第784話 ひなたぼっこ
新しい鉱脈の場所をディートヘルムに知らせた翌日、唯香とマノンから外出禁止を言い渡されました。
昼夜を問わず、旧カルヴァイン領に出向いてリーゼンブルグ王国騎士団の戦いを見守っていたのがバレていたようです。
騒動の元凶であったアーブル・カルヴァインも消し去り、ワーウルフは新しい眷属にしたのだから、少しは休みなさいと言われてしまいました。
僕としては、この程度は大丈夫なんですが、何度も倒れた前科がありますから説得力無いんですよねぇ。
という訳で、ネロに寄り掛かって日向ぼっこを楽しんでいます。
マルトを抱え、ミルトとムルトに挟まれて、ネロに寄りかかって空を見上げる。
これぞ完璧なるモフモフフォーメーションです。
季節はすっかり秋になり、空には刷毛ではいたような薄い雲があるものの、日差しは暖かで心地良いです。
「ご主人様は働きすぎにゃ。もっとネロみたいにノンビリするにゃ」
「えー……ネロは昼寝してるんじゃなくて、毎日自宅の警備をしてくれてるんだよね?」
「にゃ! そうにゃ、こう見えてもネロは警備で忙しいにゃ」
いやいや、君は毎日ゴロゴロ、ノンビリ過ごしてるだけだよねぇ。
まぁ、ストームキャットが庭にいるだけで、忍び込もうなんて人間はいなくなるから、結果としては自宅警備員としての務めを果たしてるんだけどね。
僕が寄り掛かっているネロの近くには、レビンとトレノも丸くなって昼寝を楽しんでいます。
ただ、眠っているように見えて、耳がピクっ、ピクって反応しているんですよね。
たぶん、命知らずな部外者が我が家の敷地に無断で入ろうものなら、ネズミを見つけた猫みたいな感じで侵入者を捕まえそうです。
ネロも凄いスピードで空を走り回りますが、レビンとトレノはそれこそ稲妻と雷鳴の速さで移動しますからね。
眷属になる前のレビンとトレノは、フレッドに痛手を負わせるほどの速さでした。
幸いにして我が家に侵入を試みた人はいませんが、もし侵入したら、コボルト隊のオモチャにされる八木よりも楽しい、楽しい思いをすることになるでしょう。
新たに眷属に加わったイチロウ達は、家族のみんなに挨拶をした後、新しく発見した鉱脈までのルートを探りに行ってます。
ワーウルフの脚力ならば、さして苦労せずに通り抜けられる場所でも、人間の足で辿り着くのは困難です。
更には、新しい鉱山として機能させるには、掘り出した鉱石を運び出さなければなりません。
重たい鉱石を積んだ馬車がスムーズに通行できなければ、鉱山としては成り立ちません。
送還術を使えば山奥から砂漠の真ん中に、山を分割して飛ばしちゃうことも出来ますが、僕一人の力でやるべきじゃないでしょう。
鉱山までの道を切り開くのは手伝いますが、その後で鉱山を経営していくのは僕以外の人々が協力してやるべきです。
可能ならば、全ての調査や道作りもリーゼンブルグ王国の人々がやるべきなのでしょうが、時間的にも人材的にも無理がありそうですからね。
そんなことを考えながらウトウトしていたら、ラインハルトに起こされました。
『ケント様、お休みのところ申し訳ございません。新しい鉱山までのルートが決まりました』
「ふぁっ? ルートが出来た?」
『はい、極力最短距離で、極力上り下りが少ないルートを設定いたしました』
「う、うん……そっか、見せてもらおうかな」
『こちらです』
「ふぁっ!」
ラインハルトが広げてみせたルート図は、ほぼほぼ直線で構成されていました。
旧カルヴァイン領から新しい鉱脈まで辿り着く途中には山がありましたし、尾根伝いの道はかなりのアップダウンがあったはずだけど、これで大丈夫なんでしょうか。
『山は貫き、峻厳な尾根は平らに均してやれば良いでしょう』
「そりゃそうかもしれないけど……」
『心配は要りませぬぞ。そもそも、山を掘り、鉱脈を辿るのが鉱山の仕事です。我々でなくとも同様の計画を立てたはずですぞ』
確かに、土属性の魔法が使える人を沢山揃えて工事を行うなら、トンネルを掘ったり斜面を削った方が最短距離で工事を進められます。
ただし、一般の人ではルートを決めるにも険しい山に入り、方角を確認する必要があります。
そしてトンネルを両側から掘る場合には、緻密な測量を行わないと上手く繋がりません。
そもそも今回のケースでは、工事は旧カルヴァイン領側から進めるしかありません。
ですが、僕らなら好きな場所から工事をはじめられますし、トンネルを掘る場合にも互いに相手を目印にして作業をすればズレずに済むそうです。
「仮に、このルートで工事を進めた場合には、どのくらいの期間で開通させられるの?」
『そうですな……何事も起こらなければ二週間と言ったところでしょう』
「二週間……」
『掛かりすぎですかな?』
「いやいや、早すぎだよ」
たぶん、リーゼンブルグの人達が工事をした場合には、年単位の時間が必要になるはずです。
元リーゼンブルグ王国騎士だったラインハルトとしては、一日でも復興が早まるように手を貸したいのでしょう。
「とりあえず、新しい鉱脈までの道は整備しようか。その先の調査や実際の掘削作業についてはリーゼンブルグの人達にまかせよう」
『了解ですぞ。それでは早速工事に取り掛かります』
ラインハルトは話を終えると、弾むような足取りで影に潜っていきました。
あれっ、ちょっと待てよ……ルートは聞いたけど、どんな道を作るかまでは聞いてません。
「うーん……またやり過ぎちゃうんだろうなぁ」
「ご主人様は、色々考えすぎにゃ。休む時は、頭は空っぽにするにゃ」
「だよねぇ……どうせ止めても止まらないし」
ラインハルトが示したルートで道ができれば、旧カルヴァイン領からなら馬車で一日程度で到着できる距離です。
十分に鉱山として採算がとれるでしょう。
「あー……ルートの件はディートヘルムに知らせておかないといけないし、現地の騎士団にも……」
「そんなの誰かがやってくれるにゃ、ご主人様はゆっくり休むにゃ」
ネロの尻尾がフワリと動いて、抱えているマルト達ごと僕に巻き付きました。
そうだね、今日は誰かに任せておいて、僕は休ませてもらいましょう。
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