第866話 セラフィマの助言
「いってらっしゃい、リーチェ」
「いってきますわ」
ハグして、キスを交わした後、ベアトリーチェは弾むような足取りでギルドに出掛けていきました。
なんだか、お肌艶々で元気に満ち溢れています。
先に唯香とマノンも見送って、僕は家へと戻ります。
うん、何だかヒモっぽいよね。
いやいや、僕だって働く時は働いてますよ。
今日は依頼を受けていないだけですし、正直に言うとちょっと疲れてる感じです。
だって、最近なんだかベアトリーチェが激しいんです……。
元々、ベアトリーチェは耳年増なところがあったんですが、最近は地球のアダルトサイトを閲覧しているようなのです。
最初はマノンが妊娠したから、自分も……と思っているのかと思っていたのですが、それにしても大胆すぎるんですよね。
昨晩も、お風呂場でお互いを洗いっこするところから始まって、湯船の中でも、部屋に戻ってベッドの中でも、さらには寝る前に汗を流しに行ったお風呂場でも……。
なんだか、ガッチリ搾り取られてしまった感じです。
あれだけ激しかったのに、朝になったらケロっとしているというか、エネルギー満タンって感じでした。
まさか、行為の最中に身体強化の魔術でも使っていたんでしょうかね。
「鍛錬が足りないのかなぁ……腰が……」
ちょっとノンビリしようかとリビングに戻ると、日当たりの良いベランダに先客がいました。
「ネ~ロ~、お腹貸してぇ……」
「しょうがないにゃぁ、ご主人様は特別にゃ」
昨晩の寝不足と体力回復のためにネロのお腹に寄りかかると、すかさずマルト、ミルト、ムルトが出て来ました。
今日はミルトを抱えて、マルトとムルトに挟まれて、ちょっと朝寝させてもらいます。
ていうか、お嫁さんが仕事に行くのを見送って、自分は日向ぼっこしながら朝寝って、完全なダメ人間だよなぁ……なんて思いつつも睡魔に負けて眠りに引き込まれました。
目が覚めると、太陽の位置があまり変わっていなかったので、そんなに長い時間眠っていた訳ではなさそうです。
「あれっ、セラ?」
「はい、おじゃましてます」
眠りについた時には隣にマルトがいたのに、いつの間にかセラフィマと入れ替わっていました。
「いつの間に……」
「ぐっすりお休みでしたよ」
そう言いながら、セラフィマは僕の右腕を抱え込み、肩に頬擦りしてきます。
僕の目の前で白いトラ耳がピクピクしていたので、思わずハムっと甘噛みしちゃいました。
「んっ……ケント様、まだ明るいですよ」
「ごめん、つい……」
「仕方ないですねぇ……」
そう言いながら、セラフィマはギュッと僕の腕を抱え込みます。
二の腕にフニっと柔らかな感触が伝わってきて、このままだと体の一部が元気になってしまいそうです。
「そ、そう言えば、最近コンスタンさんとは連絡を取り合ってるの?」
「はい、ヴォルザードの市場で見つけた珍しい野菜とか香辛料、布地なども送っていますよ」
「そうなんだ、知らなかった」
「近頃、ヴォルザードとリーゼンブルグの交易が活発になっていますよね?」
「うん、魔の森が安全に通れるようになってるからね」
「今はバルシャニアまで行くには時間が掛かりますが、遠くない将来は往来が行われるようになるはずですから、その時のための準備を進めておきたいと思っています」
セラフィマやカミラ、ベアトリーチェにも日本語の知識を分け与えたので、セラもネット経由で地球の情報をあれこれ調べているようです。
現状、ヴォルザードからバルシャニアの帝都グリャーエフまで普通の手段で行くには、一ヶ月以上の時間が必要になります。
でも、新幹線や飛行機が使えたら、日帰りだって可能になるでしょう。
そこまで高速でなくても、トラックレベルの速度での移動が可能になれば、今まで以上に交易が盛んになるのは明らかです。
「セラは、ちょくちょく市場調査に出掛けているの?」
「はい、あちこち見て回らせてもらっています」
「いつも、どの辺りを見て回っているの?」
「あまり裏通りまでは入りませんが、そうですねぇ……最近はスコーレセン商会に立ち寄ることが多いですね」
「スコーレセン商会って、確かヴォルザードで二番目か三番目に大きな商会だよね」
「そうです、オーランド商店ばかりが大きくなるのは、ヴォルザードにとっては好ましい状況ではないかと……」
言われてみれば、最近のオーランド商店の発展ぶりには目を見張るものがあります。
ヴォルザードだけでなく、ラストックにも支店を展開していますし、新旧コンビからアイデアを得た商品で売り上げを伸ばしていると聞いています。
「大きな商会が出来ること自体は悪いことではありませんが、競争相手がいないと価格設定や新規参入などで制約が生まれてしまいます」
「ヴォルザード全体の経済成長にとっては、悪影響の方が多くなるんだね」
「その通りです」
てことは、そろそろ僕もレンタサイクル事業に本格参入した方が良いのでしょうか。
「何事もライバルが居た方が良いってことなんだね」
「うーん……」
「セラ、どうかしたの?」
「ライバルという訳ではありませんが、最近ユイカさんが悩んでいるのには気付いてますか?」
「うん、ちょっと思いつめている感じだけど、何が原因なのかは……」
一昨日の晩も、夜の営みが出来なくて落ち込んでいるようでした。
「私も本人に聞いた訳ではありませんが、たぶん赤ちゃんを授かれないことを気にされているのかと……」
「えっ、そうなの? そんなの気にしなくてもいいのに……」
「ケント様、ユイカさんはニホンに戻れるのに、家族の許を離れてヴォルザードに残られてるのですよ。大丈夫だと分かっていても、ケント様ともっと強く結ばれていたいと思ってらっしゃるのではないですか?」
「そうか……そうかも……」
セラフィマの言葉を聞いて、頭をぶん殴られた気がしました。
一緒に暮らしているのが当たり前になってしまって、唯香が抱える不安について鈍感になっていた事に気付かされました。
「僕よりもシッカリしていると思い込んで、唯香の不安に気付いてあげられなかったのか……本当に駄目だな、僕は」
「そんなことありませんよ。ケント様は話を聞いて、ちゃんと改善しようとなさいます」
「でも、僕自身が気付いてあげないと……」
「ケント様、世の中に完璧な人間なんていませんよ。ケント様は素晴らしい才能をお持ちですが、神様ではないのですから気付かないことが有るのも当然です。そこを補うのが私たちの役目です」
セラフィマは、五人のお嫁さんの中では一番幼く見えますが、こういう所は本当に落ち着いていて年上なんだと思い知らされます。
「セラ、僕はどうすればいい?」
「子供が出来なくても、ユイカさんへの気持ちは変わらないと言葉にして伝えて下さい。それに、全然焦る必要なんて無いから大丈夫だと」
「そうだね、ちゃんと言葉にして伝えるよ。ねぇ、セラは不安じゃないの?」
「私ですか? ケント様の子供を授かりたいとは思っていますが、焦ってはいませんよ。ケント様のおかげで、バルシャニアとリーゼンブルグは不可能だと思われた友好関係を築くことが出来ました。もし反目したままならば、ケント様とバルシャニアの結びつきを強固にするために焦っていたかもしれません」
そういう意味では、セラフィマは輿入れした時には国に対する役目を果たし終えていたことになります。
「なので、今はベアトリーチェさんと同じ気持ちです」
「えっ、リーチェと同じって?」
「もう少しの間、恋人気分を楽しんでいたいです」
「セラ……」
そっと目を閉じたセラフィマに、キスせずにはいられませんでした。
勿論、その日の晩もメチャメチャ頑張りましたよ。
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