありません! 基本的には地球人と同じですので、そのように扱って下さい」
ステラが少し憤ったようにケンジに言った。
「話せるのか!? 一体、どうなっているんだ?」
「なんでも、戦闘スーツに自動翻訳機が付いているらしい、あの指輪がスーツの変形したものだそうだ」
ユウキが説明すると、ケンジは更に驚いた。
その日から、ステラとの、同棲生活が始まった。女だてらに戦士だというから、家事は出来ないのではないかと、ユウキは半ば期待はしていなかった。ところが、ステラは、考えられないスピードで、それらを吸収すると、一週間で、料理はじめ家事全般が出来るようになった。今まで、スーパーの惣菜物ばかり食べていたユウキは、いいお手伝いさんが出来たと喜んだ。
そんなユウキとステラを見ていたケンジも、段々慣れて来たのか、彼女と話をするようになっていて、彼女は俺のタイプだ等と言い出していた。
池が破壊された事件は、まだ、捜査中だと新聞に書いてあった。いつの間にか外国女性と同棲を始めたユウキの事が近所で噂になり、警察が訪ねて来はしないかと、ユウキは気が気ではなかった。
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