第807話 情報伝達
猫が丸くなったニャンモナイトは可愛いけれど、ギガースが丸くなっても可愛らしさの欠片もありません。
先程まで、ギガースを煽って引き付けていた冒険者達は、仲間の遺体が食われる様子を成す術も無く見守っていました。
感情的になって飛び出していこうとする者もいましたが、周りの者が力ずくで押し留めていました。
不用意に近付くと、ギガースは土属性魔法で地面から土を硬化させた槍を突き出し、周囲の敵を一掃します。
おそらく、冒険者達もそうした情報は入手していて、逃げている時の距離が安全圏なのでしょう。
「おい、行くぞ、ベンナ。こうなっちまったら、もう街を捨ててフェルシアーヌに逃げ込むしかねぇ」
二十代半ばぐらいの赤髪の冒険者が、ギガースの方を向いて道の真ん中に座り込んでいる冒険者に声を掛けました。
「フェルシアーヌが入れてくれると思うか?」
「駄目だって言われたら、門を爆剤で吹き飛ばしてやるさ」
「そうだな、俺達はともかく、街の人達は何とかしてぇよな」
「でなきゃ、レーベンさんが浮かばれねぇよ」
「てか、爆剤三樽でも足が傷ついただけって……どうすりゃ倒せるんだよ
ベンナと呼ばれた冒険者の一言で、その場に居る五人の冒険者達は一様に俯いてしまいました。
「隷属の腕輪を使うんですよ」
「誰だ! お前、どこから現れた」
全員が俯いている間に闇の盾を出して表に出て声を掛けると、赤髪の冒険者は剣の柄を握って身構えました。
「僕はヴォルザードの冒険者で、ケントと申します。闇属性魔術で影の中を通って来ました」
「影移動だと? そんな御伽噺みたいなこと……って、消えた?」
「こんな感じで、自分の影にも潜れるんですよ」
「マジか……」
どうやらキリア民国にも、影移動が出来る魔術士は居ないようで、信じてもらうには実演するしかありませんでした。
「お前、さっき隷属の腕輪を使うって言ったよな、どうやってギガースに嵌めるつもりだ」
赤髪の冒険者が納得したところで、ベンナが食い気味に質問してきました。
「隷属の腕輪と同じ役割を果たす魔道具を使うんです。そうすればギガースの属性魔力による守りと、土属性の攻撃魔術を封じることが出来ます」
「本当か! 頼む、その魔導具を売ってくれ!」
「申し訳ありませんが、前回のギガースの討伐の時に壊れてしまって、ギガースなんて滅多に現れることがないので新たに作らなかったんですよ」
「何だよ、使えねぇな。何しに来たんだよ」
避難している住民のために、命懸けでギガースの討伐に挑んでいる冒険者だから情報を提供しようと思ったのに、随分な言い方じゃないですかね。
「何しにって、偵察ですけど」
「偵察だとぉ?」
「はい、皇帝コンスタンから、バルシャニアに影響が出ないか見て来てくれと頼まれたんで」
「バルシャニアの皇帝だとぉ、手前みたいなガキが皇帝から偵察を頼まれたりする訳ねぇだろう。寝言は寝てから言え」
「はぁぁ……人を外見で判断しない方が良いですよ。僕、皇帝コンスタンの娘婿ですから」
「娘婿だとぉ、手前、ふざけた……」
「待て、ベンナ」
僕に食って掛かってくるベンナの前に、赤髪の冒険者が割って入りました。
「俺は、この先のヨザワスの冒険者クダルだ。あんた、本当にバルシャニア皇帝の娘婿なのか?」
「えぇ、本当ですよ」
「だったら、バルシャニアに助けてくれるように頼んでくれないか?」
「無理でしょう。フェルシアーヌ皇国を横断しないと、ここまで辿り着けないし、そもそも助ける義理が無いでしょう」
「じゃあ、何のために声を掛けてきたんだ」
「だから、魔導具の情報を伝えるためです。僕は魔導具職人ではありませんが、基本的な構造は教えられます。街の職人を総動員すれば、間に合うんじゃないですか?」
ヨザワスという街に魔導具職人がどれぐらい居るか知りませんが、ゼロという事は無いでしょうし、本職でなくても魔導具作りの補助は出来るんじゃないですかね。
「そうか……その魔道具があれば、ギガースを倒せるんだな?」
「さぁ? 魔道具で力を削いだとしても、完全にギガースの動きを止められる訳ではありません。分厚い皮膚を突き破って致命傷を与えないと倒せませんよ」
「大丈夫だ、まだ爆剤は残っている。属性魔力による守りさえ崩してしまえば、今よりも攻撃が通る、それなら倒せるかもしれない。教えてくれ、魔導具はどうやって作れば良いんだ?」
隷属のボーラの基本的な考えについて話すと、クダルは一言一句を聞き逃すまいと耳を傾けていました。
「なるほど、投擲武器にしてギガースに絡み付かせて魔術をじゃまするのか」
「はい、実際に使って効果があるのは確認しています。ただし、魔導具が壊れたり、体から外れたりした時点で効果が切れるので注意してください」
「分かった、貴重な情報をありがとう。バルシャニア皇帝にも感謝を伝えてくれ」
「あぁ、情報を伝えたのは僕の独断なんで、この件にはバルシャニアは無関係です」
「大丈夫なのか、勝手に情報を流して」
「大丈夫ですよ、隷属のボーラはグリフォンを討伐する時に、僕が考案した物ですから」
「グリフォンだと! そういえば、遥か東の国で討伐されたって噂があったが、あんたが討伐したのか」
「とんでもない、グリフォンは一人で倒せるような魔物じゃないですよ。それこそ、ヴォルザード中の守備隊員や冒険者が総出で戦って、やっと倒したんですからね」
今なら当時よりも色んな魔術が使えるようになったけど、それでもグリフォンは簡単な相手ではありません。
「そうか、あんたらも必死に戦ったんだな。俺らも負けていられないぜ」
「上手く討伐できるように祈ってますよ。ただ、そちらの準備が間に合わなかった場合は、僕が倒しちゃうかもしれませんよ」
「正直、そうしてもらった方が助かるし、あいつ以外も倒さないと国が亡ぶからな」
クダルは僕の説明が終わると、何度も礼を言った後。ヨザワスの街を目指して去っていきました。
クダル達を見送って影の空間に戻ると、ラインハルトが待っていました。
『ケント様、隷属のボーラの情報を渡しても良かったのですか?』
「大型の魔物を討伐するのに必要だし、隷属のボーラは大量破壊兵器でもないからね」
『なるほど、確かに情報が伝わったところで、攻撃の補助に使われるう物ですからな』
銃とか大砲の情報を流すのは、戦争や紛争を助長しかませんが、隷属のボーラなら戦争に使われる心配は無いでしょう。
さて、キリアの職人の底力、冒険者の意地を見せてもらいましょうかね。
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