第799話 新しいダンジョン
『ケント様、新しい鉱山への道が完成しましたぞ』
僕がベルロカ関連の作業とプレゼンを行っている間にも、ラインハルトたちの作業は着々と進められていたようです。
「もう完成したの? 早かったね」
『道が完成して終わりではありませぬ。鉱脈として使いものになるか調査を行い、採掘方法を検討しなければなりませぬし、人員の手配も必要ですぞ』
「そうなんだよねぇ……魔物の襲撃によって、鉱山で働いていた人達は皆殺しにされちゃったんだもんね」
レイスとなったアーブル・カルヴァインに取り憑かれたワーウルフによって操られた魔物の大群に襲撃されて、旧カルヴァイン領の集落は全滅してしまいました。
リーゼンブルグ王国騎士団の奮闘によって、集落は奪還され、あとは鉱山に立て籠もっている魔物を掃討するだけのはずが、坑道がダンジョン化してしまいました。
国内で生産される鉄の大部分を担っていた鉱山が使えなくなるのは、リーゼンブルグとしては大きな打撃となってしまいます。
そこで対策として新しい鉱脈を探したのですが、そこまで辿り着くには急峻な山を越えていかねばならず、うちの眷属が道を切り開くことにしたのです。
「ではでは、出来上がった道を見せてもらおうかな」
『御案内いたしますぞ』
ラインハルトの案内で向かったのは、旧カルヴァイン領の鉱山の入口でした。
少し前までは、この先で道は途絶えていたはずですが、今は更に山の上に向かって広い道が伸びています。
「道幅が広いねぇ」
『いずれ鉱石を積んだ馬車が頻繁に通るようになれば、停まる場合もあるでしょうし、この程度の道幅は必要になりますぞ』
「そうか、どの馬車も一定の速度で進んで、止まることなく動き続ける訳じゃないもんね」
『休息や予期せぬ状況で馬車が止まっていても、二台の馬車が余裕をもってすれ違える道幅を確保いたしました』
今後、新しい鉱山から鉱石を積んだ馬車が頻繁に通行するようになれば、車軸が折れたなどのトラブルで馬車が動けなくなる事態などが起こるでしょう。
現代日本に例えるならば、高速道路に故障車が止まったことで渋滞が発生するようなものです。
新しい鉱脈までの道は屋外が馬車四台が横並びで動ける四車線ぶんの幅で、山をくり抜いたトンネル内部も、三車線分は確保されています。
「うん、上り下りの傾斜も緩やかなんだね」
『本番の採掘が行われるようになれば、当然鉱石を積んだ馬車が通るようになります。鉱石の重量を考えれば、上り下りの傾斜は緩い方が良いですからな』
トンネルには換気用の穴も作られていて、内部の空気が籠らないようになっています。
その他には、明かりの魔道具を設置する台まで作ってありました。
ただ、トンネル全体を照らすには、相当な数の魔導具が必要になりそうですし、補充する魔石も大量に必要になりますから、現実的には馬車に灯りを付けて通行するようになるのでしょう。
トンネルを出た先の尾根にそって切り開かれた道も、極力アップダウンが少なくて済むように考えられています。
そして、高い尾根があった場所が切り崩されて、直径六百メートルほどの平地が出来ています。
「ここが休息地になるのかな?」
『そうです。この先は狭い尾根伝いですので、広い場所が確保出来るのは現状この辺りだけですな』
「当分の間は、この程度の広さがあれば十分だろうけど、本格的に採掘が始まったら手狭になるんじゃない?」
『まぁ、その時には上に積み上げるか、下に掘り進むか、両方か……いずれかでしょうな』
土地が狭ければ高層化という考え方は、こちらの世界も同じみたいですね。
休息地の先は狭い尾根伝いですが、当然のように削って、均して、道幅は確保されています。
しかも、転落防止のガードレールまで設置済みです。
「至れり尽せりだね」
『鉱山というものは、とかく事故が付きまとうものですし、大きな事故が起これば作業が止まります。それは鉱石の運搬も同じです』
「そうそう、日本でも工事現場は安全第一だからね」
尾根伝いの道を抜ければ、いよいよ新しい鉱脈と思われる峰に到着です。
ここから先は、リーゼンブルグの調査隊に任せましょう。
「うん、問題無いね。じゃあ、ディートヘルムに知らせて調査を始めてもらおう」
『アルダロスの王城には、既に通知済みですぞ。ただ、我々とは違って移動に時間が掛かりますから、調査が始まるのは早くても五日、通常なら七日から十日後でしょうな』
「あぁ、そうか……僕らを基準にして考えちゃ駄目なんだね」
『その通りです。我々が全部やった方が早いですが、それではリーゼンブルグの人材が育ちませぬ』
「だよね。この鉱山は、リーゼンブルグの将来を支える存在だから、僕らが全てを取り仕切るのではなくて、ディートヘルムが中心になって進めないとね」
というか、鉱山の経営とか面倒そうだよね。
ベルロカの果樹園も作って軌道に乗せなきゃいけないし、こちらまで手を出す気はありません。
「そういえば、元の鉱山のダンジョン化はどうなったのかな?」
『着実にダンジョンになりつつありますな』
「リーゼンブルグ王国騎士団の対応は?」
『浅い階層のマッピング作業を進めております。どうやらヴォルザードとは違う系統のダンジョンのようですな』
「系統が違う……?」
『はい、鉱石ではなく、武具などが現れるようですぞ』
「武具?」
『はい、剣とか槍とか鎧などですな。浅い階層で見つかる物は、大した品物ではありませぬが、深層で見つかる物には特殊効果が付与されていたりします』
「おぉ、ダンジョンっぽいね」
ダンジョンの中で見つかる武具には、魔剣や魔槍などと呼ばれるものがあり、炎とか雷とかの魔法が付与されていたりするそうです。
「炎とか雷が付与されているのは威力が高そうだね」
『魔剣は使用者の魔力を食らって効果を生み出すので、体内の魔力量が少ない者だと戦闘中に魔力切れで倒れてしまい、かえって危険な思いをします』
「そうか、魔剣が魔法を生み出すとしても、そのためのエネルギーは使用者が出さないといけないのか」
『その通りです。それと、ダンジョンで発見される武器の中には呪いがかけられている物もあるそうですぞ』
「うわぁ、呪われた剣とか嫌すぎる……」
『ですが、ケント様ならば光属性魔法で解呪できるでしょう』
「なるほど、解呪すれば良いのか……でも、解呪したら魔剣としての効果が失われたりしないのかな?」
『確かにその可能性はございますな』
呪われた武器は嫌だけど、魔剣はちょっと欲しいですね。
「魔剣が手に入るダンジョンだったら人気が出そうだね」
『さて、それは微妙かもしれませんな』
「どうして?」
『確かに魔剣は高値で取引されますが、武具を生み出すダンジョンでは魔物も武装する場合が多いのです』
「そうか、ダンジョンで手に入るから魔物も武器を使って攻撃してくる……つまり手強いんだね」
そこに武器があり、武器を使って討伐しようとする冒険者がいれば、魔物たちも武装するのが当然の成り行きです。
『それに、現在のリーゼンブルグはランズヘルトは勿論、長年に渡って敵対を続けて来たバルシャニアとも友好関係を築いています』
「あぁ、武器の需要が減ってるんだね」
『となれば、武具の取引価格も戦時に比べれば下がります』
「うん、武具の種類や質にもよるだろうけど、人気が出るかは微妙そうだね」
『ですが、誰も攻略に乗り出さず、ダンジョン内部の魔物が増え続ければ……』
「まさか、溢れ出てくる可能性もあるの?」
『全く無いとは言い切れません』
「うーん……なんだか面倒なダンジョンになりそうな気がするね」
新しい鉱山に新しいダンジョン、もう少し様子を見ておいた方が良さそうです。
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