abrd年d月
日記に書いていた初めの事柄とは違うのだが、君が私の前に初めて現れた時のことを曖昧ながらも書いていこうと思う。
確か小学校の入学式より少し前の時だった。君が斜め前の家に引っ越してきた。気がつけば君の家があったと思うほど急だった。そして引っ越しの挨拶で私たちは初めて顔を合わせた。ここでは「よろしくお願いします。」とか形式ばったことしか話さなかった気がする。私は人見知りだったが、この口数からするにおそらく君もそうなのだろうと思っていた。
君の家は私の家より一回り大きく、君が着ていた服はいかにも高級そうで、しかし派手さはどこにもなく、とても綺麗で、似合っていた。
小学校が始まると早速君とクラスが同じになった。親同士で盛り上がっていたが、私たちは特にこれといった話をしなかった。1ヶ月くらい経ったときだ。君は人柄の良さからいろいろな人に好かれ、クラスでも目立つ存在になっていた。幼稚園からの友達グループで馬鹿騒ぎしていた私はそれに気付き、人見知りではなかったのだなと少し心に靄がかかったような気分になった。
私は学校から比較的遠い場所に住んでおり、下校中家の前の道を歩くときは決まってひとりぼっちだった。しかしどのくらい月が経ったときだろうか、私と君はばったりその道で出くわした。クラス発表のとき「クラス同じだね、よろしくね」と言われ、「うん、よろしく」と応えたときから近所付き合いも特になく、会話は皆無だった。空白の時間の重みで君に話しかけるのは苦しかった。しかしばったり出会ったので一瞬目が合っており、気まずい雰囲気が流れていた。
重い足取りで家の前まで着いたとき、足が急に軽くなったような気がした。私は玄関の前にある段差に躓いてがっしゃーんと派手に転んでしまったのだ。「大丈夫!?」と右後ろから君の声が聞こえ、短い間隔の足音が大きくなってきた。私は痛みと上にのしかかったランドセルの重みからその状態でうまく動けなかったが、「大丈夫、大丈夫」と手で合図を送りながら君に気を遣われることをためらった。しかし君は私が張っていったプライドの壁というものをいとも簡単にくぐり抜けた。私は、「立てそう?」と手を掴まれると小さく頷き、「せーのっ」という君のかけ声のもと立ち上がった。唖然としてしまった。依然、膝は痛んだが、家はすぐそこなので姿勢を立て直しただけで大分助かった。我に返り「ありがとう」と片方の口角を上げて言うと、君は「どういたしまして」と丁寧に頭を下げて上品な笑顔で返事した。君がクラスで好かれる理由が少し分かったような気がした。しかし君が私に背を向けた直後、私の視界から君が消えた。
「わっ」
私が言ったのか、君が言ったのかは覚えていない。君も私がこけた段差に気付かず、バランスを崩しその場に倒れたのだ。「大丈夫!?」と咄嗟に私が手を伸ばすと君はしばらくフリーズしていたが、次第に肩が揺れ始め、ばっと私の顔を見た。忘れはしない、君は見たことの無いようなくしゃくしゃの顔で笑っていた。初めは驚いた私も次第になんだかおかしくなって「ふっ」と笑みを漏らすと、今まで張っていた糸が吹っ切れたように私たちはうははと笑い合った。
「ははっ、だっさ、あははは!」
「あはは、どっちが?」
次の朝、私たちは同じ所に絆創膏を付けて一緒に登校した。
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