第863話 我が家の幸せ
フェフナを守備隊の隊舎まで送り届けた後、山賊ブルーオーガ一味のアジトから戦利品を回収し、マールブルグギルドへと持ち込みました。
回収した品物は、剣や盾、鎧などの武具から、小麦粉、干し肉、酒などの食品、精緻な細工の工芸品や布地など多岐に渡っていました。
今回は、一度襲撃を阻止した後、二度目の襲撃までに時間があったので、フレッドが回収品のリストを予め作ってくれていました。
そのリストを基にして、ギルドの担当者と持ち込んだ品物の数量などを確認、全部の査定が終わるのは翌日以降となりました。
「ご苦労だった。詳しい話は夕食を食べながらにしよう」
「はい、ご相伴にあずかります」
報告に出向いたマールブルグ家では、当主のノルベルトさんから夕食に誘われました。
さすがに領主宅とあって、料理人の腕前は申し分が無く、仕事なので一杯飲めないのが少々残念です。
ノルベルトさんとの会食を終えて、ヴォルザードの自宅に戻ったのは夜も更けてからでした。
我が家の夕食もとっくに終わり、美緒ちゃんやフィーデリアはもう眠っています。
今日は朝からバタバタ動き回っていましたし、僕もお風呂に入ってノンビリしましょうかね。
眷属のみんなも一緒に入れる大きなお風呂は、魔道具によって温度、水質が管理されていて、清掃の時間を除けば何時でも入れます。
自慢の大きな湯船に入る前に、洗い場で頭と体を洗います。
シャンプーやボディーソープなどは、日本から取り寄せています。
うちは圧倒的に女性の割合が高いので、どちらもフローラルな香りがします。
コンディショナーは……使わなくてもいいかな。
体の泡を流していると、脱衣所の扉が開く音がしました。
「おかえり、ケント」
「ただいま、マノン。あっ、足元気をつけてね」
「うん、ありがとう」
マノンは守備隊の診療所での仕事を終えて帰宅した後、一度入浴を済ませているそうです。
「奥様、お手をどうぞ……」
掛け湯をしたマノンの手をとって、一緒に湯船に浸かります。
今日はマノン、明日は唯香、その後は、ベアトリーチェ、セラフィマ、カミラと一日交替で夜を共にしています。
僕が外出していない日は、順番はスライドする方式です。
「だいぶ大きくなってきた?」
「ケントは、胸の大きさの方が気になってるんじゃないの」
「とんでもない! そんなことは、ちょっとだけ……」
「ケントのエッチ」
マノンのお腹周りが以前よりもふくよかになっています。
ささやかだった胸の膨らみも、今や立派に主張しています。
「ケント、今夜は……する?」
「無理しなくていいよ。でも、マノンがしたいなら……」
「僕は……」
頬を赤らめながら、コクンと頷くマノンはメチャクチャ可愛いです。
ちょっと前だったら、このままお風呂でいたしてたと思いますが、今は厳禁です。
だって、マノンのお腹には新しい命が宿っているのですから。
「マノンは、いつまで診療所の仕事を続けるの?」
「まだ、三、四ヶ月は続けるつもりだよ」
「えっ、大丈夫なの?」
「大丈夫、大丈夫、僕はツワリも軽かったし、今も体調は何の問題も無いよ」
「それなら良いけど、無理しちゃ駄目だよ」
「うん、辛くなったら休ませてもらう」
マノンは僕の肩に頭を預けて、ギュッと腕を絡めてきました。
うん、二の腕に感じる膨らみが、ふにっ……から、むにゅ……に変わってますね。
出会った頃は、イケメン男子だと思い込んでいたほど大平原でしたが、今は間違えようが無いほど主張しています。
そう言えばマノンが女の子だと気付いたのは、庭師の見習いとして働いた後、オーレンさんの家でお風呂に入った時でした。
まさか当たり前のように一緒にお風呂に入り、子宝を授かる間柄になるとは思ってもいませんでした。
「そろそろ出ようか?」
「うん……」
お風呂からあがり、体を拭いてバスローブを着込み、マノンの部屋へと移動しました。
秋も深まってきて、日が落ちると外は寒いと感じる気温ですが、家の中は魔道具を使って全館空調で温めています。
魔道具を動かすには魔石が必要ですが、影の空間には眷属のみんなが魔の森やリバレー峠で間引いた魔物の魔石が山積みになっているので、光熱費の心配はありません。
マノンの部屋は、カーテンやラグ、寝具などパステルピンクで統一された可愛い内装になっています。
部屋の明かりを小さくして、マノンをベッドに誘いました。
「どうする?」
「後ろから、ぎゅってして」
ベッドの中でのマノンは甘えん坊で、妊娠する前は向かい合って抱き締め合う体位が好みでした。
今はお腹に負担がかかりそうだから、横向きに寝たマノンを僕が後ろから抱き締める形でしています。
「ちょっと待ってね……」
唯香に言われて初めて知ったのですが、精液には妊娠中の女性にとって好ましくない成分が含まれているそうなので、ちゃんとコンドームを装着します。
「いいよ、ケント」
僕が愛撫をしなくても、マノンの準備は整っていました。
「可愛いよ、マノン」
「はぁ、はぁ……ケント、もっと……」
マノンが妊娠する前は、互いの欲望をぶつけ合うように求めあっていましたが、今は息遣いや鼓動を感じつつ、むりをさせないように動いています。
勿論、気持ち良いんだけど、真剣度は段違いです。
「あぁ、ケント!」
「マノン!」
マノンが昇り詰めるのと同時に果てると、快感と共に心地よい疲労感を覚えました。
うん、我ながら良い仕事したんじゃないですか。
暫しの余韻を楽しんだ後、お風呂場に戻って汗を流し、寝巻に着替えてベッドに戻りました。
昼の仕事の疲れも手伝ってか、マノンはすぐに寝息をたて始めましたが、僕の腕をぎゅっと抱え込んで離す気配はありません。
「ふふっ、マノンは可愛いですねぇ……」
マノンの寝顔を見ながらニヤニヤしていると、ベッドの中にモフモフとした感触が現れました。
マルト、ミルト、ムルト、そしてマノンを見守っているフルトもいます。
「フルト、マノンとお腹の子を守ってね」
「わぅ、任せて」
コボルトたちを順番に撫でてやり、モフモフに囲まれながら眠りにつきます。
ノルベルトさんに支援を頼んできましたが、フェフナの今後は不透明です。
それに比べて、我が家はこんなに幸せなのが、ちょっと申し訳ない気がします。
でも、この幸せは僕が頑張って手にしたものだから、誰にも奪わせないし、壊させやしませんよ。
僕の大事な家族は、僕が命に代えても守ります。
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