第862話 山賊退治の後始末
山賊ブルーオーガの実行部隊を捕縛した後、マールブルグ守備隊に連絡を入れてアジトの摘発を行います。
「マルト、ミルト、見張りを制圧して」
「わふぅ、任せて!」
「わぅ、あんなのイチコロだよ」
「殺しちゃ駄目だからね。ラインハルト、見張りを制圧したら予定通りに入り口の周辺を切り開いておいて」
『了解ですぞ』
ブルーオーガのアジトの入り口には、二人の見張りが目を光らせていましたが、影の中から忍び寄ったマルトとミルトには気付きようもありません。
当たり前のようにやってもらってるけど、めちゃくちゃチートだよね。
たぶん、元Sランクのラウさんレベルの人ならば、コボルト隊の影の空間からの攻撃にも対処しそうだけど、山賊程度じゃ無理だよね。
アジトの洞窟には別の出入り口は無いのを確認しているので、マルトたちが睨みを利かせていれば残りの連中が逃げる心配はありません。
アジトをラインハルトたちに任せて、僕はリバレー峠の麓にあるマールブルグ守備隊の隊舎に向かいました。
隊舎から少し離れた場所で影の空間から出て、衛士に声を掛けました。
「おはようございます、ヴォルザード所属の冒険者ケント・コクブです。山賊ブルーオーガを捕縛しましたので、受け取りの準備をお願いします」
「捕まえたのか?」
「はい、ここから一時間ほど登ったところで実行部隊を拘束してます。その他に、アジトも制圧してあります」
「一緒に来てくれ! おーい、ケント・コクブがブルーオーガを捕らえたぞぉ!」
峠の麓にある守備隊の隊舎は、峠越えを控えた旅人たちのための野営地に隣接しているので、これから出発しようとしていた人達からは歓声が上がりました。
「これで安心して峠を登れるぜ」
「さすがは魔物使いだ」
「まぁ、うちは狙われるような物は積んでねぇけどな」
自分たちが高価な品物を運んでいなくても、運が悪ければ巻き込まれる場合はあります。
ブルーオーガの連中は、狙った馬車の人間も、巻き込まれた馬車の人間も基本的に皆殺しにしてきました。
それゆえに、峠越えをする旅人たちからは恐れられていたのです。
守備隊には、次の襲撃の時に捕縛を行うと知らせておいたので、すぐさま部隊が編成されて動き出しました。
「ムルト、守備隊の受け取り部隊が向かっているとフレッドに知らせて」
「わふぅ、かしこまり!」
ムルトを使いに走らせると、守備隊の人が歩み寄ってきました。
「ケント・コクブ殿、アジトの摘発を担当するジャーメインです。よろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくお願いします。アジトは実行部隊が居る場所よりも更に上なので、僕が送還術で送ります」
「自力で登らなくても良いのか?」
「さっさと終わらせてしまいましょう」
「そいつは有難い」
アジトに送還する人員は、ジャーメインを含めて十名、残っているブルーオーガ一味は見張りの二名の他には、宴会の準備をしている二名とフェフナだけだ。
「アジトの前まで送還しますが、地面に描いた線からは絶対に出ないで下さい。それでは、送還!」
送還した守備隊員を追い掛けて影移動すると、アジトの前には縄で縛られた山賊が四人、抵抗を諦めて座り込んでいました。
「ラインハルト、フェフナは?」
『奥の部屋に立て籠もってますぞ』
「了解、ジャーメインさん、囚われている女性が一人いるのですが、一緒に行ってもらえますか?」
「いいですよ」
フェフナがいる奥の部屋まで行く間に、状況をザックリと説明すると、ジャーメインさんは私に任せてもらいたいと申し出た。
単純に性欲処理のために虐待されているのとは違うので、対応を一任することにしました。
フェフナがいる部屋に着くと、ドアが閉ざされていました。
どうやら、中から物を積み上げて開かないようにしているようです。
「マールブルグ守備隊のジャーメインだ。助けに来た、開けたまえ!」
「嘘よ! 助ける気なんて無いくせに!」
「大人しく出て来ないなら、山賊の一味とみなすぞ!」
「出て行ったって、身売りさせられるだけじゃない!」
フェフナの場合、債権者が生きているので、借金が残ったままです。
そのため、助けだされたとして身売り同然でヴォルザードへと行かされてしまうのです。
このアジトで山賊どもの相手をさせられていたようですが、暴力で従わされているというよりも、対価として体を提供しているようにも見えました。
「それでも、山賊の一味とみなされれば死罪だぞ。身売り先の状況までは保証できんが、生きていれば抜け出せる希望はあるんじゃないか?」
「そんなの、無理よ……あんな額……」
何に使ったのか分かりませんが、フェフナは相当な額の借金を抱えているようです。
借金の額が大きければ、当然ですが返済を終えるまでに時間が掛かります。
ヴォルザードの娼館では、一部の売れっ子を除けば若い女性の方が稼ぎが良いようです。
フェフナは既に二十代半ば過ぎ、これから多額の借金を返していくのは大変です。
一度身売りさせられた女性でも、若いうちに借金返済の目途が立てば、別の街に移り住んで家庭を持つことも珍しくはないそうです。
ですが、借金返済の目途が立たずに年齢を重ねていくと、悲惨な老後が待っているとも聞きます。
状況は異なりますが、冒険者殺しの犯人ミゼリーが頭に浮かびました。
フェフナの場合、ブルーオーガの連中に対して積極的に行為を楽しんでいたようにも見えたので、娼館という環境には適応できそうな気がします。
残る問題は借金の額でしょう。
「ジャーメインさん、山賊の被害者には何か支援は行われないのですか?」
「勿論、被害者に対しては一定の支援が行われるのですが、彼女の場合は微妙でして……」
フェフナは一人の女性であると同時に、略奪された商品扱いになってしまうらしい。
商品が紛失したり、破損していた場合には支援の対象となるが、フェフナは健康状態に問題も無さそうだし、支援の対象となるかは微妙だ。
山賊に襲われて、本人や家族が殺されたり、傷つけられた場合にも支援の対象となるが、それは御者や護衛、乗客が対象です。
フェフナが乗客に含まれるか否か、その線引きが微妙なようです。
幸い、フェフナがブルーオーガの連中に対して協力的だったことは報告していません。
なので、僕から一押ししておきましょう。
「ジャーメインさん、山賊に攫われて行為を強制された女性が支援を受けられないようでは、マールブルグが他の領地から侮られてしまいますよ」
「そ、そう言われても……」
「今回は指名依頼なので、ヴォルザードの領主クラウス様にも報告を上げなければなりません。その旨をジャーメインさんからも報告してもらえませんか」
「分かりました。支援が行われるように私からも働きかけます」
この後、ジャーメインさんが支援の話も加えて説得を続け、フェフナは自分でドアを開いて出てきました。
促されて出口へ向かう途中、僕の前を通り掛かったフェフナは、怪訝そうな視線を向けてきた後でジャーメインさんの方へ振り返りました。
「なんで、こんなところにガキがいるの?」
「見た目で判断するなよ、Sランク冒険者のケント・コクブだぞ」
「えっ、Sランク?」
フェフナは目を見開いて驚いた後、急激に表情を険しくしました。
「お前か、お前がブルーオーガを潰したのか!」
「そうですよ。貴方は知らないでしょうが、すでに三十人もの命が奪われています。放置なんか出来ませんよ」
「えっ、三十人……?」
「そうです、貴方には教えていなかったのでしょうが、奴らは人の命を奪い、財産を奪っていたんです。奴らは勿論、奴らに情報を流していた連中も死罪にされるでしょうね」
「そう、なんだ……」
自分にとって安寧な場所を奪われた文句を言おうと思ったのかもしれないけど、少しは現実を見てほしいものです。
折角、被害者として支援も出るように配慮しているのに、そんなにブルーオーガの仲間として処刑されたいのでしょうか。
フェフナをアジトの外へと連れ出し、一味四人と守備隊員五人を守備隊の隊舎入り口まで送還しました。
さて、後はブルーオーガの連中が略奪してきた品物をマールブルグのギルドに持ち込んで、全部査定してもらわないといけませんね。
査定額と同額の報酬が支払われる予定ですので、張り切って持ち込みましょう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます