第761話 新旧コンビの推察

※今回は新旧コンビの新田和樹目線の話になります。


「駄目だな、ありゃ。中身スッカスカだ」

「全くだ」


 ギルドからの帰り道、達也の意見に激しく同意して頷いた。

 俺と達也は、さっきまでギルドの酒場でギリクの話に耳を傾けていたのだが……。


「あんなん宝くじに当たるレベルの話じゃねぇか」

「だな、自分の命を賭けるには分が悪すぎる」


 ギリクがダンジョンで宝石の原石を掘り当てたのは本当らしいが、そこまでの過程が曖昧だ。

 というか、単なる偶然が重なっただけのような気がする。


「和樹、ギリクの奴、何か狙ってねぇか?」

「えっ、どういう事?」

「何かさ、無駄に自慢してるって言うか、上から目線っていうか」

「あぁ、それは確かにあるかも。でも、何のためだ?」

「あれじゃねぇの? ペデルのオッサンに若手の人気を奪われて、オスカーの所からも追い出されたっていってたじゃん」

「あぁ、パシリを手に入れようって魂胆か」


 達也の言う通り、ギリクの話しぶりは妙に鼻についた。

 元々、無駄に偉そうにしているのだが、それに加えて先輩面というか、指導してやる……みたいな感じが透けて見えた。


「そうなのか? てか、あんな話しぶりじゃ逆に反感買いそうだけどな」

「でも、周りで聞いてた若い連中とか、すげぇ、すげぇって連発してたぞ」

「あれは、ギリクをおだてて一杯奢らせようとしてたんじゃねぇの?」

「そういう連中もいたけど、純粋にダンジョンすげぇみたいなのも居たじゃん」

「それは、ダンジョンすげぇで、ギリクすげぇじゃないだろう」

「まぁな、てか一層落ちぶれた感じしなかったか?」

「だな、うだつの上がらない中年冒険者って感じだったな」


 国分に頭を下げて、俺たちの特訓に参加していた頃は、このまままともになるのかと思ったのだが、また道を踏み外した感じだ。


「あれで女がいるなんて、世の中おかしくねぇか?」

「確かに……」


 達也の意見には百パーセント同意だ。

 ギリクは、オスカーとパーティーを組んでいたヴェリンダとかいう女と同棲しているらしい。


 ダンジョンでの偶然の稼ぎを別にすれば、俺たちの方が確実に、しかも堅実に稼いでいるはずなのに彼女ができないのは納得がいかない。

 俺たちの悪評が流れているという話だが、評判だったらギリクの方が悪いと思うのだが……。


「てか、ギリクの話は全く参考にならなかったし、別の誰かからダンジョンの情報仕入れないと駄目じゃね?」

「そうは言うけど、達也は誰か当てがあるのか?」

「全然無いな。ダンジョンで活動する連中って、あんまりギルドの酒場にいねぇじゃん」

「だよなぁ……ダンジョンの近くか、あとは歓楽街?」

「歓楽街の飲み屋とか危ねぇからなぁ……」

「だよなぁ……」


 俺らが飲みに行くのは倉庫街の飲み屋で、安さとボリュームが売りの店だ。

 そこに出入りしているオッサン連中の話によれば、普通の飲み屋だと思って入ったらぼったくられたり、得体の知れない酒を飲まされて、気付くと金を抜かれて道端で寝てる……なんて事になるそうだ。


 まぁ、全部の店が悪徳という訳ではないのだろうが、見分け方なんて分からないし、そこに行ったとしても必ずダンジョンの情報が手に入る訳ではない。


「問題は、いかにして無事に戻って来るかだよな?」

「浅い階層の地図は売ってるんだよな?」

「一応な、どこまで正確なんだか分からないけどな」


 達也の言う通り、問題なのは正確性だ。

 俺達はダンジョンに入った事がないが、洞窟みたいな空間だとしたら、何を目印にして進み、何を目印にして戻れば良いのか分からない。


「てか、マッピングは土属性の人間がやるって聞いたぞ。俺らの中で土属性は達也だけだからな」

「分かってるけどさ、どうやれば良いのか分からねぇよ」

「それは、こう両手を地面に付けて、魔力を流して地中の様子を探る……みたいな感じじゃねぇの? 知らんけど……」

「気楽に言うなよな」

「でもよぉ、お宝を探すのも土属性の魔術なんだろう? 達也が覚醒しないとダンジョンに行っても意味無くね?」

「そんなプレッシャーかけんなよな……てか、土属性の使い手どこかにいないか?」

「土属性、土属性……あっ!」


 土属性の魔術を使える者……と考えていたら、ふっと頭に浮かんだ。


「居たか? 誰だ?」

「居た、国分の眷属」

「げっ、コボルトか……でも、あいつらダンジョンに役立つ魔術の使い方とか出来るのか?」

「さぁ? 分からねぇけど、もしかすると普通の冒険者では考え付かないような魔術の使い方とか知ってるかもよ」

「おぅ、魔物独特の魔術の使い方か。うん、なんかチートな匂いがするな」

「だろう? ただ、問題は国分が許可を出すかどうかだろ」

「あぁ、あいつ鬼畜なクセして俺らが危ない事をやるの許さないマンだからな」


 達也の言う通り、国分は俺達がダンジョンに潜るのには反対の立場だ。

 その国分が、俺達がダンジョンに潜るための技術を眷属に教えさせるとは思えない。


「何か餌で釣るか?」

「八木か?」

「八木を餌にすれば食いついて来そうだけど、八木も忙しそうだからな」


 八木が始めたレンタサイクル事業は、鳴かず飛ばずの状態が続いていたようだが、ようやく芽が出始めたらしくバタバタしている。

 下手に邪魔すると後が面倒そうなので、今は八木を巻き込まない方が得策だろう。


「なぁ和樹、ここは正面突破じゃねぇか?」

「正面突破って、ダンジョン行くから教えてくれって頼むのか?」

「いや、そこまでダイレクトだと、うんって言わない気がするから、ダンジョンに行けるかどうか分からないけど、レベルアップのために教えてくれ……みたいな感じで頼めば、うんって言うんじゃね?」

「それか、ダンジョンに潜る時には事前に相談するって条件付けるのはどうだ?」

「おぅ、それいいかも。準備万端整えて、こんな日程で潜るぞって言っておけば、コボルトの護衛とか付けてくれんじゃね?」

「国分頼みは情けねぇけど、もしもの保険が掛かってるなら安心だな」

「おうよ、冒険者たるもの利用できるものは全て利用しないとな」


 保護者付きでダンジョン探索とか、格好悪いにも程があるが、一歩間違えば命を落とす状況で保険があるのと無いのとでは大違いだ。


「あっ……」

「どうした、達也」

「ギリクの狙いは、これかも」

「これって?」

「ギリクの奴、俺は稼いだから当分潜らないが、お前ら調子に乗って潜るなよって何度も言ってたじゃん」

「潜るなよ、絶対潜るなよ……って、ネタ振りか! 自分は潜らないで誰かを潜らせる気か!」

「じゃねぇの? そんで、あわよくば情報を聞き出そうとか考えてんじゃね? だって、何も知らなそうだったじゃん」

「うわぁ……クズだな」


 俺らも国分を利用しているという点ではギリクの事を言えた義理ではないのだが、それでも利用している人間を危険に追い込むような真似はしていない。


「これ、ヤバいんじゃねぇの? いくら冒険者が自己責任って言ってもよ」

「でも、ギリクは一応潜るな……とは言ってるからなぁ……」


 達也の言う通り、ギリクは潜れとは言っていない。

 言っていないが、潜るように唆して、しかも逃げ道を用意しているところがクズい。


「どうする? ドノバンさん辺りに報告しておいた方が良くねぇ?」

「んー……なんかチクるみたいで気が進まねぇけどな」

「でもよ、放っておいたらマジでダンジョンで遭難する奴が続出すんじゃね?」

「でも、まずは講習をパスしないと駄目だろう。講習に人が押し掛ければドノバンさんなら気付くんじゃね?」

「そっか……んー、でもなぁ……やっぱ俺、ちょっとギルドに戻るわ」

「はぁ……国分のお人好しが移ったんじゃね?」

「かもな。でも、お人好しが移るなら、ハーレム体質も移るんじゃね?」

「おぅ、そうか! んじゃ、俺も行くぜ。彼女ができるなら、お安い御用だ」


 俺と達也はギルドに戻り、営業を終えたカウンターの奥に声を掛けて、不機嫌そうな顔つきで出て来たドノバンさんに事情を話し、更に不機嫌そうにさせてからギルドを出た。

 俺たちは悪くないよな……たぶん。

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