第781話 因縁の結末
僕らがワーウルフを討伐すると騎士団と打ち合わせた後、まずは現状を確認しようと思い坑道の入口へと移動しました。
魔物達が、どんな罠を作っているのか確かめようと思った矢先、足下からズーンと地響きが聞こえてきました。
「地震? じゃない……いや、地震か?」
地響きに続いて、鉱山がある山全体がグラグラと揺れ、坑道からは朦々と土埃が立ち上ってきました。
『ケント様、坑道が崩れたのではありませんか』
「でも、まだ騎士団は入口にも辿り着いていないよ」
『所詮、魔物では計画通りに物事を進めるのは難しいのでしょうな』
ワーウルフ達が、どんな方法で魔物を操っているのか分かりませんが、坑道を使った生き埋めの罠は上手くいかなかったようです。
本来ならば、騎士団が踏み込んで来た後、落盤事故を起こして騎士を生き埋めにするはずが、先に崩れてしまったみたいです。
濛々と土煙が噴き出して来た後で、埃まみれになったゴブリンやオークなどが坑道から這い出してきましたが、その数はあまり多くありません。
騎士団が討伐する手間は省けましたが、鉱山を再開させるには大きな労力が必要になりそうです。
ついでに言うと、僕らの役目も終わってしまったみたいで、取り逃がしたレイスをどうやって追い掛けようかと考えていたら、偵察に向かったフレッドが戻ってきました。
『ケント様、ワーウルフ共が揉めてる……』
「えっ、生き埋めになってないの?」
『生き埋めは生き埋め……でも全部は潰されてはいない……』
予定外の落盤事故が起こったせいで、ワーウルフも全滅したかと思っていましたが、どうやらあちこちに隙間があって、そこで生き残っているようです。
フレッドの案内で影の空間のを使って移動すると、四畳半ほどの広さの空間で、
四頭ほどのワーウルフが揉めています。
狭い空間に閉じ込められたワーウルフが、鼻面を突き合わせるようにして揉めてる様子は何だかコミカルでもあります。
ただ、僕らの耳にはガウガウ言ってるようにしか聞こえず、話している内容は不明です。
「ラインハルト、あれって意味通じてるのかな?」
『通じているんでしょうな。我らの念話みたいなものなのでしょう』
「なるほど……」
意味は分からないけど揉めていたのは確かなようで、親玉と思われるワーウルフが突然爪を振るって他のワーウルフを斬り裂きました。
「ギャウゥゥゥゥ……」
断末魔の叫びを残して、三頭のワーウルフは折り重なるようにして倒れました。
すると倒れたワーウルフから、体を操っていたレイスが姿を現しました。
「光属性の魔術を使うから、みんな離れてて」
逃がすと面倒な事になりそうなので、光属性の魔術を発動させて浄化を試みます。
「やっぱり駄目か……」
ワーウルフから抜け出してきたレイス達は、自分が何をされているのか分かっていないようで、ポカーンと間の抜けた顔のまま、ボロボロと崩れていきました。
さてと、いよいよ親玉とご対面といきましょうか。
なぜレイス達が消滅していくのか分からず、呆然と見守っている親玉ワーウルフの頭に光属性の攻撃魔術を打ち込んで仕留めました。
ばったりと倒れたワーウルフから抜け出して来たのは、やっぱり見覚えのあるオッサンでした。
『何だ、何が起こっていやがる!』
たった今まで自分が取り憑いていたワーウルフを見下ろしながら混乱しているレイスに、影の空間から踏み出しながら声を掛けました。
「やぁやぁアーブルさん、お久しぶりですね」
『ケント・コクブ……お前の仕業か!』
「あぁ、坑道の崩落は僕らの責任じゃないですよ。レイスの討伐と貴方が取り憑いていたワーウルフを討伐したのは僕ですけどね」
『こいつ……邪魔ばかりしやがって』
「人の事を言えた義理じゃないでしょう。折角、リーゼンブルグが愚王の時代から立ち直ろうとしているのに、邪魔しないでもらえますかね」
『立ち直るだと……笑わせるな! この俺様をコケにしやがった国など滅ぼしてくれるわ!』
多くの坑夫が事故で命を落とした土地柄だからでしょうか、アーブルが感情を昂ぶらせると、どす黒い瘴気のようなものが土から湧き出してきました。
『ケント様、場所を移された方が宜しいですぞ』
「そうだね……送還!」
ラインハルトの助言に従って、アーブルの霊体がいる辺りを送還術でダビーラ砂漠へと移動させました。
僕も影移動で後を追います。
『どうなっていやがる! どこだ、ここは!』
真っ暗闇の空間から、陽光照りつける砂漠へと強制的に移動させられて、アーブルは戸惑っているようです。
「ここはダビーラ砂漠の真ん中ですよ」
『何だと、クソガキ、何をしやがった!』
「送還術を使って、空間ごと貴方を移動させたんです。あそこは空気が悪かったですからね」
殺されたワーウルフの血の臭いが充満し、事故で命を落とした坑夫の怨念が渦巻いているような場所では、レイスの力が増しそうですからね。
『送還術だと……ふざけやがって、だが生前の俺とは違うからな』
「だと思って警戒してたんですけど、あんまり……というか殆ど怖くないですね。アーブルさん、どんな最期が良いですか? さっきのレイスみたいに、ボロボロに崩れて消えますか? それとも、遠い宇宙の果てを彷徨い続けますか?」
僕が光属性も使えて、さっきのレイスが崩れたのは浄化を試みたけど上手くいかなかった結果、霊体が崩壊したこと。
送還術を使えば、何も無い宇宙空間へと霊体を放り出せることなどを丁寧に説明すると、アーブルの顔色が悪くなったように見えました。
まぁ、死んでるから顔色は元々悪いんですけどね。
『何も無い星の世界だと……』
「ええ、空気も無いので霊体が保てるのかも分かりませんけどね」
『ふざけるな……そんな所に送られてたまるか!』
「あっ!」
アーブルは、一瞬僕に向かって襲い掛かる振りをして、次の瞬間背中を向けて逃走を図りました。
人間では追って来られない、上空へ向かって飛んでいきます。
「しまった……いや、遅っ」
背中を向けて逃走を始めた時には焦りましたが、アーブルが移動する速度は風船が空を漂う程度の速度です。
「召喚……」
『ぬわぁ! どうなってやがる!』
「はぁ……もうガッカリですよ。もうちょっと手強い悪役でいてくれませんかね」
『なんだと、クソガキがぁ!』
「浄化……」
『ぐあぁぁぁ……何だ、体が……ふざけるな、手前なんかに屈してたまるか!』
浄化の光属性魔術を浴びせると、アーブルの霊体はボロボロと崩れ始めたのですが、途中で崩壊が遅くなり、とうとう止まりました。
それだけアーブルの恨みが深いのでしょう。
『どうだ、貴様の浄化など俺様には……』
「浄化、上乗せ……」
『ぐわぁぁぁ! 待て、ちょっと待て、協力してやる! 霊体になった今なら何処にだって入っていけるんだ、敵対する奴の情報を……』
「諜報活動なら、うちの眷属の方が優秀だし、何より移動速度が違いすぎるんですよね。てことで、更に上乗せ……」
『待て、ちょっと待て……嫌だ、消えるのは嫌……だ……』
アーブルの霊体は完全に崩れ去り、後には荒涼とした砂漠の風景だけが広がっています。
散々苦労させられた相手でしたが、最期は思っていたよりも呆気ないものでした。
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