第3話 kiss or kill 魔法を使えぬマスターの選択
大きな爆発音と共に森からたくさんの鳥が逃げるように飛び立った、飛び立つ夜空には少し紅の輝きが混ざった夜空になっていた。
それは燃えるシンシルバニアの炎、町中を燃やし尽くすためにミルスファミリーのギルドハウスから飛び出している炎だった。
少しずつ港の方へ炎が広がっていく、そんな中多くのギルド員が街とギルドを守るため、炎の鎮火を試みていた。
そんな中、ギルド員の一人、青く短い髪をした男性、ブルーノ・スカイヒルという名前の男性、年は20歳そこそこだろうか、スーツを来てサングラスをかけている彼は火に向かって自身の魔法~冷青の花~(コールドブルーフラワー)を使ってなんとか街を焼こうとする死の炎を止めようとしていた。
彼の魔法、~冷青の花~(コールドブルーフラワー)~は彼の手からバラの花の様な氷の結晶を無数に放ち、その花に触れた物は瞬間的に微動だにできぬ氷の雪像と化する...その効果はどんな物にも同じで、炎にも通用していたのだが...
「畜生、炎の範囲が広すぎる...」
炎は山の方、ギルドの方から、横幅広く、波上に押し寄せ街を焼こうとしていた。
そのせいか、彼の魔法では追いつくことの出来ないほどの大きい波で街を覆い隠さんとしていた。
「あきらめるな、もうすぐマスターも帰ってくる...そうすればなんとかなるさ。」
そうブルーノ鼓舞したのはギルドの中で一番の怪力、シュワルザー・フィッツだった。
彼はそのギルド一番の怪力マスターの名にふさわしいみため、両腕の筋肉は固く、熱く、そして足にもまるで、鉄を巻いているのではないかと思える程に厚い筋肉を
持ち合わせていた。
そんな彼が使う魔法、~精神の障壁~(メンタルバリアー)は彼自身を炎も溶かすことのできない鉄に変えることが出来る魔法で、なんとか自身を壁にして炎から街を守っていた。
「にしても、こんな火、いったいどこから出てきやがったんだ...」
街を焼き尽くさんとする死の炎は、ある一人を除いて、誰が気がつくこともなく、急に突然現れギルドハウスを焼き尽くし、そして街への進行を開始したのであった。
そう誰も気がつかなかった炎の出火元を知る者、その人物はギルド次席マスター
ウィルムグル・フィッツジェラルドだった...
話はシュワルザーをはじめとするギルド員が街の防衛体制に入る今から30分前、
そう、ギルドのマスターフィッツマンを追い、ジェラルドがギルドを出た直後に遡る。
キャルシアがキャスタニエからもらったリボンをフィッツマンに奪われ、
少し困惑した表情を浮かべる中、外に張り付いていた黒服達はフィッツマンめがけて一斉に姿を消すように追いかけだした。
「一応、黒服は消えたけれど、まさかマスターが、今度は女の子からリボンを取ってどこかに行くだなんて...うちのマスターは言葉より先に行動してしまうタイプなのよね...本業は物書きなのに言葉より先に行動だなんて...キャルちゃんごめんなさいね。」
ウィルムグルはキャルに向かい手と手をあわせて謝った。
「いえ、それはいいんです。実際フィッツマン様があのリボンを持ち出してくれなかったら、まだ黒服は私を狙って外にいたでしょうから...」
それでもどこか浮かない顔しているキャルの事が心配で、ウィルムグルは少し心配に
なったのか、ギルドの1階にあるキッチン料理でも作りキャルに食べてもらおうと、部屋を出かけたそのときだった。
キャルシアが頭を抱えて急に苦しみ始めた。
「頭が...思い...痛い、声が聞こえる....」
その声は初めて聞いた声ではなかった...
時々聞こえる謎の声、いつも眠って夢を見ているとき、自身を呼んでいるように
問いかけてくる。
その声はまるで世界を恨むようにそしてキャルのことは慰めるように...
いつか自身が世界を恨むようになるのではないか、いつしか、そんな恐怖心を
自身のに宿すようになった。
私は、決して恵まれた人間ではなかったかもしれない、実は親の顔やどんな人だったのかを知らない..だから、親というものがどんなものなのかは分からない。
でも、家族はどんな者なのか知っている。
私は小さい頃、母方の祖父に拾われ育てられた。
その祖父がキャスタニエ様、そう私のおじいさま、キャスタニエ・グレイム・ヒルだ。
だからこの日からはただのキャルシアではなくてキャルシア・グレイム・ヒルと名乗るようになった。
自分のファミリーネーム、これがおじいさまから頂いた最初の贈り物だった。
ある日おじいさまは私にある話をしてくれた。
「私たちグレイム・ヒルの一族はね代々ある墓の守人だったんだよ。そしてその守人は私、次は娘であるお前の母親のはずだったが、お前の母は小さい頃お前を残して消えてしまってね...それで今も私がその墓の守人をやっているんだよ。」
「ねえ、おじいさま、その墓は一体どこにあるの?」
子供の頃の私はまだ何も知らなくて、聞いてはいけないことと聞いて良いことの
区別は付かなかった。
きっと普通の大人なら怒るのだろう。
でも、お爺様は怒らずにこう言った。
「キャルや、その場所と正体は刻が来たら分かるよ。
なぜなら、お前がワシの次の守人じゃ。」
そう言って子供の私を優しくなでた。
その手は硬くそして傷だらけだったが、温かかった。
家族の温かさとはこういうものなのだと、私は知った。
それから何年も過ぎて子供だった私も少し大人になった。
おじいさまは私たちの故郷、ビルモスクからリガモスクという
姉妹都市に移り住みギルド始めることになった。
私もそのギルドについていってお爺さまのギルドを手伝いたい...
そう思った。
だが、それは出来なかった。
ビルモスクの町では子供は18歳になったら結婚して
新しい家庭を作らなければならない、そういう町の
変った掟みたいなものがあった。
私に夫ができる?全然想像したことはなかった、けれど
その相手は思った以上に近くにいたのだ。
子供の頃からお爺さまの家に遊びに来て私の面倒を見てくれていた
2歳年上の近所の兄的存在...
スコーザス家の長男、であるウィリアムスと私は結婚することになった。
ウィリアムスは私に優しいし、お爺さまとも仲が良い、そんなウィリアムスは
お爺さまのお弟子さんでもあった。
お爺様は町では気の優しいおじいちゃんだけど、世界で最も有名な魔術師らしい...そのせいか、度々弟子になりたいという魔術師がこの町を訪れたり、
国の偉い人がお爺さまに助けを求めてやって来たりする。
そうだ、この前もお爺さまとウィリアムスが鍛錬している間に一人の男性が弟子になるためにやってきたらしい。
リガモスクに近い町、ミルスファミリーのギルドマスターさんらしいけれど、
3日間でお爺さまに教えることは何もないとか言わせてしまっていたっけ...
どんな方かは会えていないから、分からないけれど、ウィリアムスに聞いたところすごい方だったみたいだ。
そう、話を戻さなきゃね。
私はウィリアムスと結婚する。
それはきっと幸せなことだろう。
ウィリアムスと暮して、たまにリガモスクに行って、お爺さまの手伝いを
して....
ウィリアムスはどうやら、この町にもギルドを作るらしい...
名前をアルブヘイム、すでに多くのギルド員になりたいという申請が
来ているらしい、私はそのギルドの副マスターということ、らしい...
正直不安だけど。
私に魔術の才能も無いし...
魔法を使うと何故か、記憶を失ってしまうのだ。
だから、お爺さまには使うなと言われた。
魔術を教えて、とお爺さまにお願いしたとき、珍しく
お爺さまもかなり怒って「それだけはならん!!」って言っていたっけ...
それでも、ウィリアムスは「君は皆に好かれるし、僕の奥さんなのだから、
頼りない僕をどうか、副マスターとして助けて欲しい」
そう頼まれたら、断れる訳はなかった。
そうやって副マスターになり、そしてウィリアムスと結婚した。
私はこの時点では知らなかった...スコーザス家にまつわる闇と
そして私自身に宿る闇を....
それから1年が過ぎたある日、ウィリアムスの母にスコーザス家の墓がる山奥に呼ばれた。
普段中々話さないお母様だが、急に山奥に呼び出すなんて何の用なのだろうと
少し不思議に思ったが、お母様が言うことだ、とりあえず、その夜に山奥へ向かった。
山奥にある祠、そこにスコーザス家のお墓があるという。
山を登り、やっと祠が見えてきた...夜は霧がかかっている山は昇ると最後、
朝までは戻れないが、どうしても今日でなければいけないらしい。
祠にはいるとその中には一つの石碑があるだけで、お母様はその石碑の前に
立っている。
スコーザス家の女家長、ウィグレル・スコーザス、見た目は年を取らないのだろうか、若い30歳前後にも見える見た目で神はスコーザス家の者であることを
示す紫色の鬱しい長い髪だ。
私が結婚する前に亡くなってしまったウィリアムスのお父様はどうやら婿入り
という形でスコーザス家に来たらしい。
そんなウィリアムスのお父様のお墓の前にお母様は座っていた。
「よく来てくれたわね、キャルちゃん...」
「はい、でもこんな時間に何のご用でしょうか?」
「そうね、しっかり説明したいところではあるけれど、そんな時間はどうやらなさそうなのよね...ウィルちゃん、ごめんね。」
えっ、と驚く間もなく、キャルは床に這いつくばらせられていた..
「動けない...?」
「ごめんね、もしも逃げられたら、とっても困るから...こうさせてもらったわ。」
「どういうことですか、お母様...?」
「スコーザス家にはね、一つの伝統があるのよ、新しいお嫁さんが来たらその子の体に前家長の魂を刻みこむ...ていうルール。
つまり、そうね私の魂、初代家長ルエシエル・スコーザスの魂を永世につないでいくってこと。そう、貴方は私になるの...ここのお墓で儀式をすることによってね。」
そう言うと彼女、ウィルグレルスコーザスの体をしたルエシエルは自身の魂を抜き出すための魔術を唱え始めた。
それは禁術とよばれる種類の魔術...
~永久に響く埋葬歌~(とわにうたうレクイエム)
そう呟くとキャルの体は黒い渦にが発生し、それに吸い込まれ始めると同時に
意識も遠のいた。
「助けて、ウィリアムス...」
「無駄よ、あの子は来ない、此処を知っているのは私だけなのだから..」
そう言い捨てるとウィルグレスの立つ目の前にある祠の扉がガチャンと開いた
「それはどうかな?」
祠から朝日の光が入っくる...眩しい...
祠の扉から現れたのはキャルの最愛の人、ウィリアムスだった。
「お母様、いや、お母様と呼ぶべきではないね、ウィルグレス!ぼくの妻を返してもらおう。」
「あら、ウィリアムス、遅かったわね...でも、もうおそいわ。
もうすぐ、キャルシアの体は私の物になる。この呪いは絶対よ。
解く方法はないわ。」
「それはどうかなウィルグス、私たちスコーザス家をなめてはいけない。
いつからお前が母さんの体を乗っ取っていたかは分からないが、父上はお前の書体を見抜いていたぞ。そしてこれは父の遺言だ。父は私にスコーザスの未来とそしてキャルシアを、これより後のスコーザスを頼んだと、遺書には書いてあった」
隠されていた遺書を見つけるのが遅くなってしまいキャル、君は迷惑をかけたね...すまなかった。」
そう言ったウィリアムスはキャルに近づきキャルにかけられた束縛の魔法を解き、
魂を移し替える魔法~永久に響く埋葬歌~(とわにうたうレクイエム)
を解くための魔法の詠唱を始めた。
「永久に響く埋葬歌、それは闇を裂き光を食らう者、我それを人の道を外す者を
裁かん。~終演を向かう埋葬歌~(おわりにむかうレクイエム)」
呪文を唱え終えると、ウィルグスはうめき声をあげながら、倒れ利用にうなだれ、
そして塵にかえってしまった。
「ウィリアムス、今のは?」
「今のかい?今の魔法は父上が開発したウィルグス専用魔法だ。
永久に響く埋葬歌(とわにうたうレクイエム)を使った者にだけ効く魔法だ。でも、ちょっとしたデメリットがあってね。」
「えっ、デメリットですか...?」
そう問いかけるキャルシアの目の前でウィリアムスは少しずつ自身の体ウィルグスが辿った道と同じように砂になっていた。
彼の命が尽き果てるように、少しずつ体を砂に変えていった。
「そう、これだね...実は僕は魔法を使えた試しはないんだ。奇跡みたいな賭けを使った。その代償がこれさ。でも後悔はしていない、君を守れたんだから。一番大事な人を....」
最後の言葉を言おうと、キャルの手を握ろうとわずかに残っていた手を伸ばした
ウィリアムスだったが、言葉を言い終える前に、砂と化した体は保たず、消え果ててしまった。
「え、えっ?」
泣きたくても、泣けない、キャルシアには力が残されておらず、うめき声を
あげながら、バタッと倒れた。
私のせいだ、私が全て悪いんだ。私が山に登らなければ、ウィリアムスを失わずに。済んだ。
私が悪い...憎い、憎い、憎い、私が憎い...
「本当に君が悪いのかな?悪いのはウィルグスじゃないか?憎むならそうだな、ウィルグスとその傲慢な欲ではないか?呪うなら、その欲望ではないか?」
心のどこかで声がした。
以前から夢で知らない人が話しかけてきた。
「人を呪え、お前を捨てた両親を呪え、人の傲慢を呪え」
そう夢の中で語りかけてきた。
「お前の愛する者を奪う相手を呪え、人類を呪え、全てを呪え」
そう更に語りかけてくる。
「さあ、刻は満ちた。全てを呪え、破壊しろ。お前の欲しい全てを我が物にするのだ....」
そう今は頭の中に何者かが語りかけてくる。
「全てを焼き尽くすのだ。」
「やめて、私に話しかけてこないで!あなたは一体だれなの?」
「私はだれか?そんなのは簡単さ、私はお前だ...」
「私...?私は、私が殺した...?」
「違うさ、私たちは殺してはいない、それはこれからさ、私たちの愛する者奪う
憎き世界を破壊しつくしましょう?」
「いや、いやだ、そんなのは嫌だぁっっっっ!」
倒れ転がった状態でキャルシアは頭を抱えながら苦しそうに震え上がり、
彼女の伏せている床には魔方陣が現れ彼女を緑の光で照らした。
すると、急にどこからともなく祠の壁から炎が湧き出てきて、
祠を焼き付くさんと燃え上がった。
「村が燃える前に間に合ったか...沈静せよ悪魔の炎よ。」
外から聞こえた呪文の声、それはキャスタニエだった。
すると、キャスタニエはひとりで来た訳ではなくもう一人、
男の声がした。
「キャスタニエ殿、間に合いましたね、おそらく彼女の魔法は...」
「ああ、フィッツくん、我が孫の魔法は悪魔化する魔法、~悪魔転生~(デーモンチェンジ)じゃ..
一時的には押さえ込んではいるが、きっとこの後、彼女はこの魔法、魔除けの呪文がなければ、再び同じような事態になり世界を焼き尽くすだろう...ところでじゃが、君の記憶消去の魔法、それは自分にも使えますかな?」
「はて、どうしてですか?」
「うむ...孫が悪魔になれるという事実、これは出来れば知っている人が少ない方が良い、きっとこの力を狙う連中はたくさんいるじゃろうから...すまない、だから孫と君の記憶も少し変えて欲しいのじゃ...」
「構いません、キャスタニエ殿のお願いじゃ、断れませんから...あと、何故私が魔法を使える事をご存じなのですか?」
「秘密じゃ...」
そうほほえんだキャスタニエと少し疲れた顔でキャルシアを、私を背負った二人は私を連れて山を下った。
山にから帰って目が覚めた私は気がつくとお爺さまのギルドがある町、リガモスクにやって来ていた。
その後の事はあっという間だった。
私は副ギルドマスターに任命され、そしてお爺さまと私は孫と祖父ではなく
マスターと副マスターという関係になった。
それからだった、私はお爺さまをキャスタニエ様と呼ぶようになったのは。
全てを思い出した。
何故私はあのときからリガモスクにいたのか、そして何故リガモスクが焼き払われたのか...
失われた一日の記憶がついに戻った...その瞬間だった。
「久しぶりね、私...いや、二日前も少し会ったわね...リガモスクの町を焼いた時以来ね。さあ、あのときの続きを始めましょう、私達を嫌うこの世界を焼き尽くすの。」
「いや、そんなことはしたくない。お爺さまを、キャスタニエ様を救わないと...」
「そうね、あのじいさんを救わないとね...でも、ひどいわね...こんな大事な記憶を封印しただけじゃなくて、貴方本人の魔法についても封印するなんて。」
「ちがうわ、お爺さまは私を守ろうと...」
「そうかしら?お爺さまは貴方を信頼していないから秘密にしていたんじゃなくて?」
「信じてくれてない?私を、信用していない...?」
「スコーザスの秘密を黙っていたウィリアムスだってそうじゃない。何故彼らは貴方に秘密を作ったのかしら?」
「私を信用していないから、私は彼らを心から愛して、こんなにも傷ついたのに...私を愛していない、きっとそうだわ...」
「どうして、私の愛する者はみんな私から離れて行くのだろう...」
憎い...憎い...憎い...憎い....この世界の全てが...憎い....
彼女の内に秘められた憎悪の炎は現実となり、シンシルバニアの街を
焼き尽くした。
その炎は悪魔のように世界から疎まれたことを憎むように
自身の存在を世界に認めさせるように、世界を焼き尽くさんと
シンシルバニアの街で燃え上がるのであった。
switch or light 魔法ギルドのマスターが魔法を使えないなけど何か問題ある? 星崎慶 @hosizakikei44
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