第812話 ギガースの倒し方
ラインハルト達が討伐したギガースは、魔石を取り除いた後で、闇の盾を通して魔の森の訓練場に送りました。
ギガースの体も素材になるので、後でギルドに持ち込む予定です。
さて、ギガースの間引きも出来ましたし、そろそろヴォルザードに戻ろうかと思っていたら、コボルト隊が知らせに来ました。
「わふぅ、ご主人様、あっちが苦戦してるよ」
「えっ、あっちって、冒険者? ラインハルト、行ってみよう」
街に戻ってみると、ギガースが城壁に取り付いていました。
準備期間もあったはずですが、どうしちゃったんでしょうね。
『ケント様、隷属の魔道具が付いておりませんぞ』
ラインハルトが指摘した通り、隷属のボーラが付いていません。
属性魔法の守りがあるギガースは、ラインハルト達が攻撃してもダメージが通らないほどなので、隷属の魔道具が付いていないと冒険者の攻撃では跳ね返されてしまいます。
今も冒険者が遠巻きにして攻撃していますが、ギガースは蚊がとまったほどにも感じていないようです。
このままだと城壁が壊されるのは時間の問題でしょう。
「隷属の腕輪を送還するから、みんなで足止めして」
『了解ですぞ』
「送還!」
送還術を使って隷属の腕輪をギガースの左腕に嵌め込みました。
『ずおりゃぁぁぁ!』
『しゃーっ!』
ラインハルトの一撃がギガースの右手を切断し、バステンの一撃は左の脛を砕きました。
「ボオァァァァ……」
城壁をよじ登ろうとしていたギガースは、手掛かりを失い、脛を砕かれて、壁の下に転がりました。
「なんだ、あのスケルトンは?」
「どうして攻撃が通るんだ!」
「そんな事より攻撃しろ!」
ラインハルトとバステンは、闇の盾から飛び出して一撃を加えた後、すぐさま影の空間へと戻りました。
キリアの冒険者達は、何が起こったのか理解出来ずに混乱していましたが、ダメージが通ったのをみて一斉に攻撃を始めました。
『ケント様、もう少し大きなダメージを与えても良かったのではありませぬか?』
「そうだけど、あんまりキリアの冒険者の仕事を奪ってしまうのもね……」
まぁ、彼らにしてみれば、全部やってもらった方が楽なんでしょうけど、そこまでやる義理も無いというか、ちょっと悩むんだよねぇ。
とりあえず、足止めもしたし隷属の魔道具を付けて攻撃が通るようにしてあげたので、ここからは彼らに頑張ってもらいましょう。
キリアの冒険者達は、城壁の上からバリスタを打ち下ろしたり、攻撃魔法を撃ち込んでいます。
確かに攻撃が通るようにはなりましたが、ギガースの外皮は元々丈夫なので、致命傷となるほどのダメージにはなっていないようです。
「うーん……属性魔力を封じても、このままだとまた持久戦になりそうだね」
『ワシとバステンが与えた傷からの出血が続いているので、前回よりは早く片が付くのではありませぬか』
ラインハルトの言う通り、切断された右手や左の脛からは、ドクドクと血が溢れています。
人間ならば腕を縛ったり、傷口を圧迫して止血を試みるところでしょうが、ギガースには応急処置をする知恵は無さそうです。
このままキリアの冒険者に攻撃され続けていれば、いずれは出血多量で命を落としそうです。
ただし、例の高い声で鳴かれると厄介です。
冒険者達の攻撃に晒されているギガースは、身を隠そうとしているのか、城壁の下を左手で掘り始めました。
「こいつ、地中に逃げ込もうとしてるのか?」
『ケント様、破城槌を使うようですぞ』
前回ギガースを討伐した時にも、膠着状態を打破するのに役立った破城槌ですが、今回は更に工夫が加えられています。
丸太を削り出しただけだった先端部分に、土属性魔術で作ったと思われる大きな刃が取り付けられています。
これならば、更に体の奥までダメージを与えられそうです。
恐らく選ばれし精鋭なのでしょう、ガチムチのおっさんたちが身体強化の詠唱をした後、ギガースの背中目掛けて全力疾走で突っ込んで行きました。
「うおぉぉぉぉぉ!」
ブシュっと鈍い音を残して、刃は深々とギガースの脇腹に突き刺さりました。
「ブオォォォォ……」
ギガースが振り回した腕を掻い潜り、冒険者達が一斉に退避していきます。
その一方で、別の一団が破城槌を構えて突進していきます。
「ボォォォォォ……」
ギガースが左腕を振り回して、突き刺さった丸太を払い除けると、刃に付けられた返しの部分が肉を抉り、ドブドブと血が溢れてきます。
「一気に仕留めるぞ、次ぃ!」
ギガースが共食いをしている間に準備を整えたのでしょう、次々に破城槌を抱えた男達が突っ込んで行きます。
背中や脇腹を狙って突き入れられた刃は、ギガースの硬い皮や筋肉を突き破り、内臓にまで達しているようです。
どうやら今回は、短期決戦の様相を呈してきたようです。
「喉だ、喉を狙え!」
キリアの冒険者も、ギガースの高い鳴き声の危険性を認識しているのでしょう。
破城槌の部隊に喉を狙うように指示が飛んでいます。
「うらぁぁぁ、くたばれ!」
ギガースの喉を狙って破城槌が突き上げられましたが、切断した右手で払い落とされてしまいました。
「ボオォォォォ……」
それでも切断した傷口に丸太の先端がぶつかり、ギガースは痛みで悲鳴をあげました。
次の一団は、また左の腰の辺りに破城槌を突き入れました。
出血が更に勢いを増し、ギガースの体がグラグラと揺れ始めています。
あと一押しという感じですが、動きを止めたギガースが空を見上げ、大きく息を吸い込みました。
「させるかよ!」
城壁の上を走ってきた冒険者が抱えていた樽をギガースの大きな口を目掛けて放り投げました。
「撃て、撃て、撃てぇ!」
ギガースの口へ吸い込まれていく樽に目掛けて、火矢や火属性魔術の火球が飛んで行き……ズドーンと大きな音を立てて爆発しました。
「ドーンだ、ドーン、ドーン!」
爆剤の樽が爆発すると、影の空間でマルトたちが喜びの声を上げました。
「ゴブゥ……ゴボォ……」
ギガースは口から血の塊を吐き出しながら、ゆっくりと倒れていきました。
「首だ、首に破城槌をお見舞いしてやれ!」
横倒しになり、無防備になっているギガースの後頭部目掛けて、破城槌を抱えた男達が突っ込んで行きます。
「うらぁぁぁぁ、くたばれぇ!」
人間でいうと延髄の辺りに、深々と破城槌の先端が突き刺さり、ギガースはビクンビクンと体を震わせました。
かなり深く刺さっているようにも見えますが、そもそもギガースの首は、どこからどこまでが首なのか分からないほど太く、止めが刺せたか分かりません。
「手を休めるな、ありったけの破城槌を食らわせてやれ!」
「おぉぉぉぉ!」
更に三本の破城槌がギガースの首筋へ突き入れられましたが、最後の一本が刺さった時にはギガースは何の反応もみせませんでした。
『ケント様、どうやら仕留めたようですぞ』
「みたいだね。じゃあ隷属の魔道具は回収しちゃおうか。召喚!」
左腕に嵌めた隷属の魔道具を召喚術を使って回収しましたが、ギガースはピクリとも動きません。
完全に息の根を止められたようですね。
高い鳴き声も上げさせませんでしたし、今度は他のギガースを呼び寄せることも無いでしょう。
「こうしてみると、やっぱり隷属の魔道具を装着出来るかどうかが討伐の鍵になりそうだね」
『ちょっと確認してみましたが、隷属のボーラは引き千切られて落ちていましたぞ』
「ギガースを討伐するには、複数の隷属のボーラを用意して、属性魔術を防いだ状態で一気に討伐するしかなさそうだね」
『そうですな、隷属のボーラを上手く使えれば、人間の手でも討伐は可能でしょうな』
これで三頭のギガースが討伐されたことになりますが、情報を共有できればキリアの人だけでも残りのギガースを討伐出来そうな気がします。
討伐を終えたキリアの人々は、勝利の雄叫びをあげています。
「さて、僕らもヴォルザードに戻ろうか」
『ドノバン殿にギガースの査定をお願いしないといけませんな』
「隷属のボーラを使ったキリアの冒険者の戦いぶりも報告しておこう」
僕の手元には、討伐したギガース一体と、最初のギガースから取り出した魔石があります。
魔石は、時期を見極めて競売にかけるとしましょう。
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