第762話 新旧コンビの依頼

 珍しく新旧コンビが、我が家を訪ねてきました。

 何やら頼み事が有るそうですが、どうせろくでもない話でしょう。


 二人を待たせている応接間のドアを開けると同時に、キッパリと言ってやりました。


「性病の治療なら、お断りだよ!」

「病気なんて貰ってこねぇよ!」

「そうだぞ、最近は娼館には行ってねぇよ!」


 新田も古田も、即座に病気は否定しました。


「いや待って、唯香に汚い物なんて見せられないから、やっぱり僕が治療するよ。梅毒? それとも淋病?」

「だから病気じゃねぇって言ってんだろう!」

「そうだぞ、汚いのは和樹のだけだ」

「ふざっけんな、毎日入念に洗ってるわ」

「使う予定は無いけどな」

「お前もだろう、達也」

「二人とも、ふざけてないで本題に入ろうよ」

「誰のせいだ、誰の!」

「そうだぞ、汚いのは和樹だけだ」

「いい加減にしろ、話が進まねぇだろう」


 どうやら新旧コンビの目的は、性病の治療ではないようです。


「性病の治療じゃないとすると……女の子は紹介しないよ」

「ちげぇよ、そんな話のために来たんじゃねぇ」

「和樹の言う通り、今日はマジな話で来たんだ」

「そっか……紹介しなくていいのか」

「いや……紹介してくれるなら、喜んで紹介してもらうけど……なっ!」

「勿論、折角の紹介を断る訳にはいかないよな!」

「いや、だから紹介しないよ。マジな話で来たんでしょ」

「いやいや、そこは紹介しろよ。五人も嫁がいるんだから、俺らにも幸せを分けろよ」

「そうだぞ、和樹のは汚いから俺だけでも……」

「手前、達也、裏切る気か!」

「裏切る気は無いけど……和樹、良く洗った方がいいぞ」

「洗ってるつーの、毎日ゴシゴシしごいてるつーの!」

「二人とも、真面目な話じゃないなら帰ってくれるかな」

「誰が脱線させてると思ってんだ、お前だぞ、国分!」

「いやぁ、そんなに褒められても……」

「褒めてねぇよ!」

「1ミリも褒めてねぇ!」


 二人とも、肩で息をするほど必死に突っ込んでくるので、そろそろ勘弁してあげましょう。


「で……頼みって?」

「はぁ、ようやくかよ……」


 新旧コンビは、さすがにウンザリした表情を浮かべた後で、古田が話を切り出しました。


「国分のコボルトを貸してくれないか?」

「えっ、うちのコボルト隊? 何のために?」

「土属性の魔術を強化したいんだ」

「なるほど……でも、具体的にどう強化したいの?」

「地中の様子を探知したり、仮設の小屋とか作れるようになるとか……」

「その程度なら、地中に魔力を流してイメージすれば出来るでしょ」

「いやいや、そんな簡単には……って、まさか国分出来るのか?」

「達也、そういえば前にマールブルグまでも護衛を一緒にやった時、土属性の魔術でトイレ作ってたじゃん」

「そうだよ、翌朝出発する時には、跡形も無く埋め戻してた」


 そういえば、そんな事もあったような。

 近藤が食ったとか、食われたとかいうマールブルグの女冒険者が一緒の時だったかな。


「古田は自主練してないの?」

「やってるけど、硬化とか、地均しがメインで……」

「練習しないと上手くはならないんじゃない?」

「だよなぁ……てか、どうやって練習すればいいんだ?」

「そりゃあ、土を掘り起こしても怒られない所で、土に魔力をグワっと流して、ググっと形作って、シャキーンって固めればいいんだよ」

「分かんねぇよ! グワっとか、ググっとか、擬音多すぎなんだよ」

「でも、こう……ギュッ、ガッ、バキーンって……」

「分かるか!」


 せっかく僕が親切、丁寧に教えてあげてるのに、聞く気が無いんじゃ上達しないぞ。


「もっと具体的に説明してくれよ」

「うーん……そう言われてもなぁ、魔術って感覚的なものだから具体的にって言われても困るよ。てか、古田は硬化のやり方とか説明できる?」

「それは……詠唱しながら完成後の硬さをイメージして、硬化させる物に魔力を流すんだよ」

「でしょ? ギュッ、ガッ、バキーンじゃん」

「どこがだよ、詠唱してねぇじゃん」

「そっか、詠唱か……てか、うちの眷属は詠唱なんかしないよ」

「げっ、マジ?」

「てか、魔術を使う魔物が詠唱してるのを見た事ある?」

「それは……無いな」


 この世界には魔術を使う魔物が存在していますが、詠唱なんかしません。

 当然、僕の眷属たちも魔術を使う時は無詠唱です。


「ていうか、うちの眷属には僕の説明でちゃんと伝わってるし、たぶん習うとしても同じだと思うよ」

「マジかぁ……」

「とりあえず、自主練の方法を考えてみたら? 例えば、精巧な建物の模型を作ってみるとか、土の中を探知してみるとか」

「土の中の探知って言われても、もうちょい何かイメージ的なものは無いのかよ」

「そうだねぇ……僕の場合は魔力をレーダーにする感じで広げていくんだけど……よく丸い画面に時計の針みたいに線が回って、物体が描き出されるみたなのあるじゃん」

「おぉ、映画とかゲームの戦艦のレーダーみたいなのか?」

「そうそう、あんな感じを2Dじゃなくて3Dでやる感じ」

「なるほど……そういう説明が欲しかったんだよ、ギュっとか、ガチっとかじゃなくてさ」

「ホント、国分は説明が雑だからな」


 新田まで一緒になって僕をディスるとか、ホント失礼だよね。


「てかさ、空間把握の自主練だったら家の中だって出来るじゃん」

「えっ、どうやって?」

「こっちの建物は殆ど土壁でしょ、魔力流せばどういう形になってるか把握できるし、地下まで伸ばせば下水の位置とかも分かるよ」

「うぉ、マジか!」

「古田は工夫が足りないんだよ」

「そうだぜ、達也。そんなんじゃ、いつまで経ってもダンジョンに潜れないぞ」

「えっ? 二人ともダンジョンに潜る気なの?」


 新田がポロっと口にしたダンジョンという言葉を咎めると、二人はあからさまにヤバいという表情をしました。


「ダンジョンはリスク高いから行くなって散々忠告してるよね?」

「いや、今すぐ潜るとかじゃなくて、まだ情報を集めてる段階だし……なっ」

「そうそう、ギリクがちょっと儲けて調子に乗ってるから、俺らはちゃんと調べてからじゃないと……なっ」

「ギリクが儲けて調子こいてるって?」


 新旧コンビの話では、ギリクが何の準備もせずに行ったダンジョンで、運だけで宝石の原石を掘り当てたのを自慢しまくっているようです。


「駆け出しの連中を集めて、お前ら潜るなよ、潜るなよ、絶対潜るなよ……とか煽ってるからヤバいと思ったんだよ……なっ」

「そうそう、あんなのに乗せられてダンジョンに行ったら死ぬのは目に見えてるから、念のためドノバンさんにも報告しといたんだ……なっ」


 二人の話を聞く分には、分別無しにダンジョンに突撃しようと考えている訳では無さそうです。

 僕としては、準備を調えてもダンジョンには行ってもらいたくないんですが、潜りたくなる気持ちは理解できます。


 それに、いくら様々な支援をしているからと言って、みんなの行動を制限する権利は僕にも無いはずです。


「とりあえず、ダンジョンに潜る計画を立てるのは止めないけど、実際に潜る前には必ず声を掛けてよ。本当に準備が調っているのかチェックするからね」

「あぁ、俺らも準備を調えずに潜るような馬鹿な真似はしねぇよ」

「そうそう、達也にはいないだろうけど、俺には運命の女性がどこかで待ってるからな」

「俺にだっているに決まってんだろう。てか、絶対に見つけ出してやる」

「見つからないと思うぞ、達也の小指に繋がっていた赤い糸は、俺が風の刃で切り捨てておいたからな」

「手前ぇ、何しやがってんだ! お前の運命の糸も俺が切ってやる!」

「はっはっはっ、土属性魔術じゃ無理だな」

「僕も無理だと思うな」

「うぇ、国分まで和樹の味方するのかよ!」

「いやぁ、新田の小指には、そもそも運命の糸が繋がっていないから切りようがないと思うよ」

「なるほどぉ!」

「なるほどじゃねぇ!」


 まぁ、僕の星属性の魔術をフルに使っても、二人の運命の糸なんて見えないんだけどね。

 てか、用事が済んだら、さっさと帰りやがれ。

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