第2話 lie or true part2 魔法が使えないなんて誰が言った?
フィッツマンが魔法を使うように命じた男はドアから入ってきた男、ジェラルドはを縦に振り、手を広げ呪文を唱えた。
人知れず神すら聞けぬ、轟音よ我らの元に鳴り響け ~静満爆音(ピースフルポップ)~
ジェラルドが静かにそう唱えると、部屋全体が床に出現した緑の魔方陣に囲われた。空間は先程とは違って、宇宙空間のように幻想的な光景が広がっていた。
「これは魔法?」
その光景に少し呆気にとられて動揺したキャルシアだったが、フィッツマンが優しくキャルを落ち着かせた。
「大丈夫、これはうちのギルドメンバーの魔法だから。」
「~静満爆音(ピースフルポップ)~、ジェラルドの魔方陣内にいる人の話し声が中にいる人にしか聞こえなくなる魔法...マスター何故このような場面で?」
ウィルムグルが少し訝しそうに訪ねた。
「そうだね、ウィルちゃん、ここで使ったのには訳がある...まず、キャルシアちゃん、君は黒服に追われているね?外に何十人もの黒服がいるのをギルドの門を警備しているギルド員から聞いた...あれは君を追ってかな?」
キャルは少し気まずそうにそして申し訳なさそうに口を開いた。
「はい、フィッツマン様、その通りです、どうやら私もリガモスクの焼失事件の重厚参考人として国に指名手配されているようでして...」
「そうだろうね、キャスタニエ殿の次に彼らが押えなければならない人物、それは彼の副官たる君、そうなるだろう。だからだ、これから話すことは彼らに聞かれてはならない。見張りに盗聴でもされたら困りものだからね...それで、彼の魔法の出番って訳だ。」
「待って、マスターそれじゃ貴方はこうなることを予想して、このキャルちゃんを部屋に連れ帰ったのですか?」
フィッツマンは話を続けようとしたが、そこにウィルムグルが割って入る。
「いやいや、ウィルちゃん、さすがにそこまでは僕も知らなかったさ...ただ、この子があのリガモスクのギルドの副官だって気がついた時からこうなるとは思っていたけれどね。」
「あの...お二方とも、少しいいですか?」
「もちろん、いいよ、可愛い子の話は何だって歓迎さ!それで、キャルちゃん、何かな?」
「あの、フィッツマン様はいつから私がエルブンガルドの者だと分かったのですか?」
「ああ、それね、それはとっても簡単な話しだったよ。」
フィッツマンは誇らしげな顔でキャルの首も元のダイヤモンドネックレスを指さし
た。
「そのネックレス、リガモスクの近くにある山でしかとれないダイヤモンドだよね、リガモスクの特産品、それを付けている女性なんてこの港町はいない..皆海からわたってくるものを付けているからね...」
「マスター、でも、それだけで彼女がエルブンのギルド員である証明にはならないんじゃないですか?」
ウィルムグルが反論した。
「そうだね、ウィルちゃんの言うとおりだ。僕が君はエルブンガルドのギルド員だと確信した理由はもうひとつある。君のかぶっていた帽子、あれにリボンが付いていただろう?あれからね、キャスタニエ殿の魔法の気配を感じた...きっと君を守るためだろう、調べさせてもらったところ、あの帽子には魔除けの魔法がかかっていたよ。」
「つまりマスターは見ず知らずの女の子の帽子から魔法の気配を感じた...それがあの大魔法使いキャスタニエのものだったから彼女がギルドのメンバーだと..?推理は納得しましたが、マスター、女の子の帽子を勝手に調べるなんて変態のやることですよ..後で帰りが遅くなった件と含めて、覚悟しておいてくださいね。」
推理が上手くいき調子に乗りかかったフィッツマンだったが、ウィルムグルの一言で再び戦々恐々とし始め、近くにあった椅子に正座した。
「ウィルちゃん本当に抜かりないよね...そういうとこ...それで、キャルちゃんあっているかな?」
「はい、フィッツマン様の言うとおりでございます。この帽子のリボンにはキャスタニエ様がかけてくださった、魔除けの魔法がかけられています...だから、今も黒服に見つかったり、襲われたり、連行されないのです。」
「とは、言ってもだねぇ、彼らはここに君が居ることを知っていた...きっとキャスタニエ殿から直接帽子の事を聞いて、魔力探知でもしたんだろう...そして、おそらく、その魔法の効力は長くて一日ってところだ、それを過ぎたら、見つからないどころか、簡単に君を探しだしてしまうだろう。そこでだ!今から私がそのリボンを預かって良いかな?」
「えっ、どうしてですか?」
キャルがきょとんとした顔で訪ねる。
「仮に、今僕がこのリボンだけを持ち出すしよう、そうすると、きっとだが、あの黒服達は僕を追いかけるだろう...そうすれば、君を追う黒服は居なくなる。」
「なぜですマスター、彼らが追いかけているのはキャルでは?」
「そう、そこがこの作戦のキーポイントなのだよ。彼が追いかけているのは、たしかにキャルちゃんだ。でも、彼らが追いかけているのはあくまでキャスタニエ殿の魔力だ...つまり、君の帽子のリボン...そいつを追ってあの黒服達...というか黒服本人の分身だね、彼らが追っているわけだ。」
「だから、付ける人を変えて追われる人間を変えるって作戦だ。そういう訳だから。」
そう言い残して、フィッツマンはキャルからリボンを受け取り、そそくさとギルドの外へ飛び出した。
すると外にはすでに300という数だろうか、無数の黒服姿の男性がフィッツマンを取り囲む。
「なるほど、この状況は中々に厳しい、それにキャスタニエの魔法ももう切れかかりじゃないか...こいつは保つか微妙だな。」
そう言いつつも、街とギルドから更に離れた、北部、どちらかというとリガモスクの方向だろう、その方向にある森を目指し、フィッツマンは全力で道を駆け抜けた、スッスッと風を切る音がフィッツマンの耳に木霊する、彼は常人では考えられない速度で街を出て広がる草原を走り抜け、森を目指した。
「さすがにこの速度じゃぁ、追ってこれないだろう」
フィッツマンも後ろを確認しながら、走る。後ろから、黒服が追って来ないのを確認しながら、それでもなお彼はリガモスクの方角にある森を目指して、走った。
世間では魔物や敵国のスパイが潜んでいることからこの森を`帰らずの森`と呼ばれていたりする...そんな森に入った直後だろうか、目の前に不思議な黒い渦のようなもの出現し、その中から、黒服が一体、二体と現れた...
「追ってこないと思えば、こういうことか...」
1体、2体と現れた黒服は再び300体と現れ、森の奥からもう一人、サングラスをかけ、赤色の軍服を着たメガネの男性が現れた、顔は美青年と呼べるであろう、目は少し鋭いが、鼻は高く、目は大きく、瞳の色は赤い頬は適度にやせている...胸には狐の顔のマークをしたエンブレムバッジを身につけた男...そういうバッジを付ける人間にフィッツマンは一人だけ覚えがあった。
「久しぶりだね、ミルスファミリーの`元`副官、キャシリア・グルド...まさか、この事件の首謀者が君だったなんて、考えもしなかったよ...そもそも、まだ生きていたとはね...でも、昔の馴染みとは言え、容赦できない、キャスタニエ殿のお仲間、しかも孫娘を手にかけようとした罪は大きい、分かっているね?」
赤軍服の男、キャシリアはサングラスを外しメガネのレンズに付いていた埃にふっと息をかけて胸ポケットからハンカチを取り出して拭いたあと、メガネをかけ直し、フィッツマンを見下すように嘲笑った。
「昔馴染み...ですか...そうですね、一応私たちは昔馴染みでしたね...とはいっても、そんなには遠い昔の話だ...貴方が私にした事を忘れるつもりはありませんよ、フィッツマン・ハルード・グリナルド...あなたは私を、自身のギルドの副ギルド長であったこの私を殺そうとした....!!」
顔をゆがめて先程の物静かな好青年とはいった雰囲気とは違い、フィッツマンへの怒りを前面にするキャリシアと対峙するフィッツマンだが、彼の方はいつもとは全く変わらない調子で話を続けた。
「僕の方こそ、君のしたことを許す訳にはいかないんだよ、君はギルドをギルドの仲間達を裏切った...その証がその狐の顔のエンブレムバッジじゃないか、グリムスカル同盟の議長さん。」
グリムスカル同盟...この国に仇為し、国の機密情報を敵国に売る、傭兵集団..そのボスがこの男、キャシリア・グルドという男だ。
「はて、そんな傭兵集団がキャスタエ殿に何の用かな?それとも、君が用事のある相手はキャスタニエ殿だけじゃなくて、キャルちゃんもかな...?」
キャシリアは舌打ちをした後少し冷静になったのか、先程のように静かにそして淡々と再び語り始めた。
「本当に、貴方は勘が良い、つくずく疳に障る男だ..でもいいでしょう、その推理は正しい..だから今回は少しヒントをあげましょう。たしかに、我々傭兵団の狙いはキャルシア嬢だ、でも、私たちの雇い主の狙いはキャスタニエ、そしてキャル嬢、そのどちらもです。」
「両方...本当の雇い主は誰だ...?」
「その答えも教えて差し上げましょう、今回は特別です...私たち傭兵を雇ったのは...クロムス・リンド...現魔法議会議長ファルムス・リンドの実の兄で、魔法治安協会のリーダー...」
キャシリアはうっすら笑みをこぼして話を続けた
「そして、彼の望みは....貴方ならもうお分かりでしょう、マスター?」
「黒幕の正体がクロムスなら狙いは一つしかない...あいつの狙いは..」
フィッツマンは険しい顔で答えを言った。
「キャスタニエ殿の扱う太陽魔法の兵器化..」
「ビンゴです、フィッツマン!さて、黒幕の正体も、そして目的も分かったところで貴方にはもう何もできはしない...なぜなら貴方はここで死ぬ...私の新しい魔法によって...」
今まで停止していた、黒服達が再び、うねうねと動きだし、フィッツマンの方へ這い寄ってくる..
「さて、この黒服達を止める手段は貴方は持ち合わせていませんね、はいはい、そうですよねぇ~何せ、貴方の周りには優秀な魔術師がいるが、貴方は魔法は使えない...貴方にはこの魔法を止める手段は一つも無い...さあ、踊り狂いなさい!我が下部達!死狂人形(デスバーサクマペッツ)!」
キャシリアの魔法、死狂人形がスーツのポケットからナイフを取り出し迫ってくる..
300体以上の黒スーツの男達がフィッツマンに迫ってくる中、フィッツマンは余裕のそぶりで話し出した。
「覚悟するのは君の方だ、キャシー!僕がいつ、魔法に対抗できる手段を持ち合わせていないなんて言った?君は、こう思ったはずだ、フィッツマンは自身は魔法を使えない、貧弱なギルドマスターだ、一人なら簡単と...さあ、その記憶、本当に正しいかな?」
「フィッツマンは、たしかにキャシリアの前では今まで魔法を使わなかった、いや、使うことができないと確かに言っていた...では何故彼はこんなにも余裕そうなのだ...?あのマスターが無策なわけがない、魔法軍師とまで敵国に言わしめた存在だ...」
キャシリアは考えに考えたが、彼がこんなに余裕そうな理由に検討も付かなかった。
「さっき、きみは色々情報をくれたね、今度は僕からヒントだ...君は僕が君を殺そうとしたと言ったね...?じゃあ、聞こう..?どうやって僕は君を殺そうとしたかな?」
「確かに...どうしてだろうか、何故だ...何故覚えていない...!?」
「そう、それが答えさ、君は私が殺そうとした方法を覚えていない...君をそういう風にしたのは私だがね...あと、確かに私には魔法を使うことができない、だが例外が3つあるんだ。」
フィッツマンは地面に生えていた花をそっと取り出し、そしてそのにおいをかいだ後、楽しそうに再び話始めた。
私、フィッツマン・ハルード・グリナルドが使用できる魔法は実は3つある、そのうち2つを君には使った。一つは記憶改ざん魔法、天国の記憶(ヘブンズメモリー)、そしてもう一つは存在消滅魔法、幻影の罪(ファントムギルティ)..使用相手を絶対に消す魔法だ...それでも何故君は生きているのか...本当に驚きだったよ...君が生きていると分かった時は...だけど、今度は外さない、確実に仕留める...」
フィッツマンの周辺にいくつもの魔方陣が展開した。
その魔方陣の色は、緑、赤色、紫と何色もあり、虹のように美しくも見えたが、観たら最後、生きては帰れない、そんな恐怖も与えるようなどこか狂気にも満ちた景色でもあった。
「悪魔の魂よ、今ここに現界し、罪を裁き、幻想へと帰せ...幻影の罪(ファントムギルティ)..!!」
フィッツマンが呪文を唱え終わると、彼の周囲に現れた魔方陣から無数のレーザーがキャリシアに向かって放たれた。
その光は、相手の罪を消し、幻へと帰す...相手の存在を幻影に帰す必殺の光線だった。
キャリシアは自身の分身を盾になんとか光線をよけるが、フィッツマンの周囲には止めどなく魔方陣が出現し、終いにキャリシアの周辺にも魔方陣は出現した。
キャリシアは咄嗟に魔方陣の前から離れようと両足に全ての力を込めて空中にジャンプし交わそうとしたが、すでにその後ろにもフィッツマンの魔方陣は出現し、光線を放った。
ゼロ距離からの攻撃、その黄金の輝きはキャリシアの腹部に直撃し、キャリシアはそのまま真下に落下し地面にたたきつけられた。
キャリシアは人形のようにぴくりとも動かない...
するとフィッツマンの周辺に無数にいた黒服も再び発生した黒い渦の中に
戻るように吸い込まれた。
「終わったのか...?」
森の中から、ミルスファミリーのメンバー、ジェラルドが現れ呟いた。
「ああ、そうだね、やっと、僕たちの宿命は終りを迎えた..これでキャリシアが僕たちの目の前に現れることはないだろう。」
「それで、マスター、次はクロムスの元に向かうのかい?」
フィッツマンも先程の戦闘に堪えたのか、少し休むために近くの岩に腰を下ろし息をついた。
「そうだね、でもその前にやることがあるんだ。」
「やること、もうクロムスを止めるだけのはずだろ?」
「いや、ある..あるんだよ、それがね。」
フィッツマンがジェラルドに説明しようとした途端、シンシルバニアの街の方からまるで街が消し飛ぶほどの火力のある爆弾が爆発したかのような大きな爆発音が鳴った....
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