第789話 ダンジョン化

 旧カルヴァイン領の鉱山から新しい鉱山へと続く道は、うちの眷属達がバリバリ建設中で、作業も順調に進んでいるようです。

 一方、元の鉱山に巣くった魔物の討伐ですが、こちらは難航しているようです。


『ケント様、魔物が減ってない……』

「えっ、討伐とか共食いとかで減るんじゃないの?」

『そのはず……でも減らないどころか増えてるかも……』

「どういう事? 他にも出入口があるの?」


 旧カルヴァイン領の鉱山に別の出入口があるという話は聞いていません。

 もしかすると、レイスとなったアーブル・カルヴァインがワーウルフに取り憑いた状態で指示して、新しい出入口を作ったのかと思いましたが、どうも違うようです。


『たぶん、ダンジョン化してる……』

「えぇぇぇ……マジで?」

『マジ……』


 旧カルヴァイン領との連絡が途絶え、大量の魔物によって住民が全滅したと分かった時、鉱山のダンジョン化を疑いました。

 実際には、魔物は北の山脈を越えて旧カルヴァイン領へと入り込み、その後に鉱山を根城にしたと判明しました。


「それが、今更ダンジョン化したの?」

『恐らく間違いないかと……』

「根拠は魔物の数が減らないこと?」

『その他にもある……』


 フレッドの話によると、昨日までは真っ暗だった坑道に、いつの間にかヒカリゴケが生えていたり、それまで居なかった種類の魔物が居たりするそうです。


「確かに、それはちょっと変だね」

『ヒカリゴケは、一日であんなに増えたりしない……』

「あれっ、ちょっと待って……てことは、共食いを始めていたオークが更に強化されちゃったりしてるの?」

『その通り……』

「うわぁ、それは厄介だね」


 坑道内部で共食いが起こって、例えオークが上位種になったとしても、全体の数が減れば討伐は容易になると思っていました。

 ところが現状は、どこからか新たに現れた魔物によって、オークは数を減らすどころか増えているように見えるそうです。


『それと、坑道が階層化しつつある……』

「本格的にダンジョンに姿を変えつつある……ってこと?」

『その通り……』

「ダンジョンって、一体なんなの?」

『魔力の偏在によって生まれる、ある種の生き物……という説が有力……』


 ダンジョンは、洞窟の内部で異常な魔力の偏りによって発生し、ダンジョンそのものが一つの生き物として機能するというのが定説となっているそうです。

 普通では存在しないはずの魔物や薬草、鉱石などが現れるのは、それを目当てにして訪れる人間を獲物としているからだと言われています。


 異世界人の僕からすると、色々と矛盾しているように感じますが、こちらの世界でも本当の所は分からないから、そういう事にしておこうみたいな感じのようです。


「リーゼンブルグ騎士団は、どう対応するのかな?」

『昨日までは討伐を進めていた……でも、今日は様子を見てる……』


 鉱山を復旧させるために魔物の討伐を進めていたリーゼンブルグ王国騎士団も、坑道の異変を感じ取り、一旦様子を見ているそうです。


「ダンジョン化が進むと危険なのかな?」

『階層化が進むと、内部の構造が変わってしまうので、悪くすると出られなくなる……』


 ヒカリゴケが増えて視界が改善するなどの恩恵もあるみたいですが、内部の構造が変わるとそれまで通れていたルートが無くなって、魔物を倒さないと出られないといった状況に陥ったりするそうです。


「確かに、それはもうダンジョンだね」

『あとは、どれだけ恩恵があるか……』


 ヴォルザードのダンジョンのように宝石や貴金属が産出されたり、貴重な薬草が見つかったりすれば、それを目当てに冒険者が集まってきます。

 産出品を買い取る業者や冒険者が集まれば、そのための宿屋や食堂、娼館ができて、それらの従業員や家族を相手にする商店ができる。


 ヴォルザードの街がダンジョンによって発展してきたように、鉱山として機能しなくなっても、ダンジョンとして新しい街の礎になる可能性があります。


「新しい鉱山からの採掘が始まって、新しいダンジョン目当てに冒険者が集まるようになれば、ゴーストタウンになってしまった街並みにも活気が戻るのかな?」

『それは、分からない……ヴォルザードとは条件が違う……』


 ヴォルザードはダンジョンの街でもありますが、東西交易の街道の街でもあります。

 魔の森が楽に通れるようになって、ヴォルザードを訪れる人の数は右肩上がりに増えていると聞いています。


 一方、旧カルヴァイン領はリーゼンブルグ王国の北の端で、ここから更に北へと抜ける街道はありませんので、ヴォルザードとは条件が異なります。


『発展するかは、鉱山次第、ダンジョン次第……』

「なるほど……僕らに出来ることはあるのかな?」

『鉱山は、道を作るだけでも凄く役に立ってる……あとは埋蔵量次第だから、我々にはどうすることも出来ない……』

「だよねぇ、そっちは道が出来上がり次第、ディートヘルムに知らせて調査を進めてもらうよ」


 イチロウから聞いて発見した、新し鉱山として有望な場所は、一般人には近付くことだけでも大変な場所なので、とりあえず先に道を作っています。

 調査や採掘について、採算性を含めて僕は素人なので、そこは本職に任せるしかありません。


「ダンジョンについてはどうだろう?」

『今は安定するまでは無理……』

「安定したら?」

『コボルト隊に宝石が無いか探させるとか……』

「なるほど、実際どの程度もうかるダンジョンなのか示さないと冒険者も来ないか」

『その通り、儲かると分かれば自然に人は集まる……』


 ヴォルザードのダンジョンも、空間の歪みから現れた大蟻によって大きな被害が出ましたが、今ではすっかり元通りになっていると聞きます。

 ギリクの与太話を信じてダンジョンに潜った人間が、どの程度居たのか知りませんが、ダンジョンからは日々宝石が掘り出されているのは事実です。


 ヴォルザードの街で売られている宝石の殆どがダンジョンから産出したものですし、街に暮らす人ならば、そうした事情は当然知っています。

 旧カルヴァイン領のダンジョンからも、安定的に宝石などが産出するようになれば、特に宣伝などしなくても人は集まってくるのでしょう。


「それじゃあ、ダンジョンが安定するのを待って、コボルト隊が試し掘りして宝石が見つかったら、リーゼンブルグの王都アルダロスの商工ギルドにでも持ち込んでみるかな」

『冒険者ギルドにも持ち込んだ方が良いかも……』

「そうだね。噂が広まれば、欲の皮が突っ張った連中がやって来るかな」

『間違いなく、来る……』

「今のうちに、ダンジョンの入り口近くの土地を買い占めて、造成して売り捌こうかな」

『いいアイデア……だけど王家直轄地だから難しいかも……』

「そっか、今は直轄地になってるんだもんね」


 人が集まるなら、土地を買い占めて、転がして利益を得ようなんて発想は、日本人の悪いところでしょうかね。

 でも、道の造成とかやってるんだから、少しぐらいは儲けても罰は当たらないんじゃないかなぁ。


 まぁ、それもこれもダンジョン次第でしょうから、ちょっと様子見ですかね。

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