第5話
「!」
凛香は髪の毛から水が滴り落ちていることに気がついた。
「凛香ぁ〜凛ちゃん〜?大丈夫?」
上からにゅ〜っと伊達が顔を覗き込んだ。
大きな手には小さく見えてしまう空になった500mlのペットボトルを持っていた。
「パ…パ?」
「ミネラルウォーターを持っててよかったよおー。怪我はない?フーミン、もう心配で心配で。凛ちゃんが
「水!?」
そう言われてみれば髪の毛、洋服と水浸しだ。
手に持っていたブラックミラーはアスファルトの上に落ちていた。
その周りには小さな水溜りができていた。
「まーくんはっ?」
「大丈夫だよ。ほら、」
伊達が指差した先にある部屋に明かりが灯った。
「僕たちがいるこの場所には認識阻害の魔法をかけておいたから、凛ちゃんもフーミンもまーくんには見えないから安心して」
「ニンシキソガイ?」
「見ていても見えないってことさ。ちょっとした意識のズレを生むように仕掛けてあるのさ」
明かりがついた部屋の窓が開いた。
正紀がカーテンを開けて外を見回していた。
夢から醒め、凛香を探しているのだ。
汗だくになったパジャマを着た正紀の顔には煤で汚れた跡もやけども何もなかった。
「まーくん、よかった…」
「それはそうと、凛ちゃん、左手に何持ってるの?紙がくの字に曲がっちゃうくらい握りしめちゃってーw」
「え?」
「今度は小石の代わりにそれを現出させて持ってきちゃったわけねーーー」
「えー!?」
あまりに声の大きさに伊達は両耳を塞いだ。
「あれって…夢じゃないの?」
「夢だよ。多分。でも夢だからといって現実ではないって保証もないよね?」
「だって…あれは…」
『夢じゃないの』という言葉を飲み込んだ。
伊達は首にかけていたデンじゃらす学園はひはひフーフーの公式グッズのフェイスタオルをふわっと凛香の肩にかけてやった。
そして大きな手で彼女の頭を愛おしそうにぽんぽんと撫でた。
「魔術師はね、重なっているけど重ならない世界を視る眼を持つ者なんだよん。世界の狭間を。便宜上、狭間って言ってるけどそれは上にも下にも横にも無限に無数に広がってる世界だよ。フーミンたちのいる世界はその世界のうちのほんの1つ。ここにあるけど、ここにはない世界を渡り歩く者。凛っちゃんが憧れる真壁くんが住む世界はそんな世界さ。そして凛ちゃんが光体で視ようとしていた世界も…ね」
伊達は右手を差し出した。
無意識に凛香は左手に持っていた折本をその手の上に置いた。
「じゃ、その書物はフーミンが責任を持って預かることにして、帰ろうか。いくら明日も学校が臨時休校っていっても午前様じゃね〜。ここで職質されたら、フーミンは変質者認定されて再起不能になるわー」
くしゅん。
凛香は急にくしゃみをした。
どうやら夜の闇のせいで体が冷えてきたようだった。
彼女はタオルを羽織るように顔をうずめた。
気のせいか頬が赤くなっている気がした。
今夜、憧れの真壁さんと同じ世界を見られたのかもしれないと思うと胸がドキドキした。
「あらー。やだ〜、凛ちゃん。顔が赤い?風邪引かれたら困るから、早く帰ろう〜ぉ」
伊達は凛香の肩にそっと手をかけると帰路についた。
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