第791話 冒険者の明暗(中編)

※今回も近藤に弟子入りしたオスカー目線の話になります。


「とりあえず、あのアホな冒険者から引き離すぞ。鷹山は自分の距離で狙ってくれ」


 ジョーさん、カズキさんがロックオーガに接近し、タツヤさんとシューイチさんは少し離れた場所から何か狙っているみたいだ。


「うらぁ、こっちだ、こっち!」

「丸坊主にしてやんぞ!」


 ジョーさんとカズキさんが風属性の魔術で攻撃を仕掛けるが、ロックオーガは体毛が切れて飛んだ程度で殆どダメージを受けていないみたいだ。

 それでも声と攻撃で二人に気付いた二頭のロックオーガは、それまで相手にしていた冒険者から視線を切って振りむいた。


「ウボァァァァ!」


 咆哮を上げたロックオーガに、カズキさんが球を投げ付ける。

 投げ付けた球は、カズキさん達の世界で行われている競技で使われている物から型を取り、その型で土を固めてタツヤさんが魔術で硬化させたもので、超硬球と呼ばれている。


 タツヤさんが硬化の度合いを工夫しているそうで、同じ大きさの石にぶつけると石の方が割れる硬さだそうだ。

 その超硬球を身体強化したカズキさんが投げると、ゴブリンの頭など弾け飛んでしまうほどの威力になる。


「ガッ……」


 カズキさんの投げた超硬球を頭に食らったロックオーガは、グラリと体をよろめかせた。


「効いてるぞ、和樹」

「おぅ、やっぱ脳を揺らすのは効くんだな」


 少し前にジョーさん達が話していたのだが、ロックオーガは刃物が通りにくい皮膚をしているが、体の内部へのダメージならば通るのではないかと予想していた。

 その一つが頭への打撃だ。


 頭から突進してくる魔物や獣は衝撃に強いが、腕力で戦うオーガは頭部への衝撃に弱いのではないかと話していた。

 といっても、カズキさんによる超硬球の投擲の半端じゃない速度と威力だからこそで、僕らぐらいの冒険者が石を投げた程度では何の効果もないのだろう。


 二頭のうちの一頭が超硬球を頭に食らって足を止めたが、もう一頭はジョーさん達を目掛けて突っ込んでくる。


「いくぜ、包み焼き!」


 シューイチさんの掛け声と同時に、突っ込んできたロックオーガの頭が炎で包まれた。

 離れた場所から突然炎が吹き上がったのは、昨日ジョーさんが遠く離れた木の葉を風の刃で切り刻んでいたのと同じ理屈らしい。


 魔素の繋がりを感じ取れれば、手元ではなく離れた場所でも魔術を発動できるらしいのだが、まるでやり方が分からない。

 そして、ジョーさん達でさえも、魔術を発動させる座標や規模を制御するのは難しいそうだ。


 今もシューイチさんは、動き回るロックオーガに向かって右手を突き出し、炎が頭からズレないように制御しているようだ。

 攻撃力の高い火属性の魔術であっても、生半可な攻撃ではロックオーガを倒せない。


 そこでシューイチさんが考えたのは、頭の周りを炎で包み込み、その状態でロックオーガに呼吸をさせて体の内部を焼くという方法だが……。


「ガァァァァ!」


 頭を炎に包まれながらも、術者がシューイチさんだと見破ったロックオーガが突進してきた。


「凹っ!」

「ウバァ……」


 タツヤさんの掛け声と同時に、ロックオーガの左足が付け根まで地面にめり込んだ。

 ロックオーガが足を下ろすタイミングに合わせて、タツヤさんが土属性の魔術で瞬間的に深い穴を開けたのだ。


「閉っ!」


 更にタツヤさんは、穴を狭めてロックオーガの足を拘束した状態で土を硬化させる。

 一度体験させてもらったが、片足を付け根まで埋められてしまうと全く身動きが出来なくなる。


「ガハッ……ガァァァ……ガフッ……」


 ロックオーガも抜け出そうと藻掻いていたが、呼吸する度に焼かれる喉を搔き毟りながら動きを鈍らせていく。


「鷹山、緩めるなよ!」

「分かってる、脳まで黒焦げにしてやる!」


 魔物の生命力は凄まじいので、ジョーさん達は完全に死んだと確認できるまでは決して気を緩めない。

 僕にその慎重さがあれば、ルイーゴを死なせずに済んだのに……。


「達也、こっちも頼む!」

「任せろ、凹っ!」


 ジョーさんとカズキさんが、攻撃魔術と超硬球で牽制していたロックオーガもタツヤさんの魔術で片足を拘束された。

 何とか抜け出そうと藻掻いているロックオーガに、ゆっくりとジョーさんが近付いていく。


 ジョーさんは呼吸を整えながらロックオーガの正面に立つと、静かに声を掛けた。


「おい、今どんな気分だ?」


 動きを止めたロックオーガがジョーさんを見上げる。

 普通なら人間を見下ろしているロックオーガが片足を付け根まで埋められ、ジョーさんに上から目線で見下ろされている。


 見下ろされる屈辱を感じたのか、それとも単純に攻撃の意志を示したのか分からないが、ロックオーガが吠えた瞬間、ジョーさんも腰だめにしていた拳を突き出した。

 

「ガァァァァ……ゴパァ……」


 ジョーさんが突き出した拳を引きながら、後ろに向かって大きく飛ぶと、ロックオーガは大量の血を吐き出して、バッタリ倒れて動かなくなった。

 ロックオーガの口からジョーさんの魔力を通した風を突っ込み、体の内部で幾つもの刃を形成して突き刺し、切り裂いたのだ。


「ジョー、こっちも終わったぞ」

「よし、魔石の取り出しに掛かるか。オスカー、そっちの冒険者の手当てを頼む」

「分かりました」


 ジョーさん達は二人一組になってロックオーガの魔石取り出しを始めた。

 体の内部を破壊する攻撃であっさりと討伐してしまったけれど、魔石は皮膚を切り裂かないと取り出せない。


 ロックオーガは、倒した後も大変なのだ。

 ジョーさん達が魔石の取り出しをやっている間に、僕は倒れている冒険者へ向かった。


 怪我人を放置して魔石の取り出しを行うなんて酷いと思うかもしれないが、魔の森の中では一刻を争うような怪我を負った時点で諦めるしかないのだ。

 ましてや、パーティーではなく単独で行動しているならば、助けてもらえるなどと思ってはいけない。


 冒険者を仕事として生き残りたいならば、入念に準備を整えて行動しろとペデルさんからも口を酸っぱくして言われた。

 だから、ロックオーガに片腕を引き千切られた冒険者は、自業自得としか言いようがない。


 それでも、生きているなら街まで戻る手助けをするのも冒険者の暗黙のルールだ。

 こちらに背中を向けて倒れた冒険者は残った左手で、腕を失った右肩の血止めをしているようなのだが、右足も変な方向に捻じれている。


 そして、近付いていくと倒れた冒険者の服装や容姿に見覚えがあった。


「し、しっかりして下さい!」

「くそっ、血止めのポーションを寄越せ……」

「はいっ」


 急いで血止めのポーションを傷口に振り掛け、出血が弱まったところで軟膏を塗りつけて傷口を覆った。

 右腕を失った冒険者は、ギリクさんだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る